「容疑者や囚人から、有益な情報を得るためなら、拷問は許される」
「身体に危害のない拷問はましだ」
「拷問をしているのは、中国や北朝鮮、シリアなど、人権を尊重していないような国ばかりだ」
このような言葉を一度は耳にしたことがあるかもしれない。しかし、これら通説がまったくの思い込みであるということを、みなさんはご存じだろうか。
【通説その(1)】 拷問は戦時中、テロの容疑者や戦争の犯罪者に対して行われる。
米国中央情報局(CIA)と結託して、ポーランド政府が設置した秘密刑務所が問題となり、2013年に開かれた国際会議にて。2002年から2005年にかけて容疑者が強制失踪させられ、拷問を受けたとされている。©Third Party
米国が主導する「テロとの闘い」の下、拷問は、とりわけ国家の安全保障対策として捉えられるようになり、テロの容疑者や戦争の犯罪者に行われるものと考えられるようになった。しかし、現実は、海外ドラマの「24」や「ゼロ・ダーク・サーティ」とはほど遠い。
実際に、拷問や虐待を受けているのは、テロリストのような危険な人物だけではない。一度も武器や爆弾を手にしたことがないような人がほとんどだ。被害者は、貧しく、社会から排除され、小さな罪を犯した者で、拷問をしてもそれが明るみに出ない人たち。あるいは、政府と異なる意見や信条をもつ者で、当局が邪魔者と見なしている人たちだ。その中には政治家やジャーナリスト、人権活動家も含まれる。
【通説その(2)】 拷問は、迅速に有益な情報を得るための一手段。
2014年2月にフィリピンで発見された拷問ルーレット。警察官たちは、ルーレットを回しながら、囚人たちをどのように拷問するかを決めていた。© Philippine Commission on Human Rights
アムネスティが2014年に実施した国際的な意識調査によれば、実に3分の1以上が、市民の安全を守る有益な情報を得るためなら、時に拷問は許されると回答している。しかし、拷問によって得られる情報は、信憑性に欠け、後の捜査や判断を誤った方向に導く元凶となる。拷問を受ければ、人は何でも言うし、嘘もつくからだ。拷問やその他の残虐な刑罰以外にも、人の尊厳を損なわずに、容疑者や囚人から情報を引き出す方法はいくらでもある。そこから得られる情報のほうが、より正確で有益である。
【通説その(3)】それ程ひどくない拷問方法もある。
© Amnesty International
拷問は、程度で図るものではない。拷問とは、「公的資格を持つ者が、身体的か精神的かを問わず、人に故意に重い苦痛をあたえること」である。これは、国際社会が合意して決めた定義である。
「ひどくない」拷問方法であれば、許されるという考えは間違っている。殴る・蹴る、電気ショック、強かん、水責め、タバコの火を押し付ける、睡眠を与えない、ひげを剃る、犬をけしかける、苦痛な姿勢をとらせ続ける、長期の拘留・・・。いかなる形態の拷問も卑劣であり、違法である。
【通説その(4)】 拷問が許される場合もある。
国際人権基準で、拷問やその他残虐な刑罰は「絶対的」に禁止されており、戦時も含め、いかなる状況下でも許されないと定められている。この絶対禁止の規定は、国際社会がとりわけ強く合意していて、拷問等禁止条約及びその他関連する国際規範に締約していない国々に対しても、法的拘束力が及ぶ。つまり、加害者は、どこで、どのような理由があっても、処罰の対象となるのだ。そして、拷問を取り締まらない国は、国際的な取り決めに違反していることになる。しかし、ほとんどの場合、加害者の責任が追及されることはなく、卑劣な人権侵害が野放しになっている。
【通説その(5)】 「最悪」といわれる国が拷問を行っている。
2012年にアムネスティが行った調査で、拷問が確認された国の数は、なんと112カ国。いまだにほとんどの国で拷問が行われており、日本も決して例外ではない。例えば、日本では、取調べの様子を監視する制度が整っておらず、取調べに弁護士が立ち会うことができない。また、被疑者を最大23日間拘束でき、取調べ時間も制限されていない。こうした密室の取調べや長期の拘禁が、人びとを精神的に追い詰め、虚偽の自白の温床となっている。国連から何度も是正勧告を受けているが、日本はこうした制度をいまも維持している。
国際社会が拷問をなくすと約束して30年が経つが、いまも多くの人が拷問によって尊厳を奪われ、苦しんでいる。各国は、拷問撲滅に向けた行動を早急にとらなければならない。それには、ただ単に「拷問なんて、いけない」と宣言するだけではいけない。私たち一人一人が、誤った通説を正し、その上で拷問撲滅を訴えかけていくことが必要である。
(アムネスティ・インターナショナル日本)
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