無国籍者に冷たいドミニカ

十万人暮らしている。サトウキビ農園の労働力確保のため、2国間協定のもとでハイチからドミニカへの移住が、1940年代から積極的に進められたためだ。

© Amnesty International

カリブ海に浮かぶエスパニョーラ島。この島にはドミニカ共和国とハイチ共和国の2つの国がある。ドミニカにはハイチ系移民の子孫が数十万人暮らしている。サトウキビ農園の労働力確保のため、2国間協定のもとでハイチからドミニカへの移住が、1940年代から積極的に進められたためだ。

しかし、ハイチ系住民の権利は軽んじられており、無国籍状態に陥ってしまった人たちも大勢いる。アムネスティのカリブ海地域調査員、チアラ・リグオリが先月現地に飛び、そんな人たちに話を聞いた。

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マリソルさんは26才。ドミニカでハイチ人の両親の間に生まれた。両親が身分を証明する書類を持っていなかったため、彼女も兄姉も出生登録がされなかった。両親が死去した時、マリソルさんは10才。都会の富裕家庭に雇われて、家事労働者になった。それ以外の選択肢はなかった。家主は、彼女を学校に行かせることを約束した。しかし、約束は反故にされ、1日15時間も働かされた。家族からは暴力もふるわれた。

出生が登録されていなかったため、就職、医療、教育のいずれを受けるにも必要な身分証明書を取得することができなかった。身分証明書がなければ、マリソルさん自身の子どもの出生を届けることもできない。「子どもにはましな将来を願ってたけれど、身分証明書がなくてはどうしようもない」とマリソルさんは嘆いた。

2014年末にドミニカ当局は、マリソルさんのように出生登録のない人たちが身分証明書を取得できるよう、6カ月間の帰化申請を受け付ける計画を開始した。しかし、マリソルさんがその計画を耳にした時には、申請期限が過ぎてしまっていた。

さらに悪いことには、雇い主は、正規の書類を持たない労働者を雇用したことでトラブルをこうむることを恐れ、彼女を首にするというのだ。

ドミニカに滞在しているこの2週間、同じような悲痛な話を数多く聞いた。しかしドミニカ政府は、この国で外国人の両親のもとに生まれ、正規の書類をもたないマリソルさんのような人が身分証明書を持てるよう、あらゆる機会を与えたと主張している。

ドミニカの憲法裁判所は2013年9月、一夜にして何千人もの人たちから国籍をはく奪するという恥ずべき判決を下した。ある時期に生まれた非正規滞在外国人の子孫に、間違って市民権を与えてしまっていた、というのがその理由だ。

国内外から激しい非難を浴びて、その後、特別立法で帰化プログラムを導入したが、多くの人がこの施策から取り残されてしまった。アムネスティがコンタクトした当局担当者たちは、その事実を認めようとしなかった。「大々的に案内したのだから、施策を知らなかった人が大勢いたとは信じがたい」と。

だが私たちは、マリソルさんのようにこの制度に登録できなかった多くの人たちの話を聞いた。シングルマザーであるデリタさんは、子ども10人の帰化申請に必要な費用を払えず、1人も登録できなかった。ロサナさんは申請しようとしたができなかった。両親が身分を証明するものを何も持たず、その書類がない限り申請はできないと言われた。法律には書類が要るとは、いっさい書かれていない。

ロサさんの場合は、帰化申請の受付期間中、国を離れており、家族と連絡がとれなかったために、家族の中で彼女だけが申請することができなかった。ジェシカさんはこの制度についてまったく知らなかった。

再び高まる非難をかわそうと、当局は「移民とその子孫に対する施策の真実」を世界に知らせるキャンペーンと外交作戦に乗り出した。

キャンペーンの主張は、ドミニカ共和国には無国籍の人間はいないとしている。ダニーロ・メディーナ大統領は6月26日、パナマでの中央アメリカ首脳会議で、政府の主張を正当化するために数値データをはじめとする大量の資料を配布した。

しかし統計の数字では、人生をめちゃくちゃにされてしまった人たちのドラマを伝えることはできない。数字の外に目をやれば、そこには退学や失業を余儀なくされた人たちの真実の物語がある。最悪のケースでは、虐待され、差別され、搾取されている。すべて、身分証明書がないためだ。

「もし身分証明書さえあれば、高校を卒業して大学に進み、心理学を勉強することができたのに」とエステリーナさんは語った。「書類がないために、職につけず、息子を養えず、養子に出さなければならなかった」とメリーさんは打ち明けた。

マリソルさん同様、エステリーナさんとメリーさんも極貧状態から抜け出ることができず、子どもたちにはまともな将来を、という希望も持てない。

ドミニカ当局が打ち出した帰化プログラムは、こうした人たちの無国籍状況を改善するためであった。しかし、十分でなかった。

当局は、国籍がないことでさまざまな苦労をし、希望が打ち砕かれているマリソルさんのような人たちがいる事実を認めるべきだ。そして何よりも、彼らの無国籍状態に終止符を打ち、正規の身分証明書を与えるべきである。

誇大な情報操作ではなく、無国籍者がひとりもいなくなるような対策をとることでしか、世界を納得させる方法はない。

(アムネスティ・インターナショナル日本)

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