収容施設の暴動で亡くなった青年を追悼するオーストラリアの人たち(C)DAN PELED/epa
昨年、当時のオーストラリア首相ケビン・ラッド氏は、就任3週間目に「今、この時点からオーストラリアにボートで到着した庇護希望者には、難民としてオーストラリアに定住する機会はない」と明言した。
難民を受け入れない姿勢は、国際社会の非難をよそに現政権にも受け継がれている。アボット首相の公約は、「ストップ・ザ・ボート」だ。船でオーストラリアを目指す難民を、国境警備隊と海軍を使って追い返している。
この6月には、庇護希望者157人の乗った船がオーストラリア海軍に拿捕された。多くはスリランカから逃れてきた人びとで、今まさに強制送還される危機にある。
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追い返された人びとには、逃げてきた国に送り返されるか、太平洋の島にある収容施設に送られるか、ふたつの道しか残されていない。こうした施設は、オーストラリアの領土ではなく、ナウル共和国やパプアニューギニアにある。ここで、難民認定の審査が行われ、結果が出るまで待つのだ。難民と認定されても、住むのはナウルかパプアニューギニア、あるいはオーストラリアが今まさに協定を結ぼうとしているカンボジアなどの別の第三国だ。
■ 囚人扱いの収容環境
アムネスティは昨年末にパプアニューギニアのマヌス島にある収容施設を訪問した。収容されている人びとは口々に「まるで刑務所のようだ」と話す。鍵のかかったフェンスに囲まれ、出入口には守衛が立っている。居住施設は過密状態で、仕切りはなく、プライバシーはまったくない。一番ひどい所では、50畳ほどの広さに61の2段ベッドが並ぶ。ベッドの間隔はわずか20センチ。112人が毎日を過ごすこの建物は、まるで戦時中の格納庫のようなかまぼこ型のトタンづくりで、風は通らず、窓もない。蒸し暑いマヌス島では極めて不快だ。トイレとシャワーの数は限られ、しかもよく壊れる。当然、列をつくって並ぶはめになるが、待つのは炎天下だ。そして着替えの支給はわずかである。
こうした肉体的にも精神的にも不衛生な環境では病人が出ても不思議ではないが、医療の設備もスタッフも不足している。
職員による暴力や人種差別的な中傷も起きている。今年2月には、あまりの劣悪さに一部が脱走を試みたことがきっかけで暴動になり、死者まで出た。
■ 排斥と受け入れを繰り返す
実は、難民認定を自国で行わないという一種の隔離政策は、収容状況のひどさとあいまって、国際的に強い批判にさらされ2007年に廃止されていた。廃止を決めたのは、他でもない冒頭に出てきたラッド前首相だ。第一次政権の時である。しかし、隔離政策は2012年に再開された。
ほかの多くの国と同様、オーストラリアでも移民の受け入れは常に議論の的であった。同国では大英帝国の植民地時代から1970年代まで、白人が最優先され、非白人は排斥されてきた。いわゆる「白豪主義」である。変化が起きたのは第二次大戦後。国際的に人権規範が広がる中、人道の観点と労働力不足を補う点から、白人以外の移民受け入れに舵を切り、先住民族の保護にも乗り出す。こうして「白豪主義」は消滅し、「多文化主義」が打ち出された。
難民認定を求める人びとは、オーストラリアを目指すようになった。その数は大幅に増加していき、キャパシティが限界に達する。不正に入国する者も後を絶たなかった。そんな中、同国が解決策として打ち出したのが、「パシフィック・ソリューション」だ。第三国に移送し、そこで難民認定の審査を「じっくりと」行うことにしたのだ。申請者は強制的に収容され、結果が出るのを待つことになる。この政策には、なんと8割近い国民が支持を表明した。
■ 隔離政策の復活
2001年から始まった「パシフィック・ソリューション」は、前述のように2007年に終止符が打たれた。難民に対する寛容な政策が復活したオーストラリアには、庇護希望者が押し寄せるようになる。そしてそこに密航ビジネスが暗躍し、密航船の沈没・座礁が多発するようになる。その批判の矛先は、斡旋業者はもちろん、オーストラリア政府にも向けられるようになった。
こうして苦渋の策として、2012年、難民受け入れ数を引き上げる代わりに収容と審査は国外で行うとして、「隔離方式」を再開したのだ。それでも難民船は押し寄せつづけた。冒頭のラッド前首相やアボット現首相の発言にはこうした背景がある。
しかし、難民の保護は、国際社会の義務である。オーストラリアは難民条約とそれを補完する議定書に加入している。押し返すという姿勢は、とうてい許されるものではない。
アムネスティは国外での難民認定申請と収容をやめるよう、オーストラリア政府に訴えているが、それが実現するまでは収容所の環境改善を求めていく。
(2014年8月12日 アムネスティ・インターナショナル日本)
▽ オーストラリア:スリランカ人難民の送還を今すぐ中止に!
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