第31回オリンピック競技大会(リオ五輪2016)が閉幕、日本は史上最多41個のメダルを獲得した。日本列島はメダルラッシュに沸き、2020年東京大会への期待も大きく膨らんでいる。
リオで選手たちが演じた素晴らしいパフォーマンスを「光」とすると、ドーピングや治安問題など「影」の部分もあった。4年後の東京五輪・パラリンピック開催に向けても、さまざまな課題を乗り越えなければならない。
社会状況が大きく変化するなか、オリンピックの理念を示す「オリンピック憲章」は、時代とともに見直されている。日本オリンピック委員会(JOC)のホームページにも、「時代とともに変わるオリンピック憲章」としてわかり易く解説されている(*1)。
私の考える最も大きな状況変化は、オリンピックが巨大イベントになり、商業主義に立脚しなければ実施が困難になっていることではないかと思う。
かつてオリンピック競技への参加はアマチュア選手に限られていた。しかし、プロ選手が活躍するスポーツが増え、一流選手のプレーを見たいという世間の要望を踏まえ、1974年にオリンピック憲章から「アマチュア」という言葉が削除された。
アマチュアスポーツにこだわり、プロ選手の参加を認めないという基本方針を変えていなければ、今ごろオリンピックは衰退していたかもしれない。
東京五輪2020は猛暑の季節に開催される(*2)。1964年の東京大会が爽やかな10月に開催されたのに、次回はなぜ7月から8月にかけて開催されるのか疑問に思う人も多いだろう。
理由のひとつは、今日のオリンピックが巨額のテレビ放映権料に支えられているため、主要スポーツの開催時期と重複させないためだろう。これで最適な「アスリートファースト」の開催時期だと胸を張って言えるだろうか。
また、オリンピック憲章では、五輪大会は国同士の競争ではなく、個人または団体間の競争であり、国別のメダルランキング表の作成を禁じている。実際には各国のオリンピック委員会WEBページにランキング表が掲載されており、理念と現実に乖離が生じている。
メダルの獲得を最優先にする国威発揚的な五輪のあり方には疑問を感じるが、国民が自国の選手を応援することは自然なことであり、『ガンバレ!ニッポン』の連呼やメダル順位表の作成が一概にナショナリズムを煽るとは思わない。
世の中には「本音」と「建前」がある。それらを巧く使い分けるダブルスタンダードを「大人の社会」と言う人もいる。しかし、私は「本音」と「建前」が一致する社会の方が健全だと思う。
「オリンピック憲章」が掲げる理念の本質を捻じ曲げることなく、新たな時代の変化に適合した「本音」と「建前」が一致する"現代オリンピズム"を追求することが必要ではないだろうか。
関連レポート
(*1) 日本オリンピック委員会(JOC)ホームページ<http://www.joc.or.jp/olympism/education/>参照
(*2) 2020年東京五輪の開催期間は、7月24日(金)から8月9日(日)、パラリンピックは8月25日(火)から9月6日(日)
(2016年8月30日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員