女性が輝く社会、フランス ~女性法曹家と人権~

女性差別的な態度や発言をする男性は、人に対する優越感を感じる必要がある男性です。

フランスで、弁護士会の会長は« 棒(バトン)を持つ者 »「バトニエ (Bâtonnier)」と呼ばれる。800年の歴史を持つパリ弁護士会は26.500名の弁護士 (うち女性14.150人) が登録し、年約5500万ユーロ (約72,6億円) の予算で運営される大きな組織だが、会長は、単に弁護士会を司るだけでなく、パリ市と海外で様々な公益活動を開催したり、民主主義の遅れた国で弾圧されている反体制派弁護士達へ支援を行うなど、人権擁護者として重要な役割を果たしている。

2012年から2年間パリ弁護士会の会長を務めた弁護士のクリスチアンヌ・フェラール=シュールさんに話を伺った。

Christiane Féral-Schuhl

クリスチアンヌ・フェラール=シュール

(弁護士、元パリ弁護士会会長)

略歴

23歳でパリ弁護士会登録。IT、個人情報法分野で20年にわたりフランスの弁護士界でリーダー的存在、 « Best Lawyers », « Chambers » « Legal 500 »などでLeading Individualsとして毎年高い評価を受けている。FERAL-SCHUHL/SAINTE-MARIE事務所ファウンディングパートナー。

調停人としても名高く、パリ調停仲裁センター (CMAP) 調停人、ICC国際仲裁裁判所仲裁人、世界知的所有権機関(WIPO)仲裁人として、サイバースクワッティング関連の紛争の解決に当たる。

2010年、女性としてフランス史上二人目のパリ弁護士会会長に選出され、2012年1月就任直後から、裁判文書の電子通達システム(RPVA) の一般化、男女弁護士の均等待遇確保委員会の設立、公益団体に資金援助を行うプロボノ財団の設立などのほか、パリ市と協力して « L'Avocat dans la Cité » (※「街中の弁護士」イベント、毎年10月にパリ市庁者の前に大きなテントが張られ、ボランティアの弁護士が無料法律相談を行う)や、« Bus de la Solidarité » (「人道援助バス」、毎週5日間、15人ほどのボランティア弁護士がバスに乗ってパリ市内の決まった場所に赴き、無料法律相談を行うもの)など、パリ市民のための新しい無料法律相談プログラムを立ち上げ、弁護士会の人道活動を拡大した。

 

2013年の国際女性デー には人権擁護のために戦う女性弁護士達を世界から招き、マララ・ユスフザイ にパリ弁護士会から勲章を贈る。

現在、首相直轄のフランス男女平等高等評議会メンバー、2014年6月から昨年11月まで国会の「情報化社会における自由と権利に関する特別委員会」委員長。これまでにレジオン・ドヌール騎士号、国家功労勲章司令官号の他、レバノンの国家功労勲章司令官号を受勲、26歳と28歳になる二人の息子の母。

永澤:世界で人権擁護のために戦っている女性弁護士達の生涯を描いたご著書「法服を着た女性達※※」で伝えたかったメッセージは何ですか。

フェラール=シュール:「人権擁護のための戦いはまた女性から生まれる」というメッセージです。

法律を職業として選び、社会で抑圧されている人々の人権を守ることをライフワークとしたこれらの女性達は、言論の自由の大切さと民主主義をまさに体現したものといえます。

タリバーンに殺されかけながらパキスタンで女性が教育を受ける権利を訴え続けているマララ・ユスフザイもその一例です。こうした女性達が勇気を持って命を賭けて戦うことを決めたのは、自分達が生まれた社会で伝統や宗教を名目に女性や弱者の人権が虐げられているのを見て、そうした不正義をそのままにしてはいけないと考えたからです。

特に若い世代の女性弁護士達がこうした素晴しい女性達を見本にして、勇気と強い意思を持って信念を貫き、正義のために戦っていくことを願い本書を執筆しました。

特に暴力や不寛容の犠牲になっている女性は、女性弁護士の助けを必要としています。弁護士としての法律の知識や職業的な立場からのアドバイスを超えて、同じ女性に話を聞いてもらい、励まし力づけてもらうことは、そうした女性にとって非常に大きな支えとなるからです。

本書は2013年の国際女性デーに合わせて出版されましたが、売り上げの印税は全額パリ弁護士会のプロボノ基金に支払われ、女性の権利擁護のための活動に回されています。

永澤:パリ弁護士会会長職を勤められる上で指針にされたことは何ですか。

フェラール=シュール:自分自身の価値観と直感、そして倫理観に基づいて決定を下すことです。

弁護士会の会長は倫理的、社会的問題について公式の声明を出す権限がありますが、そうした会長声明が社会的に大きな意義を持つためには、会長自身の信念と考えに基づき、公共の利益の見地から行われたものであることが必要です。他の権力者から影響を受けて声明を出したり、そうした権力者達の反応を気にしながら決定を下すべきではありません。

パリ弁護士会会長はフランスの法曹界や政界、メディアで強い影響力があります。私は会長時代そうした会長の「権力」は、弁護士業を進歩させるためだけに使わなければいけないことを意識していました。

私のイニシアチブでパリ弁護士会が始めた公益活動、例えばプロボノ基金やプロボノトロフィー(※ « Trophée Pro Bono »、毎年パリ弁護士会から人道的活動に最も積極的だった弁護士、弁護士事務所に与えられる賞)、« L'Avocat dans la Cité »イベントはその後長く続いて多くの人々の役に立っていますので、誇りの持てる形で会長職を果たせたと思っています。

永澤:パリ弁護士会会長時代、女性差別的な対応や発言を受けたことはありますか。

フェラール=シュール:ありましたが相手にしたことはありません。女性差別的な態度や発言をする男性は、人に対する優越感を感じる必要がある男性です。

そうした男性を相手にするのは時間の無駄。

私は幸い頭のいい男性達と仕事をする機会に恵まれ、そうした男性達に支えられてきたので、女性であることがキャリア上障害だと感じたことは一度もありません。

永澤:どのようにこれまで仕事と家族生活を両立されましたか。

フェラール=シュール:仕事と家族生活を両立させるためにはそのための環境と予算づくりが大切です。

私が決めたルールは二つ、一つは子供達が私を必要な場合に家に戻れるように事務所の近くに住むこと、もう一つは私か夫が帰宅するまで子供達の世話をするキッズシッターを雇うことでした。キッズシッターには費用がかなりかかりましたが、家族のバランスを維持しながら仕事を続けるために唯一の方法でした。

また夫と二人で、毎週一晩は夫婦の時間として男女の会話を楽しみ、週末は必ず子供達と過ごす時間を作ることを決めました。仕事場で何があってもこの家族の「しきたり」を夫も私も必ず守るようにしたので、家庭の問題が起こった時でも、比較的調和の取れた家族生活を送ることができたと思います。

私の夫は子供達と密接に接する父親で、うちの子供達はその点幸せでした。二人ともしっかりした大人に育って巣立ちしましたが、まだ私達家族の「しきたり」は続いていて、週末は必ず待ち合わせて4人で出かける日を作っています。週の中で一番貴重なランデブーです。

永澤:ご主人がどのようにこれまでキャリアを支えられたか教えて下さい。

フェラール=シュール:私のキャリアプランを常に応援し、重要な節目や出来事の際には必ず支えてくれました。夫はとてもいい聞き手で、私の決定やキャリアに干渉したことはありません。子供達に身近な父親でしたので、こうした夫の支えと家族の強いきずながエネルギーとなって、キャリアと人生をここまで築いてくることができたと思っています。

永澤:日本では結婚の際通常女性が自分の姓を放棄して男性の姓になります。夫婦別姓が家族のきずなを崩壊させるという考えについてどう思われますか。

フェラール=シュール:私の場合、自分の姓を持ち続けることは非常に大事でした。夫は私が夫の姓を持つことを希望しましたので、自分の姓に夫の姓を加えてFéral-Schuhlと名乗ることに妥協しましたが、その代わり夫に、子供達が私と彼の姓両方を持つことを認めてもらいました。

これまで30年の家族生活で、私達夫婦と子供達が別の姓を持っていることは今まで問題になったことはありません。ですから夫婦別姓が家族のきずなを崩壊させるという考えは間違っていると思います。特にキャリアのある女性にとって、結婚後自分の姓を名乗り続けることは非常に重要です。

永澤:去年まで委員長を務められた国会の委員会ではどのような活動をされましたか。

フェラール=シュール:情報化社会における自由と権利に関する特別委員会」は、クロード・バルトローヌ(Claude Bartolone) 国民議会議長が2014年6月に設置した委員会です。男女同数で、26名の委員、うち国会議員13名、民間の専門家からなる13名のグループが、インターネット上の個人情報の保護、表現の自由、プライバシーの権利に関する新しい法律を議会に提案する任務を担っています。

人権や自由を制限する措置を法律で認めるためには、それが法律の目的を達成するために不可欠で、バランスの取れたものであることが必要です。フランスでは去年、シャルリー・エブド襲撃事件を受けて7月に制定された諜報活動法( « Loi sur le renseignement »)で、諜報機関によるスパイ活動、すなわち個人や私企業のインターネットアクセス、通信等の監視措置が、テロの危険がある場合だけでなく「フランスの外交や経済、産業、科学的な利益」がある場合にまで広げられました。

私達の委員会は、同法により認められた、個人の自由やプライバシーを侵害するいくつかの措置が、テロの防止、公安の維持という法律の目的を達成するために不可欠で、バランスの取れたものであるという条件を満たさないおそれがあることに懸念を表明しています。

永澤:諜報活動法のどのような規定が問題となっていますか。

フェラール=シュール:沢山ありますが、例えば同法で認められた措置の中に、「ブラックボックス」と呼ばれるものがあります(安全保障法L851-3条)。

テロリストを見つけるために、全てのインターネットプロバイダーにテロと関連する言葉やアクセスに関するアルゴリズムのフィルターをかけ、そうした言葉を使ったりアクセスを行った者を容疑者として監視する措置です。フィルターの決定基準や適用範囲が明らかでなく、諜報機関が恣意的に決めた基準で、国による国民の大量監視・個人情報収集が可能となることが問題となっています。

永澤:最後に、余暇はどう過ごされていますか。

フェラール=シュール:読書とサイクリングです。自転車に乗ると心が落ち着いていいアイデアが浮かぶので、できるだけVélib' (※ ヴェリブ、パリ市のレンタサイクル)で通勤しています。そのせいでいつもズボンを履いていなければいけないのですが(笑)。

※※書籍紹介:

クリスチアンヌ・フェラール=シュール著「Ces Femmes qui portent la Robe (法服を着たこの女性達)」、PLON出版、2013年。

時に命を賭けて女性の権利を守るために戦った世界の女性弁護士達の人生を描く。

イランのシリーン・エバーディ(Shirin EBADI、2003年にノーベル平和賞受賞) 、フランスのジゼル・ハリミ(Gisèle HALIMI、1970年代妊娠中絶の合法化に貢献) 、南アフリカのナヴァネセム・ピライ(Navanethem PILLAY、元国連高等人権弁務官) 、パキスタンのアスマ・ジャハンギア(Asma Jahandir) 、ロシアのカリーナ・モスカレンコ(Karinna MOSKALENKO) 、アメリカのクリスチーナ・スワーン(Christina SWARN) 、アイルランドのローズマリ・ネルソン(Rosemary NELSON) など。ヒラリー・クリントンやクリスチーヌ・ラガルドが弁護士時代の苦労話も紹介。

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