中野区役所に提出した婚姻届は、不受理通知とともに自宅に返送された。
その不受理届けを、大江千束(おおえ ちづか)さんと小川葉子(おがわ ようこ)さんが見せてくれた。
大江さんと小川さんは、パートナーとして20年以上ともに生きてきたカップル。東京・中野区で長年LGBTの支援活動に携わり、2018年には中野区で第一号となるパートナーシップ宣誓もした。
婚姻届を1月17日に提出したとき、大江さんは「これまでの活動を通して、声をあげないと国は動かないことを実感した」と強く語った。
その一歩としてふたりは2月14日、他の12組のカップルとともに国を提訴する。求めるのは「誰もが自由に結婚できる権利」だ。
婚姻届提出時に、大江さんはこんな言葉も口にしている。
「私の中には『現行の婚姻制度の中に、真の男女平等はあるのか』という問いもあるんです」
婚姻制度に疑問を持ちながら、同性婚の実現を目指すのはなぜなのか。不受理になった婚姻届に、2人はどんな思いを込めたのだろうか。
■ 実はそんなに結婚したいわけではない
ーー なぜ、原告になろうと思ったのでしょうか?
小川:実はもともと、そんなに結婚願望が強いわけではないんです。異性カップルが全員、結婚したいと思っているわけではないですよね?それと同じです。
だけど今、同性カップルは婚姻のスタートラインにも立てないとても不平等な立場に置かれています。婚姻制度を選ぶ自由・選ばない自由を、すべての人が選択できるようにして欲しい、誰もが同じスタートラインに立てるようにして欲しいという思いで原告になりました。
大江:私も、今の婚姻制度の不平等や問題点を感じていますし、異性愛者だったとしても結婚したかなという問いはあります。原告になるためには、そういった自分の中のモヤモヤした部分と折り合いをつけなければいけませんでした。
背中を後押ししたのは「同性婚は権利獲得の大きな一歩になる」という思いです。長年LGBTの権利活動に携わってきましたが、誰もが婚姻制度を使えるようになることは、セクシュアルマイノリティの人たちにとって、一番わかりやすい権利獲得の着地点だと思うんです。だから原告になる覚悟をしました。
■ レズビアンの人たちが、見える存在になってきた
大江:レズビアンは、セクシュアリティの面でも、性別の面でも弱い立場に置かれています。私が若いときには、カミングアウトできずに男性と結婚することを選んだ女性も今より多かったように感じます。生活の安定を得るために、一人で身を立てるのを断念して、泣く泣く男性と結婚した人もいました。
以前、東大で開かれたイベントで登壇した時に、ゲイの学生さんからこう言われたことがあります。「自分はゲイだけれど、東大にさえ入れば親に何も言われないと思った」って。
それを聞いてすごく「わかるよ」と思ったんです。私も、頑張り続けてきましたから。誰から頼まれてもいないので、親にいい子であり、仕事や勉強を頑張り、レズビアンの活動も続けてきました。それは、何か否定的なことを言われた時に「それでも私は、全てを頑張ってきた」と理論武装して、自分を守るためだったと思うんです。
レズビアンは、女性という時点ですでに社会的ハンデがあります。そこに同性愛者であることが加わると、とても大きな重荷になる。20年前はレズビアンをオープンにするのに、今よりもっと大きな覚悟が必要でした。ただ、時代は変化していると思います。
小川:仲がいい人や信頼関係を築いている人には隠さずに話したい、と思う人が若い世代を中心に増えていると感じています。カミングアウトはリスクは伴うけれど、オープンにした方が学生生活も仕事もしやすいという思いがあるんだと思います。ここ10年で大きく変わったなあと感じます。セクシュアルマイノリティについての情報が広がったことも大きいです。
ただ、絶対にカミングアウトはしない、周りには言わずに好きな人と一緒に生きていければいいと感じている人もいます。それは、それだけバリアを張らないと安心して生きていけないからかなと思います。
異性愛者でも、初対面でいきなり自分の恋バナをする人はほとんどいないと思いますけれど、好きになる対象が同性か異性かということで、言いやすさは全然違うと思います。
大江:「異性を好きになる人が多数だけれど、同性が好きな人も、どちらも好きな人もいるんだ」という考えが社会で当たり前にならない限り、みんなが表に立つのは難しいと思います。
■ 現行の婚姻制度は、本当に男女平等か
ーー「今の婚姻制度は本当に男女平等なのかという疑問がある」とおっしゃっていましたね。
大江:戦後に作られた憲法の中では、結婚は家ではなく当事者の二人の合意のみで成立し、夫婦が同等の権利を得られるということになっています。でも本当に平等なのかな、と思うんです。
結婚式は「○○家と○○家」という形で行われるし、「嫁」や「主人」という呼び方にも疑問があります。結婚できる年齢は女性が16歳で男性は18歳。再婚禁止期間だって、男性にはないのに女性にはあります。名字は、選べるとはいえ圧倒的に男性の名字が多いし、夫婦別姓もできません。そういったひとつひとつから、ジェンダーの平等が見えきません。
小川:私も、結婚制度や戸籍制度には、色々問題があると感じています。例えば、大江さんのお父さんは他界しているんですけれど、婚姻届を提出するために戸籍謄本を取り寄せたら、戸籍筆頭者は亡くなったお父さんなんです。
大江:亡くなっても、戸籍筆頭者はお父さんなんですよと言われて驚きました。死んでも筆頭者ってなに?みたいな。
小川:私の場合、母が亡くなった後に父が引っ越して、私に伝えず本籍を移していたため、あると思っていた場所に戸籍謄本がなくて。住民票で本籍地を調べなければいけませんでした。
異性カップルの中にも、戸籍制度や婚姻制度に疑問を持って結婚しない方や、事実婚を選んだ方もいらっしゃいます。性別に関係なく結婚できるのが認められる世界になったら、考え方も変わるのかもしれません。
大江:現在の婚姻制度に、男性同士、女性同士のカップルが入っていくことで、婚姻制度を揺さぶることができたらいいなという期待があります。
■ ふたりにとって、家族とは?
―― 同性婚が可能になると伝統的な家族の形が崩壊する、という理由で反対する人がいます。
大江:いまの時代、家族の数だけ形があります。何が「伝統的な家族」なのかもくくれない状態です。人の多様性が重視される時代、家族としての多様性ということにも向き合わないといけないと思います。
同性婚に反対する人には、「一体誰が困るのか」と聞きたい。異性愛者だって、結婚したくない人はしないし、事実婚を選ぶ人もいる。同性愛者だって、結婚したくなければしなくていいし、古典的な家族観を貫いている人たちは、自分たちの好きな形で家族を作ればいいんです。
私たちが問題視しているのは、同性愛者たちに"選択肢すらないこと"です。家族が多様になり、ひとり親の家庭など色々な家族の形があるのに、同性婚が入ってくるときだけに「家族の形が崩壊する」というのは、あまりにも荒唐無稽すぎないでしょうか。
―― 大江さんと小川さんにとって、家族はどんな存在でしょうか?
小川:そうですね、色々なことがあっても、信頼と尊重に基づいて一緒に生きていける同士が家族なのかなと思っています。大江さんは私にとって戦友のような存在でもあります。
大江:どんな時でも、自分と同様に大事な相手なんだということを認識した上で、大切にできる関係性、かな
同性婚を実現するのは、そんなに簡単ではないと思います。だけど、同性婚を実現した国に目を向けてみると、訴訟というのはプロセスとしてやらなければいけないことなんです
小川:道のりは長いと思うけれど、いつかああいうこともあったね、という時代がくると信じています
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