2017年12月5日、IUCN(国際自然保護連合)は東京で、最新版の「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)」を発表しました。この最新版のリストで、絶滅のおそれが高いとされる3つのランク(CR、EN、VU)に記載された野生生物は、2万5,821種。この中には、野生のイネや、温暖化の影響が心配されるシロフクロウなどが含まれています。WWFジャパンも、東京での発表記者会見にパネリストとして参加。絶滅危機種の増加が、環境問題の深刻化に対する警鐘であることをあらためて訴えました。
絶滅のおそれのある世界の野生生物が2万5,821種に
IUCN(国際自然保護連合)が毎年更新している、絶滅のおそれのある世界の野生生物のリスト「レッドリスト」。
かつては赤い表紙の報告書にまとめられ、出版されていましたが、現在はオンライン上のデータベースに集積されており、誰でも検索することが可能になっています。
今回の最新版のリストでは、9万1,523種の動植物や菌類などを評価し、そのうち2万5,821種を、特に絶滅のおそれの高い「絶滅危機種(CR、EN、VUの3ランク)」として掲載しました。
これは、2016年9月時点の2万3,928種を大幅に上回る結果です。
新たに加えられた野生生物を代表する例としては、野生のイネ(5種)、そして同じく野生のヤムイモ類(17種)があります。
これらの野生植物は、イネやムギ、作物としてのヤムイモなど、世界中で利用され、食を支えている農作物の原種となった植物ですが、少なからぬ種について、野生の状態での存続が危ぶまれています。
危機の主な原因は、森林伐採や都市の拡大、農地や牧場の開発など。
この発表にあたりIUCNは、穀物や野菜の原種にあたるこうした野生の植物が、作物としてのイネやムギ、ヤムイモなどに、遺伝子的な多様性を与え、干ばつや病害虫への抵抗性をもたらす貴重な存在であることを指摘。
また世界経済に年間1兆1500億ドルに相当する価値を提供しており、これが今後さらに拡大していく可能性を訴えました。
注目される「食」そして「地球温暖化」
この「食」をめぐる視点の背景には、地球温暖化による世界的な気候の変動問題がありあます。
今後、干ばつや大雨、塩害など、異常気象による影響さらに増加し、それまでその地域で育っていた作物が育ちにくくなった時、こうした環境変化に対し、より耐性や適応力を持った作物が求められることになります。
そうした作物に新しい可能性を拓くためには、きわめて多様性に富んだ野生の植物に頼るほかありません。
食に通じる野生植物の危機は、そのまま人類の危機にも通じる問題といえます。
地球温暖化については、他にも直接的な影響を受けている野生生物が、今回あらたに絶滅危機種のリストに加えられました。
たとえば、オーストラリア西部に生息する有袋類ニシリングテイルポッサムの一種(Pseudocheirus occidentalis)は、この10年間で個体数が8割も減少し、一気に絶滅の危機が高まりました。原因は、主食である野生のミントが異常乾燥により減少したこと。
この他にも、都市開発や、外来生物のアカギツネ、ノネコなどの影響も受けていると考えられています。
さらに、これまでは絶滅のおそれが指摘されてこなかったシロフクロウも、今回絶滅危機種として「VU(Vulnerable:危急種)」にランクされました。
北極圏に生息するシロフクロウはレミング(ネズミの一種)を主食とする猛禽類ですが、近年の温暖化によってレミングの発生に変化が生じ、減少が指摘されているためです。
レッドリストに掲載される野生生物の中には、今も多く開発や狩猟、採集などによる脅威を受けている種が含まれています。
それに加え、地球温暖化や「食」と関連した視点で、レッドリストが注目され、危機が指摘さるようになったことは、近年の地球環境の悪化とその状況を示す、新しい変化といえるでしょう。
今後も求められる調査研究への支援と保全活動の拡充
これらの他にも、最新版のレッドリストには、従来は絶滅の粋が指摘されてこなかった野生生物が、いくつも加えられることになりました。 特に、野生のイネのように、調査がなかなかできなかった分類群の生物までが評価の対象となり、レッドリストが充実したことは、大きな進展です。
今回この植物群、および日本の南西諸島の爬虫類の調査研究を実現させたのは、トヨタ自動車が世界の生物多様性保全活動の一環として行なっている、5年間におよぶIUCNへの支援でした。
同社は、2017年12月5日に東京のフォーリン・プレスセンターで行なわれた、最新版レッドリストの発表記者会見およびパネルディスカッション「THE ROAD AEHAD:トヨタIUCN絶滅危惧種レッドリスト」にもパネリストとして参加。
この記者会見には、国内外数十社のメディアが参加し、IUCN生物多様性保全局長のジェーン・スマート博士および、IUCNレッドリスト部門長のクレイグ・ヒルトンテイラー氏より、レッドリストの更新版について説明がありました。
また、コメンテーターとして参加をされた環境省自然環境計画課長の奥田直久氏、IUCN日本委員会会長の渡辺綱男氏、そしてトヨタ自動車株式会社環境部担当部長の饗場崇夫氏からは、今回のレッドリスト掲載種の増加が、食料安全保障へも大きな脅威になることや、島嶼地域に生息する固有種が、外来生物や外的な環境変化の影響を強く受けやすい問題を指摘しました。
そして、IUCNと同じくトヨタ自動車とパートナーシップを結び、アジアの生物多様性保全プロジェクトに継続的な支援を受けているWWFジャパンの東梅貞義自然保護室長も、パネリストとして登壇。
レッドリストのデータを活用し、WWFジャパンは、水田に住む絶滅の恐れの高い魚類などと農業との共生を目指し、新たな保全活動に着手したことについて発表しました。
どのような種が、どのような問題によって絶滅の恐れに瀕しているのか示すレッドリストのデータは、分析し、活用することで、効果的なプロジェクトの遂行につながります。
さらに、レッドリストのデータが示す課題を共通認識として、企業や消費者、政府など多様な人々と協力し、行動変革を促すことが、資源の持続可能な利用や生態系の保全に重要な要素であることを説明しました。
この記者会見の中で、ヒルトンテイラー氏は、「化石の記録によると現在の種の絶滅の速さが、自然に種が絶滅する速さのおよそ1万倍のスピードである」ことを強調。
野生生物を絶滅に追いやる、大きな脅威である持続可能でない自然資源の利用や、生息環境の破壊、そして気候変動などの問題を、実効性のある対策と行動で解決していくかが重要であることを訴えました。
レッドリストは、悪化の一途をたどり、さまざまな社会問題、経済問題の原因にもなっている、地球規模の環境問題の実情を示す、生命のバロメーターです。
国境を越えた協力のもと、調査研究を進めつつ、絶滅危機の回避を目指した取り組みの充実が、求められています。
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