前回:自動運転の普及と住宅
完全自動運転が普及した社会の観光を想像してみたい。
観光の場合も、たまたま時間が空いたので、日帰りでどこかに行きたいと希望を伝えれば、クルマが観光コースをいくつか提示してくれ、連れて行ってくれる。
特に目的なくドライブするのと同じ気楽さで、観光を楽しむことができる。
そうなると、やはり多くの人が有名な観光地へと出かけていくかもしれないが、筆者は案外、あまり知られていない地域に出かけて行く人が増えるような気がする。
今でも普通列車に乗って行けるところで、気軽にまち歩きを楽しむ人が増えていると聞く。
そのような人は、完全自動運転のクルマが連れて行ってくれるなら、電車では行きにくい場所に行ってみようと考えるのではないか。
現在であれば、最寄り駅から路線バスで20~30分ほどかけて行かなければならないところだ。そういう場所は、郊外の住宅地か農村集落地、場所によっては、中山間地域も含まれてくる。
クルマを降りれば、そこには、大型観光バスを仕立てて大挙して行くような観光スポットはないものの、都市部に比べ自然豊かな風景がある。
決して教科書に載るようなコンテンツではないものの、クルマが教えてくれた歴史や文化を感じる場所を巡りながら、ぶらぶら歩くのだ。
道に迷っても大丈夫。呼べばクルマが迎えに来てくれ、おなかがすけば、普段は地元の人しか行かない、その地域のソウルフードを出してくれる飲食店に連れて行ってくれる。
1960~70年代に開発された郊外の住宅団地も、完全自動運転が普及している頃には十分歴史や文化を感じる場所になっているはずだ。
都市部のマンション暮らしの若い人が、郊外の住宅団地を散策に訪れることもあるだろう。
このように考えると、現在では観光地と認識していない地域の交流人口が増える可能性があることに気付く。
そこで、交流人口を増やしたいと望む地域、自治体は、完全自動運転の普及に伴って、それまで観光をターゲットとしていないエリアについても、観光につながるコンテンツを開発していくことが重要になる。
そのコンテンツを完全自動運転のクルマが活用してくれるように、移送サービスを提供する企業に積極的にプロモーションすることになるだろう。
観光を巡り、地域間の競争も激しくなるかもしれない。
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(2017年1月10日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 准主任研究員