アフガニスタン:「地雷ではなく花」を届けられるように

4月4日は、「国際地雷デー」

4月4日は、「国際地雷デー」。AAR Japan[難民を助ける会]は、1989年にタイ・カンボジア国境の難民キャンプで実施した地雷被害者を含む障がい者支援を皮切りに、ミャンマーや旧ユーゴスラビア、モザンビーク、アンゴラ、スーダンなどで地雷・不発弾対策(以下地雷対策)を実施してきました。また、1997 年にノーベル平和賞を受賞した地雷禁止国際キャンペーン(ICBL:International Campaign to Ban Landmines)の主要メンバーとして授賞式にも招かれ、その後も国内外でのさまざまなキャンペーン活動にも取り組んできました。1999年10月に開始したアフガニスタンでの地雷対策は今年20年目に入ります。駐在員の平山泰弘からの報告です。

AAR Japan[難民を助ける会]

地雷原に接する道を通って水を汲みに行く子どもたち(アフガニスタン・パルワーン県バグラム郡、2017 年10 月)

現在も年間1,500 人以上が被害に

AAR は1999 年に地雷除去団体ヘイロー・トラストと協力し、アフガニスタンでの地雷・不発弾除去活動を開始しました。2002 年1 月には首都カブールに事務所を開き、以来約20 年間、包括的な地雷・不発弾対策を実施してきました。アフガニスタンでは1979 年のソ連軍侵攻時に多くの地雷が埋められ、その後に続く長年の紛争の結果、多数の不発弾が残されています。現在も年間約1,500 人以上が、地雷・不発弾で死傷しており、その内45% は18 歳以下の子どもと報告されています(アフガニスタン地雷対策局)。また、即席爆発装置(IED:Improvised Explosive Device)と呼ばれる簡易型の爆弾が反政府組織などによって頻繁に使用され、その被害が近年急増しています。国連アフガニスタン支援ミッションの調査では、民間人を含み毎月平均145人以上がIED の被害に遭っています。こうした新たな脅威も地雷対策を実施する団体の課題の一つとなってきています。AAR はアフガニスタンでは現在、除去支援のほか、「回避教育」と「被害者支援」に重点を置いてカブール県とパルワーン県で活動を行っています。

地域で指導員を育成し、地雷回避教育を実施

地雷の被害に遭わない方法を伝える「回避教育」は、AAR のスタッフが国内を巡回して行っていましたが、2015 年より、各地域で指導員を養成し、その指導員が地域の住民に地雷回避教育の講習会を行う手法をとっています。現在、56 の対象村落で計142 名の地域指導員(うち12 名が女性)を育成しています。指導員は対象村落の村長に推薦してもらい、学校の先生など地域で社会的に信頼されている人物です。指導員を養成することによって、講習会の受講者数を大幅に増やすことができました。2016 年には年間で8万人以上に対して地雷に関する知識を伝えることができました。この数は、同年にアフガニスタン全体で地雷回避教育を受けた人の約10% を占めます。

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パルワーン県で開催した地域指導員への講習会(2017年7月27日)

「一言で良い、地雷回避に関するメッセージを聞いて」

2018 年2 月、パルワーン県サラン市で行われた講習会に参加していたシール・ミルザさん(男性38 歳)は、幼少期に地雷の被害に遭い右足を失いました。シールさんは、「私は地雷の被害に遭うまでは地雷に対する知識は全くありませんでした。アフガニスタンには、私のように地雷の知識がなくて被害に遭う人が未だにたくさんいます。他の人にも、特に子どもたちに、たった一言でも良いので地雷回避に関するメッセージを聞いてほしいと思います。地雷についての知識があるかないかは、生死にかかわることなのです」と話してくれました。

被害に遭った子どもたちへの教育支援

AAR では、リハビリテーションの提供などを通じて、被害者支援を行ってきましたが、2016 年2 月より地雷被害者を含む障がい児への教育支援も実施しています。パルワーン県の公立学校2 校で障がい児の受入れを強化するための教職員への研修や学校に通っていない障がい児の調査などを実施したほか、昨年11月には、補習クラスプログラムを立ち上げました。先生に手話や点字を学んでもらい、放課後の空き教室を利用し、視覚・聴覚障がいのある子どもが、点字や手話、障がい者の権利などを学ぶことができるよう支援しています。担当した先生からは、「学校全体の障がいに対する理解がより深まりました。これが、地域全体の意識を変えるきっかけとなればうれしい」と話してくれています。

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AAR が行う地雷回避教育の教材を受け取る少年たち(アフガニスタン・パルワーン県バグラム郡、2016年6月15日)

「支援を受ける側から与える側に」

カブール事務所には、14 年間AAR で活躍しているナデル・シャーという職員がいます。彼は8 歳のときに引っ越したばかりの家の庭先で遊んでいた際におもちゃと見誤って不発弾に触れてしまい、両腕と右目を失いました。その後、AAR の支援を受けながら大学まで進み、会計を学んだ後AAR へ入職しました。「私はカブールでの緊急治療のあとに2 年間ドイツで治療を受け、アフガニスタンへ帰ってきました。治療を受けている間に父が亡くなりました。教育を受ける機会がなかった私は毎日を辛い気持ちで過ごしていました。それでも学びたいという気持ちを捨てなかった私は故郷で出会った地雷除去要員にAAR を紹介してもらい、支援を受けて学校に通えるようになりました。その後もたくさんの方々に支えてもらったおかげで私の今があります。AAR で働き始めてから、支援を受ける側から与える側になり、自分のことだけではなく他の人のことも考えられるようになりました。日本の支援者のおかげで今の私があるように、私もアフガニスタンの人たち、特に障がいがある人たちが力強く生きられるように支えていきたいと思います」と話しています。彼は床にキーボードとマウスを置き、足の指だけでパソコンを操作して煩雑な会計作業をこなしてくれます。いつも笑顔を絶やさず前向きに仕事に取り組む姿勢を見ると、たくさんの人に支えられながら強く生きてきたことがうかがえます。

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AARで14年間活躍する、ナデル・シャー(2018年3月4日)

カブール事務所では同じ目標に向かって情熱を持って活動に取り組むスタッフがほかにもたくさんいます。地雷回避教育という活動はなかなか成果が目に見えにくいものではありますが、被害に遭った人たちやその家族は口々に、「知識があればよかった」と口にします。AAR ではこれからもアフガニスタンの地に、皆さまの温かい気持ちとともに「地雷ではなく花」を届けられるように活動を続けていきます。

活動実績

    • 地雷・不発弾の除去を通じて、2,621 万3,274 ㎡(東京ドーム560 個分)の土地の安全を確保しました。(除去した地雷4,856 個、不発弾22,310 個)
    • 地雷回避教育の講習会を20,736 回実施し、87 万3,956 人に、地雷の被害に遭わない方法を伝えました。
    • 2008 年に地雷回避教育の内容を伝える5分程度のラジオドラマの制作・放送を開始。現在は週2回、国営ラジオでアフガニスタン全土に放送しています。

【報告者】

AAR Japan[難民を助ける会]

パキスタン事務所 平山 泰弘

2016年7月よりパキスタン事務所に駐在し、アフガニスタン事業を担当。小学生のときに絵本『地雷ではなく花をください』を読み、国際協力に関心を持つ。アメリカの大学で平和構築学を学んだ後、青年海外協力隊に参加。東ティモールで障がい者支援に携わり、帰国後AARへ。千葉県出身

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