「いま日本は障害者バブル」 初の専門タレント事務所誕生

所属タレントの1人はこんな言葉をかけた。「だから2020で終わらないでね」
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日本初の障害者専門タレント事務所誕生

リオと平昌のオリンピック・パラリンピックが相次いで開催され、テレビや雑誌、ポスターなどでパラアスリートの姿を見ることが急激に増えた。

環境面と精神面の両方から障害者が外に出ることが難しかった時代には「どう接したらいいか判らない」という声もあったが、今や義足や義手も含め「カッコいい」存在に変わってきている。

一方、3月に放送されたピン芸人日本一を決める『R-1ぐらんぷり2018』では、視覚障害のある濱田祐太郎さんが優勝し話題になった。

そんな中、日本で初となる障害者専門のタレント事務所が誕生した。母体となったのはNPO法人 施無畏(せむい)が発行する、難病や障害のある女性向けの季刊フリーペーパー『Co-CoLife(ココライフ)☆女子部』(2008年創刊・毎号1万部発行)。

事務所を立ち上げた意図などを代表の岡安均さんと『Co-Co Life☆女子部』編集部の守山菜穂子さんに聞いた。

守山 菜穂子さん  岡安 均さん

「『Co-CoLife☆女子部』には読者サポーターとして約850人の女性が登録しています。みな難病や障害のある方で、読者モデルなどとして日頃から誌面の撮影や編集に協力していただいています。

2014年頃から官公庁や企業からの講演依頼や商品開発などの依頼が編集部に来るようになりました。当初は演者のキャスティングや人材のブッキングをボランティアでやっていましたが、件数が増えたことで事務所にしてきちんと告知しようと考え、『Co-Co Life☆女子部 タレント事業部』を立ち上げました。

それまでは取材の際の繋がりなどで仕事を紹介していたのを、きちんとプロフィール写真やデータを載せたウェブサイトを作り公開したのです」(岡安さん)

事務所開設で雇用創出を

障害者の多くは望む仕事、やりがいのある仕事に就くのが難しいのが現状だ。障害者雇用枠で入社したものの受け入れ側の態勢が十分ではなく、出社しても仕事が無いというケースもあるという。

しかし、講演や商品開発では「障害者」である各自の知見が活かされる。自分の身体だからこそできる仕事だ。事務所開設は、雇用の創出や活躍の場を提供することにもつながると考えた。

岡安さんは長く広告会社に勤務し、ボランティアを経てこの仕事に就いた。企業のニーズやビジネスの大きな流れには敏感だ。

「2006年に国連で障害者権利条約が採択されましたが、当時の日本はこの条約の水準に達しておらず、4年前にようやく国連から承認されました。この分野はいま世界に追い付けという大きな流れがありますし、法整備や雇用推進など国の後押しもある。2020に向けてビジネスチャンスだという手ごたえがあります」(岡安さん)

きっかけはファッションショー

ここに至る大きなきっかけとなったのが2016年の「バリコレ」だ。NHK・Eテレの情報番組『バリバラ』の企画で障害者たちがモデルを務めるファッションショーに、『Co-Co Life☆女子部』からも20人が出演することになった。

かつて大手出版社で女性誌を手掛けていた守山さんは当時を語る。

「読者モデルをしていた子の中から厳選しました。メイクして衣装を身に着けた20人が、六本木ヒルズの美しい広いステージに並んだのを見たときに、ここから何かが起こる、という予感がしたんです。強い光を当てると、強く輝く人がいる。そこに障害の有無は関係ありません」

守山さんは自身の経験を活かしプロデューサーとして彼女たちを育てることにした。

出演者が「バリコレ」の様子をSNSで発信すると編集部で積極的にリツイート、シェアする。スター性のあるモデルのフォロワーは爆発的に伸びた。モデルの子たちからは、ブログの書き方や、ヘアメイク、服装に関する相談が数多く寄せられるようになる。

これ以降、車椅子ユーザー用のウエディングドレスのモデルや、パラスポーツイベントへ「トークができる障害者の女性」出演依頼など、よりタレント性が重視される仕事が舞い込むようになった。

車椅子不良ユニット「BadAss Sores(バッドアスソアーズ)」

『Co-Co Life女子部 タレント事業部』には現在13人と3組が所属し、事務所開設から間もないにも関わらず既に多くの問い合わせや依頼が寄せられている。講演や商品開発に加え、テレビやラジオへの出演、メディア取材、大手企業のCM撮影、UD(ユニバーサルデザイン)商品のPV出演などなど。

所属タレントは今後増やす予定で、近日開かれるオーディションには、これまでに全国から8歳から65歳まで約70人が応募している。

実は、事務所開設に当たり声をかけた読者モデルの中には辞退した人もいた。理由は「『障害者タレント』のジャンルではなく、『一般のタレント』として勝負してみたい」から。他の芸能事務所を受けるという彼女を、岡安さんも守山さんも喜んで送り出したという。

いま「障害者バブル」?

それぞれのキャリアを経て事務所を開いた今、2人はともに「おもしろいからやっている」と口を揃える。

「うちのタレントたちはみんな、自分にはない価値観を持っていて、日々発見があり勉強になります。若いけれど死の危機を乗り越えて来た人もいるし、進行性の病気で命の期限を感じている人もいる。背負っているものが違うんです。有限感というか、言葉に説得力がある」(岡安さん)

「それに、綺麗なだけのモデルを取材するのはもう飽きました(笑)。車椅子、義足、杖を持ったモデルなど、ユニークな身体と一緒に、誰も見たことがないビジュアル作りができるのは、各種のクリエイターにとって大きな魅力だと思います。キャスティングの選択に障害者タレントを気軽に入れて欲しいですね」(守山さん)

ありそうで無かった障害者タレントの事務所。2020に向けてニーズはますます増えそうだ。

しかし2人は、所属タレントの1人からこんな言葉をかけられたという。

「いま、障害者バブルが来ていると思う。だから2020で終わらないでね」

LGBTのタレントたちのように、10年後には当たり前の人気者になっているであろう、新しい価値を創造しようと奮闘している。

『Co-Co Life☆女子部 タレント事業部』

(2018年4月29日FNN PRIMEより転載)