トランプ大統領の支持者が1月6日、連邦議会議事堂に乱入して死者が出る事態になったことを受け、トランプ大統領の権限を停止するために「憲法修正25条」を発動するプランが政界で浮上している。
トランプ大統領は20日に任期切れを迎えるが、一刻も早く退場させようとする動きが野党の民主党からだけでなく、与党の共和党の一部からも出ている。世界的なミュージシャンであるスティーヴィー・ワンダーさんもこの動きを支持しているが、実現には高いハードルがあるようだ。
■憲法修正25条とは?
アメリカ合衆国憲法「修正25条」とはどういうものか。時事ドットコムなどによると、大統領が死去・辞任したり職務を遂行できなくなったりした場合の権限継承について定めた憲法の条文。1967年に成立した。
このうち第4項では「副大統領および閣僚または議会が指定した機関の長の過半数が、大統領は職務上の権限と義務の遂行が不可能だと議会に通告した場合、副大統領が大統領代行として大統領職の権限と義務を遂行する」と定めている。
すなわち、ペンス副大統領と閣僚の過半数の同意があれば、即時にトランプ大統領は職務停止となり、ペンス氏が大統領の仕事を代行できることになる。
CNBCによると、第4項は過去に1度も使用されたことがない。また第4項には続きがあり、大統領が「自分には問題がない」と議会に通告すれば職務に復帰できる。その場合、大統領を再び職務停止させるためには、議会両院の3分の2の賛成を得なければいけない。
■下院議長が解任を要請、共和党の一部でも同調
NBCニュースによると民主党のペロシ下院議長は7日の記者会見で、トランプ大統領について「これ以上、在職すべきでない危険な人物」と批判。「ペンス副大統領に対して憲法修正第25条に基づいてトランプ大統領を、速やかに任務から外すこと求める」と訴えた。
共和党議員も少なくとも1人がこの動きに同調している。大統領に批判的な下院共和党のアダム・キンジンガー議員は同日、修正25条の発動を求めるビデオメッセージをTwitterに投稿した。「憲法修正第25条を発動し、この悪夢を終わらせましょう」と訴えた。
■スティーヴィー・ワンダーさんも発動を求める
文化人からもトランプ大統領の職務停止を求める声が出ている。世界的なミュージシャンであるスティーヴィー・ワンダーさんは6日、こうTwitterに投稿した。
「この国の指導者たちが修正25条を発動する時が来た。明らかだろう?今日、我が国で起こったことは悲しいし、信じられない。私に希望と愛の歌をインスパイアしてくれた、この国で起きたことだ」
ワンダーさんは続くツイートで、トランプ氏を「自己陶酔的で危険な大統領」と批判。職務を続けることに「あと2週間余裕があるか?私はノーと言う!」と訴えた。
■修正25条の発動がなければ、弾劾裁判も?
ただしペンス副大統領自身は、修正第25条の発動を求める動きに反対しているという。ニューヨーク・タイムズが、ペンス氏の近い筋からの情報として報じた。
一方、ペロシ下院議長は、ペンス氏と閣僚が修正第25条の発動をしない場合は、議会を招集してトランプ氏の弾劾を決議する構えだ。
産経ニュースによる、合衆国憲法は「反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪」で弾劾され、有罪判決を受けた場合は罷免されると規定している。下院の過半数の賛成で弾劾訴追できる。上院はこれに基づき、弾劾裁判を開始。連邦最高裁長官が裁判長、上院議員が陪審員の役目を果たす。3分の2以上の同意で有罪となれば大統領は罷免され、憲法の規定に従い、副大統領が大統領に就任するという。
トランプ大統領は2020年2月にも、弾劾裁判を受けている。ウクライナ疑惑めぐる権力乱用と議会妨害で弾劾されたが、共和党が多数を占める上院で無罪評決となった。
2021年1月6日にジョージア州の選挙で勝利したことで、今後は上院の過半数を民主党が占めることになる。しかし、トランプ氏を罷免するための3分の2の賛同を得るには、共和党からの大量造反が必須だ。
■ここまでの流れを要約すると……
憲法修正25条を発動してトランプ大統領の権限を停止する場合は、最終的に上下両院の3分の2が必要になる可能性がある。弾劾裁判で罷免する場合にも、上院の3分の2の賛成が必要となる。