2歳になった息子の誕生日を心から祝えない情けない父親より

君がいてくれたおかげで、お父さんは生き残った。

私の親愛なる長男、千汪(せお)くんへ

 今日で2歳になったね。おめでとう。

 でも、正直、君の誕生日を心から祝ってあげることができない。父親として失格だね。2年前、あなたが誕生した22時間後に、大量出血で亡くなったあなたの母親のことを思い出してしまうから。

 あなたのお母さんは中東のヨルダンという国で難民支援のお仕事をしていた。君がお腹の中にいるときは、お腹をさすりながら「今日はよく動くね!」なんて話しかけていたよ。両親学級にお父さんも一緒に通って、陣痛が来た時のためのシミュレーションをしたりしたね。その時は私が主夫だったから、妊娠中に食べたらいい物をネットで検索して、ホウレンソウを使った料理をしたりしたね。

 95日夜、お母さんがお腹の痛みを訴えて、病院に入院した。お母さんは「この子の誕生日は96日になるね」と笑顔で言っていたよ。

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YOKO KUROIWA

陣痛がかなり長引いて、帝王切開になり、96日午後5時ごろ、君は生まれてきた。君の体力が心配で、病院のスタッフは君をすぐに新生児集中治療室に連れて行こうとしたところを、お母さんは「顔だけでも見せてください」とお願いし、君は数秒だけだけど、お母さんと対面したんだよ。お母さんは、相当疲れ切っていたけど、君の顔を見た瞬間、笑顔がこぼれたのを今でもよく覚えている。

 その後、私たちは一般病棟へ戻った。お母さんは動けるような状態じゃなかったから、私が新生児集中治療室に行って、君の動画を撮って、お母さんに見せたりしていた。お母さんは「早く母乳をあげたいな」って言っていたよ。

 97日午前1時ごろ、お母さんの体から出血が止まらないということで、もう一度手術することになった。お父さんは不安で不安で、君に会いに行って、自分を安心させようとしたよ。

 お母さんは無事、戻って来たけど、その後、数時間でまた様子がおかしくなって、気を失い、唇の色が変わって、もう一度手術室に運ばれた。お父さんはもう何が何だからわからなくなっていた。

 97日午後3時ごろ、お母さんは別の世界に旅立った。君のことを一度も抱っこすることができずに。手術で色々体に投入されたからか、お母さんの体はすごい膨らんでいて、とても同じ人とは思えなかった。

 君の誕生日を迎える度、お父さんはこの恐ろしい体験を何度も思い出さなくてはいけないんだ。いや、君の誕生日が来る数ヶ月前から、「もうすぐだな」と心の準備をしなくてはならないんだ。96日と97日という時間を過ごすというのは、お父さんにとって、大きな台風に飛ばされないよう、どこかにしっかりつかまって耐え忍ぶということなんだ。

 お母さんが生きていたら、どうやってこの日を祝っていたのかなあなんて考えると、涙が止まらないよ。この文章を書きながら、もうどれだけの涙を流したことか。

 明日、私たちは、お母さんの生まれた国、韓国に行くよ。千汪とお父さんと、育てのお母さんと、そして千汪の弟の燈夜くんと。韓国では、おばあちゃんとおばさんが君に会うのを楽しみに待ってくれている。

 情けないお父さんだけど、お父さんがこれから千汪くんにしてあげたいと思う事が一つある。お父さんとお母さんは11年で6か国に暮らし、20か国以上を旅した。お母さんには世界中に素晴らしい友達がたくさんいる。私は千汪くんに、1人でも多くのお母さんの友人に会わせてあげたい。お母さんが君に注ぎ続ける愛を、少しでも感じ取ってもらえるように。

 君は生まれて22時間で一番大切な人に旅立たれた。とても可哀そうな子だと思う人もいるかもしれない。でも、お父さんは、君に、素晴らしい2人の母親に見守られている幸運な人だと思ってもらえるように頑張りたい。

 少なくとも、君に「僕が生まれたせいで、お母さんが死んだ」なんて絶対に思ってもらいたくない。君がいてくれたおかげで、お父さんは生き残った。夜中に君の泣き声で何度も起こされて寝不足で大変だったけど、誰かから四六時中、こんなストレートに愛情表現してもらえることは人生で一度もなかった。生まれてきてくれて本当にありがとう。

 改めて、誕生日おめでとう。

 父より