現在、私たちNPO法人「育て上げ」ネットは、若年無業者の実態を調査している。若年無業者とは聞きなれない言葉かもしれないが、内閣府「青少年の就労に関する研究調査」(H17)では以下のように定義づけている。
○無業者(通学、有配偶者を除く)
高校や大学などに通学しておらず、独身であり、ふだん収入になる仕事をしていない、15歳以上35歳未満の個人(予備校や専門学校などに通学している場合も除く)
○無業者類型
求職型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明し、求職活動をしている個人
非求職型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明しながら、求職活動はしていない個人
非希望型:無業者(通学、有配偶者を除く)のうち、就業希望を表明していない個人
上記調査では対象年齢を15歳から34歳としているが、2011年4月からは39歳までを若年向け政策対象年齢と置くようになっている。
私たちは、若者に向けた就労支援機関に来所した若者(n=2,200)名の生育暦や職歴、学歴、暮らし向き、来所目的を含む意識などを基に、現在、立命館大学(西田亮介准教授)と共に分析を進めている。10月下旬には「若年無業者白書-その実態と社会経済構造分析-」を発表する予定だ。
その分析の過程で少なからず見えてきたのが、若年無業者、特に非求職型および非希望型の"暮らし向き"が、求職型と比較してあまりよくないことである。現場で若者を支援している支援者を含む、多くのひとたちにとって想像に難くないことではあるが、改めて数字を追っていくと、それらの仮説(想像)は概ねあてはまる。
例えば、若年無業者のうち就職活動用のスーツを持っていない割合は4人に1人ということがわかった。その他、携帯電話、運転免許証、パソコンの保有割合も若年無業者は低く、求職型、非求職型、非希望型となるにつれて低下する。
「就職活動においては、必ずしもスーツが必要とは限らない」という声は当然あるが、長期にわたって仕事を探し、何とか採用を勝ち取ろうと考えたとき、面接にスーツ以外で望むのは大変勇気がいる。それは大学生の就職活動を見てもわかるのではないだろうか。誰もスーツ着用とは言っていなくても、ほぼ全員が真っ黒なスーツで並んでいる。
たかがスーツではあるが、何十社もお祈りメール(電話)をもらっていたり、数ヶ月から数年のブランクが履歴にある場合、少しでも採用可能性を高める、または、不採用可能性を低くするためには、スーツでいくことが無難と考えても不思議ではない。しかし、そのスーツがない。
「スーツくらい買えばいい。いまは安い」という話もあるだろう。しかし、無業者は収入がない。加えて、家庭の余力がない場合、たかがスーツであっても生活に影響が出てしまう。スーツ、ワイシャツ、ベルト、靴、かばん、それだけ揃えると結構な金額である。
就職活動は資本力に左右される。交通費はもちろんこと、二次面接や三次面接と一社あたりの回数もかかる。有効求人倍率を見れば、仕事は"選ばなければ"あるかもしれないが、採用基準が下がらない限り、誰でも簡単に採用されるわけではない。
振り返ってみてほしい。私たちが大学や専門学校に進学したときの学費は誰が出したのか。運転免許証を取るための費用は誰が出したのか。一番の携帯代金、パソコン購入、ネット回線費用は誰が出したのか。収入がない、少ない学生時代であっても、多くのひと(特に30代以降)は親に出してもらってないだろうか。アルバイトがしづらい就職活動期の交通費やお昼代、就職活動にかかるスーツなどは誰が資金を出したのか。
無業の若者を定量的に追っていくとき、家庭余力の低さが見えてくると同時に、収入のない本人の余力も乏しい。全員が「貧困」や「経済的に困窮」しているわけではない。しかしながら、現在無業である若者たちの状況はかなり苦しいと言える。なにせ、労働稼動層でありながら、4人に1人が就職活動にあたってのスーツすら買えない、買ってもらえないのだから。