先日、5月26日のNHKニュースで、「外科医の4人に3人が当直明けに手術に参加し、その20%が手術の質の低下を感じている」というショッキングな報道がありました。しかも、外科医不足のために当直明けの手術をやめると手術が立ちいかないといった内容のコメントまでも報道されていました。近年、一般外科医師の減少が指摘されています。このままでは、産科のように社会問題化する懸念すらあります。
|

12年で1割強、30~40代の減少顕著

先日、5月26日のNHKニュースで、「外科医の4人に3人が当直明けに手術に参加し、その20%が手術の質の低下を感じている」というショッキングな報道がありました。しかも、外科医不足のために当直明けの手術をやめると手術が立ちいかないといった内容のコメントまでも報道されていました。

近年、一般外科医師の減少が指摘されています。このままでは、産科のように社会問題化する懸念すらあります。

一般の方にとっては、一般外科といってもピンとこないかも知れませんので、その役割を簡単に説明します。開業医や病院の内科にかかってから紹介されることも多いので、ちょっと敷居の高い科のイメージがあるかもしれません。ですが、扱っている病気は、胃腸や肝臓、乳腺などの癌から、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)や胆石、鼠径へルニア(いわゆる脱腸)、痔など幅が広く、皆さんの周りで外科にかかったことがある人は意外に多いと思います。

主に手術で病気を治すのですが、手術は通常予定を組んで行われます。しかし、時には急性虫垂炎(いわゆる盲腸)に代表される腹痛や怪我などで、時間を争う状況の場合は緊急で手術が行われることもあります。

一般外科医師の動向に関して、筆者は山形大学の成松宏人准教授、東京大学医科学研究所の上昌広教授と共同で調査を行いました。結果を記載した論文は日本外科学会の英文雑誌 Surgery Todayに5月28日に掲載されました。

1994年から2006年までの12年間に全実働医師は約2割増加しましたが、その間に一般外科医師は1割強減少しています。

これまで、こうした一般外科医師減少に対して、「なり手不足」の視点からの議論が行われていました。しかし、実際に調査してみると中堅層の離職が特徴的でした。

一般外科医師の離職率のグラフをご覧ください(図1)。1996年に一般外科だった医師が10年後にどの程度、一般外科として働いているか年代別に調査し、全実働医師と比較しました。Aが一般外科医師で、Bが全実働医師を表しています。その結果、注目すべきは、30~40歳代の一般外科医師が22.6%も離職していることです。この年代は一般外科医療の第一線に立っていて、しかも後進の育成の中心的役割を果たしていることを考えれば、事態は非常に深刻です。若手の育成にも不都合が生じ、一般外科医師不足が加速度的に悪化する可能性が考えられます。

Open Image Modal

次に、勤務形態に注目し、2000年における病院勤務、診療所勤務の一般外科医師の動向を検討してみました。29_~54歳の集団を見ると、診療所勤務の医師は徐々に増えていきますが、病院に勤務している医師は年々離職していきます。怪我や癌に対する大きな手術のほとんどが病院で行われていることを考えると、このままでは手術の順番待ちの時間が延びたり、緊急手術に対応できなくなったりする可能性が危惧されます。

他に興味深かったのは、一般外科医師の離職率が他の外科系医師に比べても大きかったことです。各科の医師数の変化の表をご覧ください(表1)。1996年に25_~74歳であった一般外科医師はその後10年間で約4人に1人が離職しており、これは他の外科系医師に比べて顕著です。それどころか、不足が社会問題化した産婦人科系の2割弱の離職率よりも深刻です。この結果から考えると、これまで外科系や産婦人科系の減少の原因として指摘されてきた、過重労働、医療訴訟、低賃金といった要因以外に一般外科特有の要因があるのかもしれません。今後の研究が必要です。

Open Image Modal

女性医師の問題にも触れておきます。近年、女性医師の増加は顕著で、医師国家試験合格者の約3人に1人は女性という時代です。もちろん、一般外科でも年々増加していますが、その割合が問題です。2006年の時点で一般外科医師の中での女性医師の割合は4.5%にすぎず、全実働医師の17.2%に遠く及びません。今後、女性医師が働きやすい環境整備や同僚の理解が重要だと考えます。

最後に、一般外科医不足に対する方策をいくつか上げてみます。一つの方策としては、手術の集約化が上げられます。手術をいくつかの病院に集約して行うことにより、医療チームの能力がより有効に発揮されます。しかし、集約により、地方の患者さんの利便性が阻害される等の悪影響も懸念されます。他の方策としては、開業したり、転科したりして大きな手術をしなくなった一般外科医が助手として病院勤務の医師の手術を手伝うという方法です。こうすれば、より少ない病院勤務の一般外科医がより多くの手術を行える可能性があります。もちろん、責任の所在を明確にする等の取り決めが必要になるでしょう。さらには、病院勤務の一般外科医師は手術に特化して、外来業務の大半を診療所に任せるといったことも考えられます。この場合、病院と診療所間の密接な連携が必要となるでしょう。

外科医不足に歯止めをかけるために、現在様々な活動が行われています。2009年には若手外科医師を増やすために、NPO法人「日本から外科医がいなくなることを憂い行動する会」が発足し、医学生への教育、市民への広報、行政への働きかけを行っています。余談ですが、この会は広報の一環として本も発売しており、野球の王貞治氏を対談に起用しています。また、2010年からは日本全国の手術・治療情報を登録し、集計・分析することにより外科の現状(医師の偏在など)を明らかにするためにNCD(National Clinical Database)が設立されました。今後、裏付けされたデータを基に外科医減少の対応策が打たれて行くことが期待されます。

今回紹介した研究の詳細は、下記の論文をお読みください。

Yasuhiro Mizuno, Hiroto Narimatsu, Yuko Kodama, Tomoko Matsumura, Masahiro Kami. Mid-career changes in the occupation or specialty among general surgeons, from youth to middle age, have accelerated the shortage of general surgeons in Japan. 28 May 2013.