オリンピック開催は儲かるのか:研究結果

この週末は、マドリードか東京、またはイスタンブールの街がにぎやかなお祝いムードに包まれることだろう国際オリンピック委員会(IOC)が2020年夏のオリンピック開催地をこの3都市のいずれかに決定することになっており、どの街も現在、開催を目指して競い合っているところだ。
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BUENOS AIRES, ARGENTINA - SEPTEMBER 04: IOC president Jacques Rogge looks on during a IOC press conference ahead of the 125th IOC Session at the Hilton Hotel on September 4, 2013 in Buenos Aires, Argentina. (Photo by Alexander Hassenstein/Getty Images,)
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この週末は、マドリードか東京、またはイスタンブールの街がにぎやかなお祝いムードに包まれることだろう。国際オリンピック委員会(IOC)が2020年夏のオリンピック開催地をこの3都市のいずれかに決定することになっており、どの街も現在、開催を目指して競い合っているところだ。

獲得票が足りなかった2つの都市には衝撃と失望が広がり、それぞれの代表者たちは経済的機会が失われたことを嘆くことだろう。ただし、都市開発の促進剤としてのオリンピックについては、ほとんど知られていない、次のような現実がある。オリンピックの開催地となることを目指す競争では、実際に選ばれるよりも次点の方が、良い結果が得られる傾向にある、と経済学者たちは述べているのだ。

次点となった都市でも、道路の改善や最新の標識など、IOCに好印象を与えるためのインフラに投資する傾向があり、このことが経済や商売の活性化を後押しする。しかしその後、もし実際にオリンピック開催地と選ばれると、大きな費用や混乱が生じる。2位の都市には、このようなネガティブな面が免除されるというのだ。

ノースカロライナ大学シャーロット校で都市経済学を研究するスティーヴン・ビリングズ教授は、オリンピックの開催地となることによって得られる経済的利益の研究を続けてきた。その結論は、最終候補の選考まで残った都市はすでに勝者だということだ。

オリンピック開催の経済的利益について2009年に書かれた論文を共同で執筆したカリフォルニア大学バークレー校のアンドリュー・ローズ教授によると、1950年から2006年までの間にオリンピックの開催地となった国々は、IOCに好印象を与えようとして行った対策(自由貿易の開始や、自国通貨の為替取引上の規制緩和などの政治的決定)のおかげで、国際貿易が30%急増したという。

いっぽうで、多くの経済学者が、オリンピックの実際の開催によって開催国が利益を得ることはほとんどないと指摘している。実際に開催地に選ばれた都市は、スタジアムや選手村に巨額の資金を費やすが、これらの施設が将来には役に立たなくなることも多い(日本語版記事)。建設期日が近づくにつれて、ただでさえ費用がかかるプロジェクトには、さらに多額の追加費用が発生する傾向がある。さらに、9.11後の世界では、警備にかかる費用が数十億ドルに達し、利益をもたらすオリンピックを開催できる可能性はさらに低くなっている。

オリンピック開催に向けて現在争っている3都市のひとつであるマドリードは、見積50億ドルという、自らが「低予算」オプションと呼ぶ案を提示している。彼らの説明によると、既存のインフラを多く利用し、オリンピックのためには4つのスタジアムを建設する必要があるだけだという。選手村となる約19棟の新しい宿泊施設は、オリンピック終了後は住宅計画として再利用されることになっている。

このような計画が示されても、スペインの政治的左派の人々は、同国が世界恐慌並みの失業率と債務危機に直面しているときに誘致されるオリンピックなど、「飢えの競技会」だとする批判をやめていない。

イスタンブールは最大限の努力を尽くして、オリンピックのために190億ドルの予算を提示した。東京の提案には経費見積として80億ドルが含まれている。

IOCチームが今年4月に行った報告では、各都市の努力にさまざまな側面から点数がつけられた結果、マドリードと東京は暫定的な点数でそれぞれ8.08点と8.02点という僅差となり、イスタンブールは6.98点だった。

マサチューセッツ州ウースターにあるホーリークロス大学で経済学を研究するヴィクター・マセソン教授は、「IOCと関係のない、学究専門の経済学者のほぼ全員が、オリンピックは非常に費用がかかるイベントであり、開催都市がその費用を埋め合わせる見込みはほとんどないという点で一致している」と話している。ギリシアではオリンピックのインフラ整備が国家破綻のきっかけになり、現在の日本の累積債務も、東京オリンピックの後始末がスタートだという指摘がある(日本語版記事)

一方で例外もある、とマセソン教授は指摘する。1984年にロサンゼルスで開催されて利益を出したオリンピックと、バルセロナをスペインで2番目の工業都市から、ヨーロッパで最も重要な観光地のひとつにするのに貢献した1992年のバルセロナ・オリンピックだ。

ただし、これらのケースは極めて異例だ。ロサンゼルスはかなり内容を少なくした計画を提出し、IOCはこれよりも優れた選択肢がないという理由でこの提案を受け入れた。

マサチューセッツ州ノーサンプトンにあるスミス・カレッジのアンドリュー・ジンバリスト教授は、もっと暗い見解を示している。このテーマについて行った徹底的な研究によって、オリンピック開催の争いを勝ち取る可能性が最も高い都市とは、特別な利益を追求する不透明な政治的システムを擁する都市だということがわかった、と同教授は述べるのだ。

「開催を勝ち取るのは、多くの建設会社や建設組合があり、おそらくは弁護士や投資銀行なども加わって、これらすべてが開催を求めて懸命に努力するような都市だ。それは、自らを永続させようとする強大なシステムなのだ」

[Eleazar David Melendez(English) 日本語版:平井眞弓/ガリレオ]

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