世界的に有名なアーティスト、アイ・ウェイウェイ(Ai Weiwei)が一枚の写真をTwitterに流した。彼の右隣にいるがっしりした人物が浦志強(Pu Zhiqiang)、中国の弁護士だ。
浦さんは今年(2014年)5月、天安門事件の真相解明を求める私的な勉強会に参加したことで拘束された。浦さん拘束のニュースは瞬く間に広がった。浦さんが弁護を担当したことのあるアイ・ウェイウェイは、このニュースを聞いて、写真を流したのだ。
多くの人が身の安全を案じる浦志強とは、いったいどんな人物なのか。親交の深い阿古智子さん(中国研究者・東京大学准教授)にお話を伺った。
──阿古さんが浦さんを知ったきっかけは何でしょうか?
阿古:中国の格差社会について研究していたときに、地方の役人の横暴とそれに対する農民の抵抗について記した『中国農民調査』という書籍を読みました。その本の著者が共産党書記に名誉棄損で訴えられた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3882?page=2。4段落目)のですが、弁護を担当したのが浦さんだったのです。言論が統制されている中国で、政府と真っ向から対立するような事件を引き受けるなんて、とても勇気のある人だと思いました。
── 浦さんはなぜそのような難しい事件を引き受けるのでしょうか?
阿古:それは彼が、言論の自由を非常に重視するからです。『中国農民調査』の件も、まさに言論の自由、表現の自由の問題です。
学生として25年前の民主化運動にも参加していた浦さんは、雑誌や新聞がどんどん発禁に追い込まれ、情報はおろか、人間の思考回路までもが狭められていく様子を目の当たりにしました。言論の自由が弾圧されることで、中国が失ってしまうものをよく理解していたんですね。
言論が自由でなく、人間の思考や情報が統制され多様性がなくなると、問題解決につながる道筋を考える基礎がなくなってしまいます。それではまずいのです。だから浦さんは弁護士として、難しくても言論の自由にかかわる事件を多く引き受けるのでしょう。
── 浦さんの拘束を受けて、阿古さんも発起人の一人である公開書簡が発表されました。浦さんの安否を心配するこの書簡には、2日間で161人もの研究者などが賛同しましたね。
阿古:最近、中国政府の不興を買ったことで中国に入国できなくなったとみられる日本人もいます。そのようなリスクの存在について、私も考えます。ただ、自己検閲をして黙っていることで何かが変わることはないですし、きちんと発言しなければと思いました。それは中国の人びとだって同じです。最終的には自分で立ち上がらなければなりません。ですから、この書簡は「良識ある中国の皆様へ」と呼びかけるメッセージにしました。
── 阿古さんはなぜリスクを取ってまで浦さんの支援をするのでしょうか?
阿古:これまでの日中交流での日本側は、もっぱら中国政府の言っていることに耳を傾けることが多かったと思います。しかし中国は大きな国で、ひとくくりにして相手にするのは不自然です。政府にも民間人にもいろいろな考え方の人がいて、とても多様性があります。そのような中国の重層性を前提に、さまざまなパイプを通じて直に人と付き合うことがお互いの理解を深め、共通の問題について率直に話し合うことが問題解決につながるのではないでしょうか。そう考えると、まさに言論の自由を通じて中国の民間の多様性を保障しようとする浦さんたちへの応援が、大切だと思うのです。
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浦さんは刑事拘留されている。これは、今後起訴され、刑事罰が科される可能性があるということだ。
中国で、言論の自由をはじめとする基本的な権利のために奔走する浦さん。このような人へのひどい仕打ちを、私たちは黙って見ていていいのだろうか。
――私たちにできることがある。
▽浦志強さんたちの釈放を求めるアムネスティ日本の署名サイト
▽天安門事件について