残業を減らす「10の施策」 会議は30分・7人まで

経営にとっても従業員にとってもよい時短を目指すための方法を考えてみたいと思う。
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AH86 via Getty Images
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本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

働き方改革で、労働時間の短縮についていろいろな議論が行われている。

「時短推進派」は社外の交流が増えて創造性が高まることや、早く帰るための「締切効果」、ワークライフバランスがとれるメリットを強調する。

一方、「時間管理不要派」は仕事と遊びに境目はないから労働時間の抑制は無意味であると言い、盲目的な時短はやめるべきだと主張する。

いずれにせよ、時短にも「良い面」と「悪い面」がある。悪い時短はときに企業を破壊する。生産性も成長性も消滅させる恐ろしいものだ。今回は、経営にとっても従業員にとってもよい時短を目指すための方法を考えてみたいと思う。

はじめに、時短を取り入れる際には「組織の型」を見極める必要があることをお伝えしたい。組織は次の2つの型に大別できるものだ。

一つ目は戦略主導型(集権分離モデル)といい、トップダウン型の組織だ。ブレーン集団を従えた強力な「経営者(トップ)」がいて、その下に「実務をやる人(たち)」が並列にぶらさがっている。

ブレーンたちは「情報分析とコンセプト設計をする人(考える人)」であり、「実務をやる人」と業務がはっきり分かれている。こうした組織では、問題が発生すると「実務をやる人」は状況を報告して家に帰り、ブレーンが対応策を思案し検討し、トップが意思決定する。ブレーンとトップには多大な負荷がかかるが、多数派を占める実務をやる人にとって負荷が少ない仕事の仕方であり、トップとブレーンを除くほとんどの人の労働時間は多くない。

二つ目は環境適応型(分権調整モデル)という。ボトムアップ、あるいはミドルアップダウン型である。日本の大企業の多くの組織がこれだ。社員同士がお互いに情報をやりとりしてすり合わせる。トップの存在感はそれほどではなく、社員の意見を吸収し、コーディネーターとして紐帯的に機能している。社内の人は常に情報共有と認識合わせを必要とし、組織はクリアな戦略を持たず、実務をやる人=考えて試す人でもある。

問題が起きれば、個々人が知恵を出し合い改善し、トップに情報を上げる前に自動的に調整する。従業員のほとんどが自分の業務には直接関係のない様々な問題に巻き込まれ、自分の仕事や時間を主体的にコントロールできない。

間違った働き方改革は特に環境適応型の組織を破壊してしまう。環境適応型に時短を強制すれば、残業が極端に減らされ、会議時間はむやみに短縮され、テレワークが推進され、会社の席はフリーアドレスとなる。雑談も禁止だ。このため、情報共有と認識合わせの時間が格段に少なくなる。

短期的には「残業を抑制しても売り上げは変わらなかった」などと喧伝されるが、しばらくすると外部変化に適応できず顧客の要望についていけなくなる。また将来有望な事業の種を、雑談や会議のこぼれ話から拾うこともできず、成長性も阻害される。

そもそも、時短に対する取り組みはこれまでも幾度となく繰り返されてきたのである。最初は良く見えても、競争力が落ちてしまい、その回復のため、結局、情報共有と認識合わせの時間が復活し元に戻る、という繰り返しだったのである。

適切な時短は、組織を戦略主導型に変えるか、環境適応型であることを認識したうえでできることを行う、という二点しかない。

戦略主導型に変える場合は事業と組織の建て付けを一新する。優位性のある領域だけに絞り勝てる商品・サービスを徹底的に伸ばす。集権型組織で、考える人、決める人、やる人を分ける。考える人として、ブレーンを集め、きちんとお金を払う。考える人を使いこなし、ものを決められる経営者が上に立つ。考える人と経営者は多忙だが、前述の通り、これなら多くの人の働く時間を削減できる。

エリート支配のイメージの濃い組織運営なので、昔ながらの参画感を大事にしたい人には好まれないが、今の時代、こういった組織のほうが働きやすいと考える人も増えている。中堅企業であれば、経営者の代替わりに合わせて経営のモデルチェンジが可能だ。

では、他方の環境適応型にふさわしい時短とはどういうものか。

要諦は「一定量のコミュニケーション維持しながら、その精度を上げ、注力すべき領域にエネルギーの集中的な投入を図る」ことである。撲滅すべきは、コミュニケーションの失敗による混乱、準備過剰、前例があるのにゼロからのスタート、非効率な情報探索の二度手間三度手間、不要な人の巻き込み、手戻りやり直し、骨折り損のくたびれもうけ......などである。

具体的には、次の10の施策が有効だ。次ページ以降で詳しくご説明する。

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●施策1:文書フォーマットを改善する

文書は必要な要素を漏れなく記述し、誤解なく正しく伝え、書く時間、読む時間を節約する。逆に言えば、文書フォーマットさえしっかりしていれば、検討漏れも無駄も少なくなる。フォーマットは思考すべき内容と流れを誘導するので、使い慣れると正しく考えられるようになるのだ。

起案書、報告書、日報、計画書など、いくつかのフォーマットを決めておくとよい。例えば以下のような感じだ。

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プレゼンテーションソフトの興隆で資料作成時間はいたずらに増え、本来必要な情報は語られず、コミュニケーションロスが増えてしまった。社外はともかく、ほとんどの社内会議は、上記の文書フォーマットを活用すれば、1~2枚の全体構成図のようなものを除けばプレゼンソフトの使用はほぼ不要である。

●施策2:社内メールのCCは禁止、タイトルを適切にする

必要な人に必要な情報を送り、CCで無用な時間を使わせないことを徹底する。CCとは「関係者を入れておく」程度の認識となっており、いたずらにメールの量を増やす、ほぼ不要なものだ。また、一目で要件が分かる適切なタイトル付けを指南する。「例の件」、「会議の件」などの具体性を欠く表現は今日から慎もう。

●施策3:業務時間内のSNSは禁止。社内向けSNSは積極活用する

SNSは果てしなく時間を食うことがある。社内SNSなら仕事に関係することに自粛しやすいうえ、少なくなりがちな社内のコミュニケーションにも資するため、むしろ積極的に活用したほうがよい。

●施策4:ナレッジシェアを進め、社内報を整備する

前例があるのにゼロから考える必要はない。誰が何の知恵を持っているのか知っていることが価値を生み、時間を短縮する。成功した企画書や過去の試算などのストック情報はむろんだが、いま社内のどんな部署でどんな人がどんなことをしているのか、というフロー情報も必要で、これは社内報(というより「新聞」に近い最新の事例を共有するもの)が担える部分だ。

●施策5:情報システムを統合する

大企業ではかなり前に終わっているが、いまだに各種の社内のシステムがばらばらのまま、別処理をしなくてはならない中堅企業は多い。出張旅費処理の申請のため紙を出力して押印し、再び経理システムに入力するなどの業務フローは時間のロスにしかならない。

●施策6:会議は30分、7人までにする

会議を短くするには、時間制限と人数制限を設けることだ。単位を1時間ではなく30分に、参加人数を7人までを標準とする。一説によると、出席者が7人を超えると、一人増えるたびに、実行可能で優れた判断を素早く下す可能性が10%低下するのだという(※)。これを「7の法則」と呼ぶようだが、実感にもかなりマッチするデータである。

ただし、30分で済ませるには条件がある。事前にテーマ設定がしっかりしており、会議の参加者全員が内容について一定レベルの知識や「相場観」を持ち、会議の目的を予め合意できていることが必須だ。また、主催者は、具体的な対応の選択肢とその長所短所を端的に説明できなければならない。もちろんメンバーは終了時間厳守という強い意志で臨む。発表時間が限られるので、ここでもフォーマットをもとに話を進める。

 また主催者は、会議終了後にできるだけ討議内容を詳しく盛り込んだ議事録を作成し、初見の人でも読めばわかるものにするようにしなければならない。会議の参加人数が多くなるのは、参加者(後述する素人管理職が多いことも原因)が非参加者に内容を適切に説明できないことによる。そこを補足するため、主催者が丁寧に議事録を書くことで、多くの人の時間をセーブできる。

 しかしこれとは別に、時間をゆっくりとった「じっくり会議」を定期的に実施したほうがよい。そこでは、最近どんなことがあったか、何が困るかなどを話すことで、通常の報告には乗らない社内の問題点や、時短会議ではこぼれ落ちる成長の種を見つけるための雑談が可能になる。

※マイケル・マンキンス 著『TIME TALENT ENERGY ―組織の生産性を最大化するマネジメント』(プレジデント社)参照

●施策7:前後の工程に全員が習熟する

自分が携わる業務や部署の前後の工程を知ることで、時間のロスを防ぐことができる。

例えば見積もり。多くの場合、初期段階の検討は大まかな費用概算さえわかれば十分である。「500万円くらい以下なら可能性あり、それ以上なら無理」という会社に対して、わざわざ生産部門が最初の段階で細かい試算をして見積もりを出す必要はない。営業部門で大まかな工程とコストさえ把握していれば、「300万~500万くらいです」「1000万円くらいはかかりますので、別の方法を考えます」と即答することができる。

同様に、前後の工程について知識があれば、当該部門に問い合わせなくても、適切なトラブル対応のあたりがつけられる。もちろん他部署について知れば、社内協業も促進される。そして、コミュニケーションロスも防止できる。前後の工程のフローのどこに工数や手間がかかるかについては、定期的に互いに勉強会をするだけで相当詳しくなることができる。

●施策8:個別対応から原則対応へ転換する

問い合わせに個別に対応していては、ノウハウが個人にしか溜まらないうえ、担当者によって対処が異なるのは衝突のもとになる。一度、あらゆる情報を集めて体系化し、場合ごとの対応策を決めておけば処理の時間が相当に短縮できる。

例えばクレーム対処ならば、一度、過去のクレームをすべて集めて、対応原則を決める。原則に当てはまらないものだけ協議することにすれば、90%以上の対応は、ほぼ「反射的」にでできるようになる。

●施策9:儲からない事業や商品をやめる

これこそがもっとも時短に効く施策である。商品別の売り上げを検分して、得意なところに集中し、赤字商品で将来の見込みもないものは速やかに撤退する。営業コスト、工場の商品ライン切り替えコスト、部品の保管コスト、本社部門の管理コストなどを個別の商品に割り当てみれば、赤字商品に時間をかけ過ぎていることが見えてくるだろう。

稼いでいるのは3割の商品で、4割はまずまず。3割は赤字の商品、ということになっていても、まずまずの4割のうちの半分くらいは間接部門のコストを配賦すると赤字だ。そして、半数(3割の赤字商品と2割のまずますの商品)の赤字商品に7~8割くらいの時間を注いでいたりする。

事業や商品の撤退を進めようとすると、「取引先の社長が課長時代に作ってほしいと言われた商品だから絶対にやめられない」「そんなことを言い出すと出入り禁止になる」などと社内で大反対に遭うが、売れていない商品が相手にとって大事であることなどまずない。相手の社長も「あらまあ、あの商品まだ売ってたの。すっかり忘れてた」といった反応であることがほとんどだ。

利益を生み出さない事業や商品に時間をかけることこそ、「骨折り損のくたびれ儲け」であり、将来の見込みを見積もったうえで、厳しいものは果断に撤収をしていく(あわせて強いところに再投資する)ことが、時短にとっても経営にとっても必要である。

●施策10:自分で決められる管理職を育成する

これも多くの職場で実効性が高い施策である。職場に素人上司がいると、自分では何も決められず、人を集めた会議でものを決めようとするため、無駄な時間が増えていく。管理職は仕事に習熟していることが絶対条件であり、将来、経営リーダーとして会社を担う人以外の管理職(異動後、半年たっても、私は素人なのでよくわからないのですが...などと公言してしまう人)の無意味なローテーションはいますぐやめるべきだ。

例えば、上司に業務に必要な知識があって、即断できれば、10分(5分×2人=上司と相談した部下)で済む。しかし、会議で決めるとなると10時間かかる。(資料作成120分+事前打ち合わせ 30分× 2人× 3回+会議15分× 20人...トータル600分)実に60倍の時間を食う。

このほかにも管理職がしっかり機能していれば、手戻りをなくし、トラブルを減らすことができる。また、メンバーの特質を知り、活かすことでメンバーの力量を上げて、結果的に生産性の向上、時短につながる。この意味で現場社員の時間の節約は管理職の力量に負うところ大である。

以上、組織のスタイルと10の施策について駆け足で述べてきたが、すべての企業にすべての施策が使えるわけではなく、事業環境、従業員の特質など自社の状況や特質に合わせて、ふさわしい施策を組み合わせていく必要がある。ただ、いずれにしても重要なのは経営者の役割である。

戦略主導型に変える場合はもちろん、環境適応型における施策の中でも効果の大きい5、9や10の実施などは、結局のところ経営者の覚悟と意思決定があって初めて成し遂げられる。何でも同じだが、担当者まかせの対策では、たとえ成功しても、限定的なものに留まらざるを得ないのである。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)

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