21世紀のお父さんのリテラシーは料理だと思う ー 株式会社ビストロパパ 代表取締役 滝村雅晴

「家族の共食」「男性の食育」推進など、ひとりでも多く、「ママや子どもたちのために料理をするパパ」や「親子で料理をするファミリー」を増やすための活動を行っている株式会社ビストロパパ 代表取締役 滝村雅晴さんにお話を伺いました。
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滝村雅晴(たきむらまさはる)

1970 年生まれ 京都府出身。立命館大学産業社会学部卒。採用PR会社を経て、1995年 デジタルハリウッド株式会社創立のスタートアップメンバーとして参画。以降14年間にわたり主に広報・宣伝・ブランディング業務に従事しながらIT・コンテンツ業界で活躍する多くの新人材輩出に関わる。2009年 株式会社ビストロパパ設立、代表取締役就任。

http://www.bistropapa.jp

「家族の共食」「男性の食育」推進など、ひとりでも多く、「ママや子どもたちのために料理をするパパ」や「親子で料理をするファミリー」を増やすための活動を行っている株式会社ビストロパパ 代表取締役 滝村雅晴さんにお話を伺いました。

OYAZINE(以下Oと略):「ビストロパパ」とはどんな会社ですか?

滝村さん(以下滝村と略):一言でいうと「文化創造事業」の会社です。ミッションは「パパ・親子料理を通して、家庭の幸せを創造する」。つまりお父さんが家族のために料理をすることで、広く言えば「世界平和を目指す」。(笑)、何をもって世の中を幸せにするのかと言ったら、僕の場合は「お父さんの料理」というものに特化しています。

O:具体的にどのような活動をされていらっしゃるのですか?

会社の事業としてはコンテンツ事業、セミナー・イベント事業、物販事業、 広報・PR事業の4つの柱があります。コンテンツ事業というのはレシピやコラム等の執筆。セミナー・イベント事業というのは講演や催しを全国で行っています。特徴としては徹底したレシピ提案ではなく、男性に対する料理を通したライフスタイル提案を行っていることです。従って料理上手にさせたいとか、レパートリーをひたすら増やしたいというのとは違います。学生時代に飲食店などでアルバイト経験があり外では料理をするけど、結婚したら家で家事も料理も何もしませんという男性は結構います。これは料理の技術の問題ではなく、やる気が大きく関わっています。男性の家事、育児に関しては、スキルよりもマインドが大切です。男性は妻などから無理やり押し付けられても絶対に継続しません。自分からの気づいた感がないとダメなんです。なので、例えば道を歩いていて思わず立ち止まって二度見をしてしまうような、自分からハッとして心が揺さぶられるような情報発信がとても大事かなと感じています。ただ、そのマインドへ向かうスイッチは個々人違うので、家族のために何かをしたくなるような「やる気スイッチ」を押すためのきっかけづくりをレシピ、コラム、イベントを通じて行っています。三つ目の物販事業はまさにこの「やる気スイッチ」を入れるためのグッズの企画、販売です。例えば妻のエプロンを借りているうちはなかなか料理は上手になれません。いつか返すものを借りていても主体的ではありませんし、本気にはなれないからです。最後の広報PR事業は僕が前職で14年間やってきたノウハウをいかしています。

O:前職の「デジタル」から「料理」へとだいぶ変わられましたね。

滝村:創業から関わった前職デジタルハリウッド(以下 デジハリ)にて杉山知之という学長は「21世紀のリテラシーはデジタルだ」と考え、業界が発展する為には新しい人材を送り込まなければいけない。そのための教育機関が必要だとデジハリという会社を設立しました。この会社において僕の興味は新しいデジタルというコンテンツ革命をおこすために人を育てる。新しい技術や産業がおこることで新しい働き方が生まれる、新しい職種が生まれる。それを20代の若者たちに半歩先の情報として伝え、新しい生き方提案をするということでした。現在料理研究家となり、デジタルから料理へとだいぶ転換されましたねと言われることもありますが、僕の20代の働き方がデジタルを武器にして新しい職業を生み出す仕事をする。というところにワクワクしたように、自分が30代、40代になり家族ができ、子どもができ、父親という立場となって次にどんな生活の仕方、生き方をしたら幸せになれるのかを考えたときに「21世紀のお父さんのリテラシーは料理だ」と思ったんです。

20代の若者であった自分はデジタルをリテラシーにすることで仕事の幅が広がって幸せなることができた。30代、40代の子どもができたお父さんとなった自分は料理というものをリテラシーにすることで家族を幸せにして自分が幸せになる生き方を選んだ。実は根幹は変わっていません。自分が成長したステージの半歩先の生き方提案、働き方提案が僕が仕事でやりたいことです。だから60代になったらその時にその年代の人たちがこうやったらおもしろいんじゃないかという僕の気づきがあれば、そしてまだみんなが気づいていなければ違う職業のメッセージを出すかもしれません。

O:「料理」というものを始められたきっかけは何だったんでしょうか?

滝村:僕の場合は料理が趣味であったわけでも、共働きでしたが家でご飯を作ったこともありませんでした。妻と食べ歩きを楽しんでいた僕が料理をするきっかけは長女が生まれたことです。赤ちゃんが生まれたら外食ができないんですよ。だから外で食べられないけど、家で美味しいレストランの味を食べたいと思った時にある方のレシピ本が美味しいと薦められ、自分でも何かピンときて買い行きました。そこに書いてあった食材を丁寧にスーパーを回って買い揃え、丁寧にレシピ通り作ったら、自分で作ったご飯を食べて美味しくて感動したんです。それで、スイッチが入りました。

いわばプラモデルの設計図のようないろいろなひとのマニュアル、ガイドラインを買ってきてその通りの材料を揃えれば、世界中のレシピを僕は作れるんだと思いました。それから次々と料理を始めていくようになりました。

O:その「料理」というものを新しい職業としていこうと思ったのはどのような経緯からでしょうか?

滝村:前職デジハリでのマーケティングの一環として自分でも当時流行りだしていたブログというものを始めなければならず、そのためのテーマも必要だったので、当時たまたまはまっていた「料理」というものを軸にアウトプットを続けたことが大きく影響しています。毎日毎日書き続けて行くうちに、ある時から毎日更新しようと決意しました。1年、2年と続けていくうちに、始めは顔写真もなくニックネームで更新していたものが、次第に横顔の写真になり、どこかの時点で料理研究家というフレーズが出始め、名前も実名になり、正面の顔写真を掲載するようになりという感じで、だんだんと自分の周りに起こる変化を探りながら続けました。その結果何か悪いことが起きるというよりも、逆にテレビの取材が来るなどそれがきっかけでさまざまなご縁が増え、自分の伝えたいことは「パパ料理」だという確信が生まれました。だから自分で想って伝えられるようになったんです。なのでこの「パパ料理」というものを世の中に伝えていくべく会社に話をし、独立に至りました。

O:今後特に力を入れて行きたいと考えていらっしゃる事業はありますか?

滝村:どれかひとつというよりも4つをバランスよく続けていきたいと考えていますが、特に、といえば、2014年4月に立ち上げた「日本パパ料理協会」という団体に注力しています。

今までの活動を通して「お父さんが家族のために料理をしようよ」と話をする仲間がいっぱい増えてきたので、一人ではなく、仲間と一緒に活動しようという考えで協会を始動いたしました。料理が好きな料理自慢の集団ではなく、いわゆる文化として食を通して家族の健康とコミュニケーションとそしてかけがえのないみんなで一緒にご飯を食べる時間を大切にするお父さんたち集団です。この協会の仲間と一緒に、お父さんの料理を通したあったかい空間づくりや交流というものをこれからもっともっとしていければなと思っています。

O:仲間の増えた「パパ料理」。「男の料理」とはどのような違いがあるのでしょうか?

滝村:「男の料理」は自分のおなかが減ったときに自分が食べたいものを作って食べる趣味の料理。「パパ料理」は自分のおなかが減っていなくても妻や子供たちが減っているのに気づいて作るお父さんの家庭料理です。自分軸か他人軸か。つまり他人のおなかが減っている。他人が困っている。という相手のことを常に想いやることで、相手のおなかを満たしてあげるというコミュニケーション能力を料理を通してお父さんたちに身につけてもらいたいと思っています。

O:読者の方々に「パパ料理」スイッチを入れるのにお勧めの料理などはありますか?

滝村:100人のお父さんがいれば100人のアプローチがあると思うのでちょっと難しいですが、僕はある程度ハードルの高いものから始めることをお勧めします。もちろん簡単なものもいいんですが、ちょっと高いところに登るとみえる景色というものを体験すると、それが成功体験となって「料理」へのきっかけに繋がることがあります。ただ、その時に注意して欲しいのは本人が思っているレシピ通りではなく、本当の意味でのレシピ通りに作ってみて欲しいということです。最初に失敗するほとんどの方は自分なりの工夫やアレンジ、材料がなければ他の食材で代替えなどをしてしまう人です。料理というものは1度足していったら引き算ができないので、初回はとにかく計画的に、丁寧に忠実にトライして欲しいと思います。プラモデルでパーツにないものをつけようとしたら違うものが出来上がりますからね。(笑)

O:もしパパ料理教室に参加してみたいと思った際にはどのようにしたら良いでしょうか?

滝村:ご興味をもたれた方は僕のブログ(http://blog.livedoor.jp/tuckeym/)をご覧になるか、ビストロパパのホームページの最新スケジュール(http://www.bistropapa.jp/service/schedule)ページに料理教室の日程と場所が記載されているのでご希望の教室への応募の可否などお問い合わせ頂けたらと思います。パパ向け及び一番人気はお父さんと子ども向け教室なので開催はほぼ土日です。かつ申し込むきっかけは妻の申し込みが7割くらいです。お父さん自らの参加ご希望はもちろん大歓迎ですが、是非ビストロパパになって欲しいママはママが申し込むという方がほとんどの参加者のきっかけですので是非ママが申し込んでください。

O:パパ料理のお話を伺いながら、何をすべきかの前に「どう考えるか」、私自身の考え方を省みるチャンスになりました。最後にパパ料理研究家として今一番伝えたいことや今後への想いをお伺いできますでしょうか。

滝村:家事をすることもなかった僕が料理と関わるようになったきっかけは長女の誕生です。彼女がいなければ現在この仕事をしていません。ですが、実はその長女を2年半前に亡くしました。パパ料理研究家として家族のためにこれだけ料理を作りたくて作ってきた僕が娘に食べてもらうことがもうできません。ご飯を一緒に食べられる回数というのは限られていて、明日はないかもしれないんです。だから1食1食を大切にして欲しいと思っています。これは僕が最初に起業したときに一番言いたいことではありませんでした。しかし今は娘のこともあり、一人でも多くの方々が家族と一緒にご飯を食べる機会を増やして欲しいと切に思っています。お父さんたちが妻にご飯を作ってもらう。それも幸せだけれど、作ったご飯を食べてもらえる相手がいるというのはそれだけでとってもとっても幸せなことなんじゃないかなと思います。今は何よりもそれを言いたいです。

それと一緒にご飯を食べられるためには何よりお父さんたちに健康でいて欲しいです。その健康になるにはやっぱり食なんです。だから自分の勉強したたくさんの食を通して健康になれるロジックや、栄養の話をお父さんたちに伝えることで、お父さんの料理スイッチと健康管理スイッチを入れたいと考えています。何かをされて幸せになるより何かをしてあげた人が幸せになった姿をみて感じる幸せの方が僕はもっと深いと思います。それに気づいたら料理はもっともっと楽しくなる。だから作らないといけないとか、当番だとかの打算的ステージではなくて、このマインドをもって夫婦で料理を作り合うことでお互いに心に余裕が持てるようになります。そうしたら妻も自分も逆に作って食べてくれてありがとうっていう気持ちのステージになれると感じています。

O:本日は素敵なお話をありがとうございました。

滝村:ありがとうございました。

(この記事は、2014年6月にインタビューした内容をもとに構成されています。)

編集/ライター 堀内麻希