5月31日は世界禁煙デーという、世界保健機関(WHO)が制定した、禁煙を推進するための記念日である。わが国でも、厚生労働省やいろいろな自治体主催のイベントが予定されている。
JTが毎年行っている喫煙率調査によると、わが国の2012年の喫煙率は男性32.7%、女性10.4%で、喫煙人口としては男女合わせて推計2216万人にも及ぶ。5年前(2007年)の調査結果(男性40.2%、女性12.7%、推計喫煙人口2700万人)と比較すると減少傾向ではあるが、特に男性の喫煙率はまだかなり高いレベルにある。
タバコの有害性は、すでに科学的に十分に明らかにされている。肺がん、喉頭がんなどの悪性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心筋梗塞、クモ膜下出血などのリスクを数倍上げることにより、年間約13万人、喫煙が原因で死亡していると推計されている(Ikeda N, Shibuya K, et al. PLoS Med. 9:e1001160, 2012; PubMed ID: 22291576)。また、寿命への悪影響を3万4000人以上を対象に50年間にわたって前向きに調べたイギリスの有名な研究(Doll R, et al. British Medical Journal 328:1519, 2004; PubMed ID: 15213107)では、喫煙は寿命を約10年短縮することが示されている。また、禁煙によって肺がん発症率が下がることについての疫学データも確立している(日本禁煙学会のサイトに詳しい)。
では、タバコの有害性がこれだけ広く認知されているにも関わらず、相変わらず喫煙率が高いのはなぜなのか?――それは、タバコは単なる嗜好品ではなく、喫煙習慣というのは「ニコチン依存症」という「薬物依存症」だからである。筆者も禁煙外来を担当していたことがあるが、「ニコチン依存症」というのは実に治療が難しい、厄介な病態である。
上の図は禁煙補助薬チャンピックス(バレニクリン酒石酸塩)のインタビューフォームに載っている臨床試験データであるが、禁煙達成率は時間経過とともに下がっていき、1年後の時点で禁煙を達成できていた人は半数を下回っている。すなわち、一旦「ニコチン依存症」となってしまうと、数カ月という長期間の禁煙によっても、その状態から抜け出せない人の方が多いというのが現実なのである。
タバコの有害性とともに、このような「ニコチン依存症の恐ろしさ」について、もっと認知度を高め、若い世代に新たなニコチン依存症患者を作らない!という断固たる意志を社会全体で共有すべきだと思う。