©Amnesty International Japan / Chiemi.N
繰り返されるミサイル威嚇に大規模な軍事パレード、大量動員しての将軍様礼賛行事・・・。こうしたニュースが報道される度、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を脅威に感じ、理解しがたい謎多き国だと思う人も少なくないだろう。
国内で悲惨な人権状況が続く北朝鮮では、その実態を世界から覆い隠し、市民の声が外に出ないよう、長年、人の移動を厳しく制限し、徹底した情報統制を続けている。北朝鮮が、国際社会から最も孤立し、ベールに包まれた国だと言われる所以だ。
独立したメディアはなく、テレビや新聞、ラジオで報道される内容はすべて政府に管理されている。政府の手と目は個人間の通信にまで及ぶ。それによって、多くの人が家族との大切なつながりを断たれている。
アムネスティは、北朝鮮から韓国や日本へ逃れてきた17人に聞き取りをして、今年3月に報告書「禁じられた通信~北朝鮮における徹底的な情報統制」を発表した。報告書は、当局による通信に対する規制、妨害、監視によって、苦境に追いやられる市民の状況を明らかにしている。
■ 徹底した通信規制で、つながりを断たれる北朝鮮の家族たち
調査の中で、証言してくれた一人、チェ・ジウさん(仮名)は、こう話す。彼女の両親は、生きるためにやむなく、子どもを置いて2008年に国を逃れた。
「両親が無事に逃げられたのか、どこにいるのか、まったくわからなかった。ある日、当局が私たちの家を訪ねて来て、『両親は国境付近で警備隊に銃殺された』と知らされた。確かめようもなかったので、彼らの言うことを信じるしかなかった」
ジウさんの両親は、実際には、無事、韓国へ逃れることができ、生きていた。しかし、それを知らせるすべはなかった。敵国である韓国から、しかも国を逃れた人からの手紙を受け取れば、子どもへの監視の目が厳しいものとなる。電話は盗聴される可能性があり、内容によっては罪に問われる恐れがある。そもそも国際電話自体が困難だ。
北朝鮮に国際通信の技術がないというわけではない。固定電話では無理だが、2008年から始まった携帯電話サービスでは国際電話が可能だ。しかし、それが許されているのは、選ばれたわずかな人だけだ。
郵便局に設置された電話機を使って海外に電話することも可能だが、常に当局の監視を受けている。
■ 離ればなれになった家族と話すために
国内の公式サービスを使わず、当局の監視をかい潜って海外と通話するには、「違法」な手段に頼るほかない。ブローカーを介して、中国から密輸された携帯電話を使用するのだ。
深刻な飢きんで政府の食糧配給制度が崩壊したことを機に、1990年代後半、北朝鮮ではグレーマーケットが台頭した。食糧以外にも、服や海外ドラマ、映画のDVD、そして携帯電話にSIMカードも密輸され、非公式の為替レートで売買されている。しかし、グレーマーケットで売られている中国の携帯電話は高価だ。大半の人には、手が届かない。
多くの場合、北朝鮮を逃れた者が、資金を貯めた後に高額な費用を支払って、ブローカーに通話の仲介を依頼する。このブローカーは、国に残した家族への送金に利用するものだが、仕事柄、中国の携帯電話を持つ彼らは、同時に家族同士の連絡を請け負うこともある。
ジウさんも、父親がよこしたというブローカーを使って、北朝鮮から国際電話をかけた一人だ。中国回線がつながる国境付近まで、何百キロもの道のりを移動しなければならなかったという。
密輸された携帯電話の売買や利用は処罰の対象となる。会話の内容、話している相手の国によっては、違法取引あるいはその斡旋の罪、最悪の場合、反逆罪に問われる。当局は中国製携帯電話その摘発に、昼夜、目を光らせている。見つかれば、厳しい労働を強いられる収容所に投獄される可能性もある。
当局に見つからないように、ジウさんは懐中電灯も使わず、暗闇の中を一晩中歩き続けた。やっとの思いで電話をかけ、ジウさんが両親の声を聞き、彼らの安否を確認することができたのは、離ればなれになって1年後のことだった。その後、韓国へ逃れ、両親と再会することができた彼女はこう語る。
「父の声を聞くことがなかったら、北朝鮮を離れようと思わなかった。両親と一生会うこともできなかった」
■ 孤立の道を進む北朝鮮で暮らす人たちのために
政権を継承した2011年以降、金正恩朝鮮労働党委員長は、国境警備を強化し、グレーマーケットでの取引と通信への監視・取り締りを一層厳しくしている。国際通信を摘発するための専門部署を設け、中国製携帯電話の発信を特定できる探知器や通話を妨害する装置を導入している。高度な技術に加えて、人と人とが互いに監視し合う従来の制度も広く行われている。
北朝鮮は、今、ますます孤立の道を進んでいる。私たちは、ベールの裏側で暮らし、これらの国の政策によって最も打撃を受けている人びとのことを決して忘れてはならない。世界中、どこにいても、家族や友人と話したいと願うのは、誰もが渇望する自由である。この自由を守るために、私たち一人ひとりが問題に目を向け、声を上げることが重要だ。
(アムネスティ・インターナショナル日本)
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アムネスティは、ジウさんのような家族を支援するキャンペーンを世界中で始めました。情報や通信の自由への過剰な規制と取り締まりをやめて、外の世界とつながろうとする人びとを不当に監視、拘束しないよう求める署名に、ぜひ、ご参加ください。
▽ 署名「国際電話も命がけ!? 海外にいる家族と話させて」
▽ 「北朝鮮:家族の声をつなげ!」キャンペーン
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