「震災、異動、育児で、仕事の無駄を削ぎ落としました」午後6時半に退社、キユーピー・近藤大作さんの働きかた

我が子と過ごす時間をどのようにして作るか。責任のある仕事との折り合いをどうつけるか。これは小さな子供がいる働く父親や母親にとって大きな課題だろう。
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我が子と過ごす時間をどのようにして作るか。責任のある仕事との折り合いをどうつけるか。これは小さな子供がいる働く父親や母親にとって大きな課題だろう。父親たちの間では、朝は保育園まで送り、夜は子供がお風呂に入る時間に間に合うように帰ってくるのが理想だが、なかなか実現できないという声もある。

食品メーカーのキユーピー株式会社で商品開発をする近藤大作さん(画像)は、朝は1歳5カ月の娘を起こし、身支度させて保育園へ送り、午後6時半に会社を出るという。近藤さんは、子供が生まれる前から残業のしない働きかたをしているという。どうやってワークライフバランスのとれた働きかたを実践しているのか。話を聞いた。

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■デジタルデバイスを活用し、仕事のためのインプットは生活の一部に

現在、コンビニ向け商品に特化した企画開発・営業を行う営業企画部に在籍する近藤さん。約2年半前にできた新しい部署で、商品の発案から営業までを一手に担っているという。そう聞くと、多忙な日々を想像してしまうが、実際には毎日、午後6時半には退社するそうだ。

この働きかたを実践できている大きな要因は、日頃から様々な方法で知見を貯めて、それを上手に整理しておくことで、デスクワークにかかる時間を短縮しているからだという。

「今の私の仕事は、コンビニ向けの商品開発なので次の商品につながるようなインプットを常に行うことが大切だと考えています。特にコンビニは変化が早いので、1年後、2年後を見据えて、コンビニを利用するお客様がどう変化するのかを予測して商品を作る必要があります」

■資料作成の時間を減らす、書くときに内容は決まっている

「そのためには、コンビニを利用するお客様のニーズをつかむことはもちろんですが、例えば電車の中吊りや書店、街を歩いていてちょっと目に付くものなどから、次の商品につながるヒントを得たり、別業種で働いている方々と交流を持って、多くの知識や情報を得るようにしていますね。そういった日常で得た知見を整理しておいて、資料作りに生かすために活用しているのが、Evernoteなどのデジタルアプリです」

気になったものはスマートフォンで撮影し、Evernoteに写真を残すようにしているそう。メモや写真にタイトルを必ずつけ、同じタイトルにカテゴライズできるものは、1からナンバリングしておくと、後で見返す時に便利なのだとか。日頃から必要な知見をインプットしていくことで、頭の中も整理される。いざ企画書や資料を作るという段階になって、改めて調べたりする必要は無い。すでに頭の中で内容は固まっており、デスクワークの時間が少なくて済むというわけだ。

■直接仕事に関係ないことも、気づきになる可能性がある

しかし近藤さんは、ただ効率だけを重視し、無駄を省いているわけではない。最近は、今の仕事には直接関係ないから必要ないと思って避けていたことも、何かの気づきにつながる可能性があると捉えるようになったという。

「例えば、仕事をしていると、様々な人に出会ったり売り込みを受けたりする機会がありますよね。これまでは、直接自分の仕事に繋がらない相手と会っても仕方がないと思っていました。でも今は、すぐに役立つことではないと思っても、できるだけいろいろな人に会って情報を吸収するようにしています」

今の部署に異動してきた当初、コンビニ業界との関係性がまったく築けていない中で、なんとかこちらの提案を聞いてもらうために、相手に驚きを与える提案をするしかないと考えた近藤さん。圧倒的にマーケティングの実践経験が足りないと感じ、マーケティングと経営戦略を実践的に学ぶことができる社会人大学に入学。2014年から、仕事をしながら週1回、9カ月間通ったのだそう。

「そこで一緒に学んだ仲間は、職種も業種も肩書きも様々な方がいて、それぞれが専門的な知識を持っていました。そういう方々と意見交換したり、議論し合ったりしたことも、今の私にとって大きな意味があったと感じています」

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■仙台での震災をきっかけに、仕事への意識が変化した

そんな近藤さんも、以前営業部門に所属していた頃は、夜中まで残業することもあったという。働きかたを変えようと意識したのは、やはり子供の誕生がきっかけなのかと聞いてみると、実は勤務時間は、結婚前からあまり変わっていないそうだ。

近藤さんが働きかた方を見直す考えるきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災の時にさかのぼるとか。その時、仙台支店に勤務していた。

■仙台での震災をきっかけに、仕事への意識が変化した

近藤さんは当時、仙台支店で営業をしていた。震災をきっかけに仕事の質が変わったと振り返る。

「あの時は、まず自分たちの生活を守らなければならず、会社にも出社できない状況が続いたので、限られた時間で集中して仕事をするようになりました。無駄な部分を削ぎ落とさなければ、仕事が回らないという経験をして、今のスタイルに落ち着いたのだと思います。その後、営業から開発に異動し、仕事の内容も変わり、より密度を上げなければならなくなり、この2年半で、さらに無駄が削ぎ落とされたと感じています」

■朝、保育園に送るまでが毎日の日課、夜はお風呂までに帰宅

震災や異動を経て、仕事の無駄を削ぎ落としてきた。では、小さな子供がいる今、どのように家事育児を夫婦間で分担しているのかを聞いてみると、近藤さんの平日の主な役割は朝だという。

6時に娘と一緒に起床し、身支度させて朝ごはんを食べさせ、7時に一緒に家を出る。7時半すぎに、会社の敷地内にある保育園に登園。娘を預けて自分のデスクへ向かう。夕方は、妻が保育園に午後5時半頃に迎えに来るが、その1時間後には近藤さんも会社を出て7時には家に着くという。

食事後にお風呂に入れて、子供を寝かしつけるのは妻が担当。食事の後片付けは近藤さんが行う。仕事と同様に効率的で、理想的なチームプレーのように見える。この役割分担は、どのように決まったのか。

「朝、保育園に送るのを僕が担当することになった理由は2つあります。朝は娘が機嫌が良く、僕でも身支度がスムーズにできるということ。そして、今の仕事は直行などが少なく、毎朝会社に出社するため、僕が保育園に送ったほうが効率的ではないか、ということで決めました。一方夜は、眠くなると娘が母親を求めるため、僕の出番はあまりありません。こういった理由から今のスタイルになりました」

■夫婦の家事分担は、マトリックスで可視化

家事分担についても、近藤さんがかなりの役割を担っているようだ。これなら、夫婦間で揉めることも無さそうだが、そういうわけでも無いという。

「妻からすると、まだまだ僕の役割が少ないと感じていると思います。我が家には家事育児分担マトリックスが貼り出されているのですが、これまで妻が担当していたものが、最近少しずつ僕のほうに移ってきています(笑)。僕は、料理や掃除も苦手なほうではないので、まだまだ余力がありそうということで、少しずつ役割が増やされているのかと......」

「これまでは平日の家事担当は食器洗いくらいでしたが、洗濯物を畳むなどの細かい仕事が増えていっていますね。あと、料理も苦手ではないため、週末の食事作りも僕の担当になりつつあります。掃除は、僕が綺麗にする箇所と、妻が綺麗にする箇所が違うようなので、バランスは取れているのかもしれませんね(笑)」

■1週間は4日しか無いと考え、後回しにしない

また、小さい子供は、急に熱を出すなど不測の事態が起こりやすい。そのため、近藤さんは突然1日休んでも仕事がストップしないように、今できることは先送りしないように心がけているという。

「できるだけ、1週間のうち1日は、アポなども入れない空白の日を作るようにして、1週間分の仕事を4日でこなすように心がけています。そうすることで、急に1日休まなければならなくなっても困らないんですね」

■社内外の人を巻き込んで、一人でできる以上の結果を出す

最近では、周囲を巻き込むことも、仕事の効率とクオリティを同時に上げるためには必要だと考えているとか。

「弊社の社是に「楽業偕悦」(らくぎょうかいえつ)というのがあります。志を同じくした者が、共に困難を分かち合い、仕事を楽しむという意味なんですが、社外にも志を同じくした仲間を作って一緒に頑張るのが楽しいですし、そのほうが、効率的に進むのではないかと考えています」

「自分一人でできることには限界がありますよね。上手に社内外の人を巻き込んでいくことで、一人でできる以上の結果を出すことができますし、何らかの理由で急に休まなければならない場合も、仕事は進んでいくようにしています。そういうことを最近は特に意識していますね」

近藤さんは現在フレックスタイム制で働いており、その場合、10〜15時のコアタイムに出社していれば、そのほかの時間は1カ月の総労働時間でカウントされるため、早く帰る日があっても調整が可能という。また、有休についても、自分の仕事をコントロールできさえすれば積極的に取る人が多いとのこと。

■限られた時間で、自分自身が何を大切にしていきたいか

プライベートを大切にしながら、仕事も妥協はしない。限られた時間でいかにして目標やミッションを達成するか、そこを常に考えながら仕事をしている姿勢が、近藤さんの話から伝わってくる。

ワークとライフ、どちらも同じように大切にするための秘訣は、限られた時間で、自分自身が何を一番大切にしていきたいかをはっきりと決めることにあるのかもしれない。それによって、働きかたの新しいステージへと前進していけるのではないか。近藤さんの話から、改めて感じることができた。

(相馬由子)

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