HIV/エイズの治療は大きく進歩して、治療をすれば感染前と変わらない生活を送れるようになりました。
それでも、「エイズになったら死んでしまう」「治療法はない」と、思っている人も少なくありません。
理由の一つには、正しい知識が知られていないことがあります。
本当に死に至る病なの?感染したらセックスはできなくなる?
改めて知っておきたい、HIV/エイズについての9のことをまとめました。
1. HIVとはウイルスのこと
HIVはウイルスです。正式名称は、ヒト免疫不全ウイルス (Human Immunodeficiency Virus)と呼ばれます。
治療を受けていない場合、このウイルスは血液などの中で増殖して、体を病気から守るシステムである免疫を攻撃します。
そして、免疫力を徐々に弱めていきます。
エイズウイルスという言葉を使っているケースも見受けられますが、エイズウイルスというものは存在しません。
2. HIV=エイズではない
HIVに感染して免疫が壊されると、健康な時にはかからなかった病気を発症してしまいます。
ニューモシスチス肺炎など、代表的な23の合併症のいずれかを発症した時、「エイズを発症した」といいます。
エイズを発症するまでの年数は個人差があり、1年以内で発症する人もいれば15年経っても発症しない人もいます。HIVに感染したからといって、エイズになったわけではありません。また、適切な治療をするとエイズの発症を抑えられます。
3. 正しい治療で、感染率は事実上ゼロ
HIVはもともと、感染力のとても弱いウイルス。体に接触する、咳やくしゃみに触れる、といった日常生活の接触で感染する危険性はありません。
さらに治療が進化して、抗ウイルス薬を毎日飲み、検査をしても体内でウイルスがみつからないレベル(この状態を検出限界値以下と言います)が半年間続けば、他の人への感染は事実上ゼロになるという研究結果が出ています。この場合も、継続した検査と治療が必要です。
今よりさらにHIV/エイズへの恐怖心や同性愛嫌悪が強かった1980年代、「エイズ患者に触れることで感染する」と誤って信じられていました。
この時代、イギリスの故ダイアナ妃は手袋をせずにエイズ患者と握手をして社会を驚かせ「エイズは触るとうつる」という考えは間違いだと伝えました。
それでは、HIVはどんな時に感染するのでしょうか? 主な感染経路となっているのは「性感染」「血液感染」「母子感染」です。
「性感染」は、男性の精液や女性の膣分泌液が、セックスなどでパートナーの膣や肛門や口に入った時に粘膜を通して感染します。感染を防ぐためには、コンドームが有効です。
「血液感染」は、注射器を共用することや、医療現場で使用済みの注射針を医療従事者が誤って自分に刺してしまうなどの「針刺し事故」で感染する可能性があります。
「母子感染」は、妊娠中の子宮内での感染、出産時の産道での感染、母乳による感染があります。
唾液では感染しませんので、一緒に鍋を食べる(同じ皿の料理を共有する)、といったケースでは感染しません。
いずれの場合も、治療によってHIV陽性者のHIVが低く抑えられていれば、体液に接触しても感染しません。
4. HIV/エイズは死の病ではない
エイズの治療法がなく、多くの人が亡くなった時代もありました。
しかし治療の進歩に伴い、平均余命も延びています。2017年のイギリスの研究では、最新の治療を受けた人の平均余命は、感染していない人の平均余命とほとんど変わりませんでした。
5. HIVに感染しても、仕事は続けられます
HIVに感染していても、通院と服薬で体調を維持でき、感染前と同じ生活を送れるようになっています。
HIV陽性者1,786名を対象にした調査では、HIV陽性者のうち81.4%が働いていて、そのうち89.4%は、週に5日以上働いています。
HIV陽性とわかっても働き続けられるし、老後も考えられる時代です。
6.HIVに感染した後も、セックスもできます
HIVに感染しても、セックスはできます。HIVは感染力の弱いウイルスなので、コンドームをしていれば相手への感染はほとんどありません。
さらに、治療で検出限界値以下になっていれば、コンドームをしていなくても相手への感染を事実上ゼロに抑えられることがわかっています。
これは、HIV/エイズへの差別や偏見を無くすためには大切なメッセージですが、コンドームが必要ないという意味ではありません。
コンドームは、梅毒やクラミジアなどHIV以外の性感染症を防ぐためにも大切です。自分とパートナーの体を守るために、セックスの時にはコンドームを正しく使うことが大事です。
7. 妊娠・出産もできます
HIV/エイズ治療薬や生殖補助医療技術の進歩により、生まれてくる子供やパートナーへの感染リスクを抑えて、妊娠・出産することも可能になってきました。
男性がHIVに感染している場合は、薬で血液中のHIVの量を減らし、精子からウイルスを取り除いた上で体外受精することで、感染リスクを抑えられます。
女性がHIVに感染している場合も、薬で血液中のHIVの量を減らした上で、帝王切開で血液への接触をなくし、粉ミルクで育てることによって、生まれてくる赤ちゃんへの感染リスクを下げられます。
HIVに感染した人の出産は珍しくなくなっています。上記のような感染リスクを下げる手段を取ることで、生まれてくる子どもへの感染は事実上ゼロになっていると感染症科医の来住知美氏は言います。
妊娠を望む場合は、専門の医師に相談することで、より安心して出産に備えられます。
8. HIVの検査は、保健所や医療機関で受けられます
HIVの検査は、全国の保健所や自治体が作った検査施設、それに医療機関で受けることができます。保健所では無料・匿名で検査が受けられますし、HIV検査に関する相談もできます。
病院や保健所の他に、今広まりつつあるのが郵送キットによる検査です。郵送キットは、インターネットなどで購入でき、血液を数滴ろ紙に採った後に返送先に送り、結果をインターネット上で確認します。
ただあくまで簡易な検査なので、陽性と判定された場合は保健所や医療機関で検査を受ける必要があります。
9. 早期検査と早期治療が大切です
HIVの感染がわかった人は、少しでも早く治療を受けるよう勧められています。
エイズ発症前にHIV感染を発見できれば、エイズ発症を予防できるだけでなく、平均余命を延ばし、HIV以外の病気にかかるリスクを下げられることがわかっています。
HIV治療には健康保険が適用されるため、医療費の3割負担で治療が受けられます。また自己負担限度額もあり、収入に応じて低い費用で治療が受けられます。
さらに「免疫機能障害」として身体障害者手帳が発行されると、医療費の助成が受けられ月額で0〜2万円で治療できます。
ただ、この助成を得るためには一定の基準を満たす必要があり、認定までに1~2カ月かかってしまいます。
HIVは感染がわかれば一刻も早い治療が望まれるので、この期間をなくすことが課題となっています。
監修:感染症科医 来住知美氏