"100歳まで人生が続くとしたら"。世界中で話題になった書籍『LIFE SHIFT』で紹介されたのは、道なき道を切り拓きながら関心分野の見識を深める"エクスプローラー(冒険者)"と呼ばれる人たち。
そんな新しいキャリアを今まさに実践中なのが、xyZing.innovation(翼彩創新科技(深圳)有限公司)CEOの川ノ上和文さんです。
北京留学や上海・東京などでの勤務経験を経た彼が次に選んだのは、台湾でのワーキングホリデーでした。
「"戦略的"なワーキングホリデー活用はキャリアアップにつながる」と話す川ノ上さんに、寿命100年時代の戦略的ワーホリ論を全9回にわたって伺います。
第1回は、現在携わっているドローン事業のお話から。ワーホリ前から抱いていた"ある思い"が事業立ち上げにつながったのだとか?
成長意欲あふれる都市・深センでの挑戦
ー現在は、中国・深センでどのような事業に携わられているのですか?
川ノ上:私がCEOを務めるxyZing.innovation(翼彩創新科技(深圳)有限公司)で行うのは、MICEといってMeetings, Incentives,Conventions, Eventsの頭文字をとった複合事業です。
もう少しわかりやすくいうと人やモノ、情報の掛け合わせから新たな産業創出を目指す場のプロデュースで、催事開催地への経済波及も生み出して行く事業です。
ドローン業界全体がこれから考えていかなければならないのは"ドローンを使って何をするか"、つまりサービスの開発です。
MICEを通じて多地域の人々が参加し、様々な業界をまたいで、ドローンの進化を追いながら、どんなふうにドローンを活用すれば世界中の課題解決に役立てられるかを探っていきたいと考えています。
私は、新しいことが生まれるときの肝は"いかに面白い組み合わせを創り出すか"だと思うんです。そうした組み合わせを仕掛けられる"場づくり"は引き続き大事にしていきたいですね。
ドローンx深センは第一歩で、新しい産業になりそうなテクノロジーやコンセプトは、深センを中心に他国への展開も見据えたMICEとして今後もプロデュースをして行く予定です。
今の深センは、新しい事業を興すのにすごく適しています。起業家を始め若い人がどんどん集まってきていて、平均年齢は32歳とかなり若い。
あちこちで大規模な都市開発が行われていますし、都市全体に「新しい産業を生み出そう」というパワーが満ちているんです。自分で事業をやるなら深センだなと直感的に思いました。
日中のドローン産業をつなぐ
※台湾ドローン展示会にて
ーそもそも川ノ上さんがドローンを知ったきっかけというのは?
川ノ上:ドローン自体を知ったのは、台湾でワーキングホリデーをしていた頃です。ビジネス誌で取り上げられていたり展示会も開かれていたので、気になってドローンのメーカーを調べてみたら、圧倒的に中国、特に深セン発のものが多いことに気づいて。
深センには以前バックパッカーで行ったことがあったのですが、ドローンの企業が多い都市という視点では見ていなかったので意外でしたね。
これは改めて見に行かなければと思い、台湾で知り合った日本人社長さんのアテンドとして、2015年に再び深センを訪れることにしました。その後、台湾でのワーホリ期間中にも深センを行き来しながら、ドローンについての知識を深めていったんです。
台湾の雑誌でインタビューを受けていた台湾人ドローン専門家にも連絡をして、会っていただきました。その方とは今は事業パートナーになっています。
ーその後事業を立ち上げるまでたった1年と、かなりスピーディに動かれていますよね。情報集めや人脈づくりはどのように進めていきましたか?
川ノ上:そうですね、深センで開催されているドローンに関する情報が集まるイベント等には積極的に足を運びました。もちろん日本側のドローン事情についても、事前にWebや書籍で調べて相手に伝えられるように準備していって。
というのも、私が深センのドローン事情について知りたいのと同じように、そこで出会う人たちも日本のドローン事情に強い関心を持っています。私が日本語のWeb記事や書籍で得た知識を中国語に翻訳するだけでも、相手にとっては貴重な情報になる。
逆の立場で考えてみても、単純に教えて欲しいというスタンスではなく、お互いに交換しあうほうがいいじゃないですか。
手土産みたいに持って帰ってもらえたらなとは思っていました。深センで定期開催されていたドローンサロンの主催企業に連絡をして、講師をさせてくれ、と交渉しました。
初の外国人講師としてサロンで話をさせてもらえることになり、立ち見が出るほど聴講者が集まったんです。
するとその場にドローンメーカーや証券会社のドローン部門担当者がいて、彼らの会社に別途招聘されて、メーカーの幹部チームや証券会社部門長の前で話す機会ができるなど、急速に深センのドローンネットワークが広がったんです。今の事業パートナーの多くもこの時期に出会った人々です。
そうして少しずつ集まってきた深センのドローン情報や実体験は日本語でFacebookにアップしたり、周りに話したりしていたのですが、すると今度は日本側でドローン普及に携わる人たちを紹介してもらうようになったんです。
彼らも深センがドローンの都市ということを知ってはいるものの、言語の壁があってなかなか情報を取れずにいたようで。
その後、ドローンにまつわるWebコラムを書かせてもらったり、日本の専門メディアや業界人向けに開催した深センツアーで私の深センネットワークを活かした企業見学や日中ドローン交流会をやったら、日本・中国の双方からの評判がすごく良かったんですよね。
その時から人や情報の交流を促進する場のプロデュースを事業化できないかと考えるようになりました。深センには"深センスピード"という言葉があり、とにかく変化が早く、新しいものがどんどん生まれているんです。
このエネルギーを感じながら自分自身も成長したい、さらにはもっと多くの人を巻き込んで、この場所を存分に活用する方法を考えたい、と考えが具体化していきました。
ワーホリで目指したのは「自分の"相対"価値を高め、"絶対"価値を創り出すこと」
ー事業を立ち上げたいという思いは以前から持っていたのですか?
川ノ上:自分の事業を持ちたいという漠然とした思いはワーホリに行く前から持っていたので、できればワーホリ期間中に自分自身の価値を高める実績を作りたいと考えていました。
ドローンをキーワードに活動するようになってからは、先ほどもお話ししたように、情報そのものが価値になることは意識していました。
特に、Web上に[自分の名前+得意分野]のアーカイブを残していくことは、実績として積み上げていけると思いましたね。そうやって少しずつ実践していたことが、今のMICE事業にもつながっていると思います。
私は幼少期にボードゲームの「ダイヤモンドゲーム※」が好きで親とよく遊んでいたのですが、このゲームが自分のポジションを創っていくときの参考になりました。
―ボードゲームですか? ぜひ詳しく教えてください。
ダイヤモンドゲームが面白いのは、他のコマによって自分の動きが変わること、そして移動前と移動後で自分がいる場所もコマ同士の位置関係もすっかり変わってしまうことなんです。
ピラミッド型の自分の陣地を「今いる業界や領域」、コマの一つを「自分自身」と考えると、新たなピラミッドを目指して移動することは"ポジションの再定義"と言い換えることができる。
つまり、自分が持つ能力や経験(コマ)と土俵(ピラミッド)の双方をよく観察し、どの土俵が今の自分にとって最も相対価値が高いかを考えることが重要なんです。
それに土俵は一つだけとは限りません。拡げてみた土俵が自分に向いていれば、そこで自然といいつながりができて来るもの。
そうやってポジションを再定義しながら得た情報や人とのつながり、それらの組み合わせが生み出す独自性は、徐々に自分の絶対価値として機能していくと思います。
"再定義"にあたって自分自身の理解は不可欠ですが、それを促進させてくれるのが"新たな人との出会い"です。
人と多く対話することで自分を説明する癖がつきますし、"相手の得意分野に興味を持った自分"との対話から気づきが得られることもあります。
未知なる土俵への導きは、こうした"対話の連続"も鍵なんです。ダイヤモンドゲームで隣り合わせのコマを介して移動して行く様は、まさにここにつながってきます。
台湾のワーホリ期間中も、自分自身の価値を創り出すための"いろんな土俵づくり"を試していましたね。
※ダイヤモンドゲーム:頂点が6つある星型のボードで行うゲームで、3つに色分けされた頂点部にある15個(王コマ1/子コマ14)のコマを対角線上にある同色の頂点部まで移動させるもの。
【プロフィール】
川ノ上 和文
xyZing.innovation(翼彩創新科技(深圳)有限公司)CEO
大阪出身、中国・深セン在住。xyZing.innovation(エクサイジング イノベーション )CEO/総経理。深センを軸としたアジアxMICE(Meetings,Incentives, Conferences,Events)の事業開発をてがける。高校卒業後、東洋医学に関心を持ち北京留学。その後留学支援会社での講座企画、上海での日系整体院勤務、東京での中国語教育事業立上げ、台湾ワーキングホリデーを利用した市場調査業務に従事。新興国や途上国における都市成長やテクノロジーの社会浸透、人間の思考や創造力の開発に関心が高い。現在、ドローン活用の思考枠を拡げるための場として深センでアジアドローンフォーラムの開催準備中。