日本に50人しかいない専門医‐少子化に立ち向かう

みなさんは「男性不妊症」という言葉を聞いたことがありますか? 妊娠を希望しながら一定期間妊娠できない「不妊」。これまでは、一般的に妊娠が成立しない期間が「2年間」であれば不妊とされてきました。
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みなさんは「男性不妊症」という言葉を聞いたことがありますか? 妊娠を希望しながら一定期間妊娠できない「不妊」。これまでは、一般的に妊娠が成立しない期間が「2年間」であれば不妊とされてきました。しかし最近、この期間が「1年間」に短縮され、話題になりました。ここには、早期に不妊治療につなげられるようにという意図があります。

「不妊」という言葉からは、女性の病気であるとイメージする方が多いのではないでしょうか。しかし、「男性不妊症」は男性に原因がある場合の不妊症です。WHO(世界保健機関)によれば、約半分の不妊症カップルのケースで男性にも原因があるとされており、意外にも多いのです。不妊症が女性だけの問題であると誤った認識をしていると、その原因が男性にあった場合に、何の改善もなくただただ時間が過ぎてゆくだけです。

湯村寧先生は日本に50人弱しかいない泌尿器科生殖医療専門医の一人であり、日々男性不妊の治療を行い少子化に立ち向かっておられます。湯村先生による男性不妊についてのお話をまとめました。

不妊症は夫婦の病気

約半分の不妊症カップルのケースで男性にも不妊の原因があるとされているにもかかわらず、男性不妊症の存在は浸透していません。「不妊症は女性の病気ではなく夫婦の病気」と湯村先生はおっしゃいます。まずはこの正しい認識を持ち、原因の早期発見、そして早期治療へと繋げましょう。

男性不妊かもしれないと思ったら、クリニック(特に生殖医療専門医がいるクリニック)で診察を受け、検査を受けてみましょう。

(1:精液検査とは、男性不妊に必須の検査-動いている精子がどれだけいるか 2:精液検査についてのよくある疑問)自治体によっては「不妊相談」を開設しているところもあり、湯村先生は横浜市の不妊相談コーナーに協力しておられます。

男性不妊の原因とリスク

原因としては以下の4つに大別されます。

1.精子を造る段階に問題がある(造精機能障害):83%

2.精子が外に出て行く通路に問題がある(精路通過障害):13.7%

3.勃起や射精に問題がある(性機能障害(ED、射精障害)):3.3%

4.精子を正しく運動させる働きに問題がある:

前立腺、精嚢、遺伝性の病気など

これらは、おたふくかぜ・抗がん剤・放射線治療がリスクになるとされており、また高齢になるに従い精子数は減り、精子の運動率も低下します。酸化ストレスも男性不妊との関連が指摘されています。酸化ストレスとは「酸素がきちんと体内で使われず、活性酸素(フリーラジカル)という産業廃棄物のようなものができる」ことを言います。この活性酸素が精子の細胞膜に悪影響を及ぼすことが知られており、活性酸素が多いほど精子の運動率も濃度も低下するというデータが出ています。

男性不妊の治療は?

手術で治るケース、薬物治療で改善するケース、それぞれが存在します。

必ずしも全てのケースで治るわけではありませんが、治療により精液の検査結果がよくなる可能性があるため、一度は受診を検討して下さい。体外受精を検討するようなカップルにおいても、男性不妊の治療を受けることで精液検査結果が改善し、より負担の軽い人工授精で済む可能性もあります。

最後に

数は少ないながら、それでも湯村先生のような泌尿器科生殖医療専門医は日本で50人弱いらっしゃいます。男性不妊のケースによっては治療が難しい場合もありますが、不妊でお悩みの方は一度男性不妊も疑い、専門家の先生に診てもらいましょう。精神的・経済的な負担が減ることもあります。不妊は夫婦の病気ですから、ぜひパートナーと一緒に受診してください。

湯村先生が所属する、横浜市立大学附属市民総合医療センター、横浜市の不妊相談コーナーについてもぜひご覧ください。

【関連リンク】

【執筆/インタビュー】 湯村 寧

日本で50人弱しかいない泌尿器科生殖医療専門医の一人であり、男性不妊治療の専門家。横浜市の不妊相談などを担当し、男性不妊の啓発活動に努めている。横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センター長を務める。同センターは泌尿器科に3名、婦人科に1名の生殖医療専門医がおり、夫婦一緒に治療を受けられる神奈川県内唯一の施設である。