和食の世界遺産登録で考えたこと-グローバル標準化と現地適応化の視点から(平賀 富一)

国連教育科学文化機関(ユネスコ)により「和食;日本人の伝統的な食文化」が無形文化遺産に登録されることが決定された。今回の登録により、日本の食文化が国際的にさらに評価され、日本人自身が和食の良さを再確認し、外国でも和食のファンがさらに増えることは喜ばしいことである。
|

13年12月4日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)により「和食;日本人の伝統的な食文化」が無形文化遺産に登録されることが決定された。日本からの同登録は、歌舞伎や能楽などに続き22件目とのことであり、食関連の無形文化遺産では、既にフランスの美食術、地中海料理、メキシコの伝統料理、トルコのケシケキ(麦粥のようなもの)の伝統が登録されていた。

今回の登録により、日本の食文化が国際的にさらに評価され、日本人自身が和食の良さを再確認し、外国でも和食のファンがさらに増えることは喜ばしいことである。また外国人観光客の増加や農水産物の海外輸出拡大の契機となることも望みたい。

同時に、そのニュースを聞いて考えたことがある。それは国際マーケティングにおける重要命題である「グローバル標準化」と「現地適応化」に関するものである。国際的に製品・商品やサービス(以下「製品・サービス等」)を提供する上では、グローバルな観点で対象製品・サービス等を標準化・共通化することが効率や質の確保という観点から求められるが、同時に製品・サービス等が提供される各国・地域の市場における消費者のニーズを満たす適応化が求められ、その両立・バランスのあり方が重要であるということである。

和食が健康食であり見た目にも美しい等の理由から、今や海外の多くの国で一般的に知られ人気のある料理となっており、海外の日本食レストランは、農水省の推計で13年3月時点で約55,000店あるといわれている。中には、日本人から見て「これが和食なのか」と驚くような料理や調理法が見られる機会も増えていることから、今回その標準化が行われることの意義は大きいといえる。

他方、近年、アジア新興国を含む海外の高級な日本料理店でも、現地の富裕層・中間層の顧客が多数を占めるようになっており、それらが支払う平均単価が日本人の現地居住者や観光客よりも高額であり、現地顧客の嗜好に合わせて料理の味や調理法を現地適応しているケースが増えていると聞く(今回の世界遺産の件には該当しないが、参考になる事例として、日本発のカップヌードルも、外見は各国のものが類似しているが、味や麺の長さなどを現地のニーズ・嗜好に合わせて変えているということもある)。

今回の登録では、(1)多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、(2)栄養バランスに優れた健康的な食生活、(3)自然の美しさや季節の移ろいの表現、(4)年中行事との密接な関わりの4点がその要件とされているが、実際に調理し料理として提供される場合には多くのバリエーションがありうるといえる。政府や和食提供者などの関係者は、広報・普及活動に一層注力することが予想されるが、外国人の多くを日本人の嗜好ややり方に合わせるよう変えることは文化的な差異もあり容易ではないだろう。その一方で、海外の和食レストランにおいて、より多くの顧客を満足させるために現地の嗜好に合った調理法や料理を工夫するという動きも止めることはできないと考えられる。

世界遺産への登録による標準化の効果に期待をしつつ、どのような現地適応のハイブリッドな調理法や料理が出現するのかも興味深いポイントである。

(この記事は、2013年12月12日の「ニッセイ基礎研究所 研究員の眼」より転載しました)