『ダイアナ』(Diana)2013年(英)
この映画評論の連載で、偶然にも3回"女性"主人公の自伝的映画が続いた。それだけ、女性が活躍している世の中になってきたということか。
本作は元イギリス皇太子妃ダイアナの映画で、チャールズ皇太子と別居してから、36歳で亡くなるまでの期間を描いている。ダイアナは1961年7月1日生まれで、97年8月31日に交通事故によってパリでなくなった。筆者よりも2歳年上であり、本作の内容は目の前で見ていた歴史であった。
主演は、最近評価が高まっている演技派女優ナオミ・ワッツ(45歳)。主たる作品は、『マルホランド・ドライブ』、『ザ・リング』、『キング・コング』、『ザ・リング2』、『インランド・エンパイア』、『ザ・バンク 堕ちた巨像』、『フェア・ゲーム』などといったところか。
監督は、ドイツ人のオリヴァー・ヒルシュビーゲル。主たる作品は『ヒトラー ~最期の12日間~』、『インベージョン』などである。色々な意味で、イギリス人ではなく、ドイツ人だからこそ作ることができた映画ではないか。ちなみに、現在のエリザベス女王の先祖もハノーバーから来たドイツ人である。
ダイアナ(ナオミ・ワッツ)は20歳で英国王室に嫁いだが、95年に夫のチャールズ皇太子と別居してからすでに3年の月日が過ぎたところから映画はスタート。ある日、彼女の親友であり、治療師でもあるウーナの夫が心臓発作で倒れたと連絡が入り、ダイアナも急いで病院に駆け付ける。そこで彼女は、優秀な心臓外科医ハスナット・カーンと出会って、付き合うようになる。名前からも分かるかもしれないが、彼はパキスタン出身でイスラム教徒であった。この作品の大部分はこのハスナットとの恋愛物語であり、ダイアナは10代の少女のように恋愛し、結婚を願望する。イスラエルのラホールにあるハスナットの実家を訪問し家族にも挨拶する。しかし、将来について意見が別れ、二人は分かれることになる。彼女はすさんだ日々を送る。
その後、ヤキモチを焼かせようということもあったのか、大富豪のアラブ人ドディと付き合うようになる。地中海に旅行に行った時などに、写真もパパラッチに取られて大きくマスコミに取り上げられることになった。その後、パリにおいて二人で交通事故にあって帰らぬ人となる。その交通事故もいろいろな噂も出たが、本作ではそこには触れない。
本作品でもそうであるが、筆者が特に注目したいのが、彼女が行った地雷禁止の人道的な活動である。最後に出るが、99年に対人地雷禁止条約が締結された。
このとき筆者は黒澤明監督の『生きる』を思い出した。生きてきて、世の中のために何かしたい、という強い気持ちである。東京国際映画祭で観た『捨てがたき人々』も「人間はなんのために生まれたのか」ということがテーマであった。
経済学分野では駆け出しの筆者がいうのは大変僭越とも言えるかもしれないが、先進国の現状は、現在の経済学では人間の"幸せ"への対応が難しくなってきているのではないか。はっきりと言うことは難しいが、現在の経済学はモノがない時代に作り上げられたもので、経済成長、単純化して言えば、モノを大量に売買すること(GDP増加)やそもそもモノやおカネが大量にあること(資産蓄積)を幸せの前提とおいている。現在のように経済が発展し、モノが充足してしまうと、それが幸せと乖離してきているような気がする。
つまり、現在の経済学に基づき、例えば、量的緩和をおこなって、経済成長を維持しても、人間の幸せは増しますか、という問題である。日本の自殺者は約3万人もいて、自殺の多い国となっている。もちろん、経済学の世界では量的緩和は非常時の経済政策であることは皆分かっている。当然であるが、安定的な収入は必要不可欠である。
日本の高度成長期にはGDPが増加すれば、幸せになると信じていたが、あまりそうではないような気がするのは筆者だけだろうか。やはり、人間はおカネも大事であるが、何かを成し遂げていきたいのではないか。こんなことも大学の講義やボランティア公開講義の宿輪ゼミでたまに話している。
宿輪ゼミ
経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪純一が2006年から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の時の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたにも分かりやすい講義は好評を博しています。まもなく8年目になり「日本経済新聞」や「アエラ」にも取り上げられました。
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