「どん底よりも底」 ― 届かない被収容者の声  東日本入国管理センター

東日本入国管理センターに収容されていた男性は、収容されていた2年間を「どん底よりも底」と振り返る。
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取材・執筆・撮影 : 村上友里

 東日本入国管理センターに収容されていた男性は、収容されていた2年間を「どん底よりも底」と振り返る。茨城県JR牛久駅からバスで25分、林道を進んだところにある東日本入国管理センターは、全国に3つある入国管理収容施設の中で、収容人数が最も多い収容施設だ。その施設内での生活に、被収容者は心身のストレスを抱えている。今年3月には、被収容者2名が相次いで死亡した。東京弁護士会は、2名の被収容者が適切な医療措置を受けられずに死亡したとして、同センターに対し、第三者機関による検証と再発防止を求めている。

=写真は茨城県牛久市久野町にある法務省東日本入国管理センター。

面会した6人の被収容者 体調不良を訴える

 Jスクール記者は、2013年11月6日、支援団体「牛久入管収容所問題を考える会」の面会活動に同行し、東日本入国管理センターを訪れた。面会時間は1回20分。その日、午前中に面会をしたトルコのクルド人男性は、パン、卵、牛乳にアレルギーがあるという。しかし、収容所内で出される給食は、アレルギーの原因となる食材も含まれており、彼の身体中に出たじんま疹はずっと治らないそうだ。半袖のシャツから見える腕にできた赤い斑点が痛々しかった。

 午後に面会したカメルーン人男性は、政治的理由による迫害を逃れるために、10ヶ月前に来日。しかし、成田空港で不法入国を入管に摘発され、そのまま収容施設に収容された。男性は、収容される前から足を骨折しており、その継続的な治療をするため、病院に連れて行ってほしいと職員に訴え続けている。しかし、骨折は放置されたままだ。「足が痛む。好きなサッカーもできない」と話す。

 面会した6人全員に同じ質問をしたわけではないが、少なくとも3人の被収容者は不眠だと話した。母国での生活について笑顔で話していた人も、収容施設の生活の話になると、顔を曇らせた。

職員の差別的な態度にストレス 不服申立て受け入れられず

 今年4月には、茨城県つくば市内で、東日本入国管理センターに収容された経験を持つGさんに、施設内での生活と不服申立制度について話を聞いた。

 バングラデシュ出身のGさんは母国で反政府運動をしていたことから政治的迫害を受け、留学ビザで来日した。来日当初は専門学校に通っていたが、来日して数年後に、バングラデシュの裁判で自分自身の終身刑が確定したこと、身内の不幸、日本での孤立した生活などが重なり、精神的に追い詰められ、「気づいたらビザが切れていた」という。Gさんは難民申請をしたが、ある日、入国管理局の職員が家に来て超過滞在の摘発を受けた。その後、東日本入国管理センターに収容された。

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【写真:収容所での生活を語るバングラデシュ出身のGさん】

 収容中にGさんは不服申し立てを行った。その内容は、施設内の入国警備官の嫌がらせだった。その警備官は、Gさんが頼んでも湿布薬を与えない、清潔な毛布をくれないなど、他の警備官に頼めば快く応じてくれることをしてくれなかった。「その職員は僕のことを毛嫌いしていた。収容されている外国人みんなに対して見下すような態度をとっていた」。差別的な態度に対するストレスに耐えられなくなったGさんは、自分と同じようにその警備官に対して不満を持つ他の被収容者と共に不服申し立てをした。数日後、収容施設のブロックごとに行われる朝礼で、ブロックリーダーの警備官がGさんに近寄り、こう言った。「調べてみたけど、あなたの言っている問題は根拠がなく、信ぴょう性がない」。申し立ては受理されなかった。

 Gさんは約2年間収容され、現在は保証金を支払って一時的に出所が許される仮放免中の身だ。収容されていた時には、ストレスや不衛生な環境から体調を崩した。「施設内の医者に腹痛や胃痛の体調不良をうったえても、精神安定剤と睡眠薬が入った薬を大量にもらうだけ」。1つ1つ思い出すように、収容施設での生活の様子を語る。Gさんは強い口調で憤っていた。収容施設内で過ごした2年間は「どん底よりも底。どん底はやればなんとか抜け出すことができる。(収容施設内では)何もすることができない。人生のなかで忘れたい2年間」と小さく呟いた。

収容者2人死亡  弁護士会などが抗議の声

  今年3月下旬に、東日本入国管理センターでイラン人とカメルーン人の被収容者2人が相次いで死亡した。牛久警察署は、イラン人男性(当時33)の死因について、司法解剖の結果、低酸素性脳症だと発表した。食べ物をのどにつまらせ、低酸素性脳症になったとみている。カメルーン人男性(40代)の死亡については、「個別案件のため、警察からは捜査状況を公表していない」という。法務省入国管理局は、カメルーン人の死因について「(搬送先の)病院で病死した。病名は分からない」と話し、学生記者に対してそれ以上の「公式な見解は言えない」と答えた。朝日新聞の報道(2014年4月5日茨城県版)によると、カメルーン人男性は、搬送される3日前に体調不良を訴えており、その後、意識不明となって搬送先の病院で死亡した。

 東京弁護士会は、2名の被収容者が死亡したことについて、4月23日に会長声明を発表した。声明では、2名の被収容者が、適切な医療措置を受けられずに死亡したと指摘し、法務省入国管理局と同センターに対して、第三者機関による検証と再発防止策を求めている。収容者の支援団体「牛久入管収容所問題を考える会」も、法務省入国管理局に申し入れ書を提出。医者の常駐や薬の処方に慎重を期すことなどを求めた。これらの抗議、改善を求める声に対し、東日本入国管理センター総務課は、「現在調査をしているところ。現時点では、東日本入国管理センターの措置に不手際があったとは考えていないが、より良い方法がなかったのかを調査中だ」と説明している。

(2014年6月21日「Spork!」より転載)