松本人志の「体使って」発言 女性芸人たかまつなな「今は、笑いでかわすしかない…」

指原莉乃の「干されますように!!」とNGT48暴行問題から考える
松本人志さん (2017年03月27日撮影)
松本人志さん (2017年03月27日撮影)

フジテレビ系「ワイドナショー」で、アイドルの暴行被害問題を取り上げた際に、松本人志さんが「お得意の体を使って」と発言したことに対して、お笑い芸人のたかまつななさんが、ブログを公開した

もう「変わったやつ」的なポジションを築けているし、こんなことを言って、仕事が大幅に激減するような仕事の仕方はしていないと思うので、勇気を振り絞って書きます——

そんな風にブログを書き出した、たかまつさん。松本さんの発言について、同じお笑い芸人のたかまつさんはどう思ったのか。ハフポスト日本版が1月18日、本人にインタビューをした。

たかまつななさん
たかまつななさん
笑下村塾

◾️「笑い」という名のもと、何でもやって良い訳ではない。

たかまつさんは1月17日深夜に「松本人志さんのセクハラ発言を真剣に考える」というタイトルでブログを公開。

「笑い」という名のもと、何でもやっていい訳ではない。大御所が言ったから許されることは絶対にない。そんな時に下のものが抗える技術、それは「ルール」(法律や就業規則)と、「笑い」なのだと思う。自分の意見を笑いで伝える技術も大切。私はセクハラが多い芸能界を笑いで交わしてきた。

「お笑い」や「ワイドショー」のテレビ番組や楽屋などで、女性タレントを軽んじる風潮について、きちんと対抗していくことの大切さをつづった。

一方、「差別をなくそうとしすぎると、自虐ネタも許されず、沈黙の社会が訪れる。女芸人には、ブスと言われて『おいしい派』と『怒る派』がある。ブスと言われて、報われる人もいる。自分のコンプレックスや短所を笑いに変えた瞬間の喜びは大きい」とも指摘。

「私は(ブスと言われて)おいしい派」だとしたうえで、「お笑い」と「ハラスメント」の線引きなど、この問題の難しさを素直につづった。

◾️松本さんの発言、どう思った?

松本さんの1月13日放送のワイドナショーでの発言は大きな波紋を呼んでいる。

NGT48の山口真帆さんの暴行被害について、きちんとした安全対策を取る人が運営会社にいないことを番組で話し合う中で、松本さんが「そこは、お得意の体を使って、何とかするとか」とHKT48の指原莉乃さんに向けて発言した。たかまつさんは、どう思ったのだろうか。聞いてみた。

ーー松本さんのワイドナショーでの発言についてはどう思いましたか?

リアルタイムでは見ていなくて、Twitterなどで話題になってから録画を見ました。私自身は「すごく差別的だ」とは思わなかったのですが、ああいう場で、指原さん本人が抗議をしにくいだろうなとも思いました。

例えば、同時に出演していた(社会学者の)古市憲寿さんら周囲が「そういう発言はやめてください」と言うことも出来たのかなと思います。(芸能人とは立ち位置が違う)古市さんには、そういう役割もあって呼ばれていると思いますので。

ブログでは「芸人になってすぐにセクハラの多さに驚いた。芸歴20年ぐらいの先輩が、芸歴3年目の女芸人の胸をもんでいた」と書きました。一般的に芸能界ではセクハラに対する意識は甘いと思います。どう対応したら良いのか。深刻な問題です。

ーーそのあと、指原さんがTwitter「ワイドナショー、緊張しすぎて本当に記憶がほとんどなく...改めて録画をチェック...」と投稿し、「...松本さんが干されますように!!!」と書きました。

あれは100点満点の答えです。ただその投稿に対するTwitter上のリアクションは主に2つにわかれ、両者の溝が深いと感じました。

ーー溝ですか?

指原さんに「よくぞ抗議した」という反応をした人と、「うまく笑いに持っていった」という人の間の溝です。両者は交わらないな、と感じました。

セクハラは決して許されない行為ですが、真剣な抗議って今の時代はまだまだ通じないんです。

むしろ抗議をした人に対して「過剰なリアクションをする人だな」と怪訝な顔をされる。「お笑いに持っていった!さすが指原さん!」という人は、抗議に対して聞く耳を持っていないと思います。

指原さん自身も、松本さんへの抗議の意味もあったと思うのですが、一方で、うまくバランスを取ろうとした。「オチに持っていた」というほど、何も気にしていないわけでもないし、軽くあしらったわけでもないと思うんです。同じ芸能界を生きる人として、ギリギリのところで発言したのだな、と思います。

また、セクハラを防ぐのは大切ですが、「女性と話すのはやめよう」「面倒だから関わるのはやめよう」と極端な方向に、今後の社会がいくことも心配しています。

それはコミュニケーションを断絶しているだけで、問題の解決には繋がらないと思います。

笑下村塾 たかまつななさん
笑下村塾 たかまつななさん

ーーどうしたら問題は解決すると思いますか?

「男性vs女性」という構図にしないことです。セクハラの被害者は一般的には女性だとされていますが、例えばオフィスで、そうしたことが起きない「働きやすい職場」を作ることは男性にとってもメリットがあるはずなんです。一緒に考えることが大切です。

■ 芸能界ってセクハラ多いですよ

ーーたかまつさんはブログで、ご自身が芸能界でセクハラに対応してきた事例を紹介しています。

芸能界って本当にセクハラ多いですよ。そういう場に居合わせたとき、私は「週刊誌に売りますよ」と言って携帯電話を取り出したり、「弁護士に言いますよ」と冗談っぽく言うことで「笑い」で制止してきました。あるいは、年配の芸能人の名前を出して「言いますからね」と。

私にとって、セクハラを防ぐために必要なのは、「笑い」と「ルール」なんです。

ーー「ルール」とは?

一般的な労働関連の法律やハラスメントに関するルールをきちんと知っておくことです。セクハラに関する法律は日本では未整備なところもありますが、例えば長時間労働は芸能界で当たり前になっている面もあります。就業時間に関する法律を知っているだけで、「いざ」という時の強みになります。

憲法と一緒です。いざとなったら権力者を縛ることができる。

ただ、長時間労働も、セクハラも、カルチャーの問題でもあるんですね。たとえルールが整備されていても、カルチャーの問題は根深い。変えるのが難しい。ルールがあっても「今までこうやって来たから」となってしまう。

■ 「笑い」は希望になる

ーー「笑い」で変えていくことには、可能性を感じます。一方で、笑いに変えることで、加害者が「許されてしまう」ことはありませんか。「笑いになったから、良かった」という風になってしまう。

確かにそうなんです。だからルールの変更、改善が同時に必要なんです。

でもルールって例えば国会で法律ができるまで数年かかりますよね。私は今も芸能界で仕事をしていますし、そんなに待てない。

芸能界は特に、人間の繋がりで仕事が成り立つんです。人間同士の付き合いで仕事が決まっていくし、「あいつは面倒なやつだ」となったら、仕事に呼ばれないこともある。ルールと同時にカルチャーも変えていきたいです。

だからまずは自分ができるやり方で、少しでも良くしていこう、と思って「笑い」で対抗していきます。笑いは、言いにくいこと、まだまだ世の中で結論が定まらないこと、違和感を表現できるパワーがあります。

私自身もどうしたらいいのか、分からないところがあります。だから、ブログをきっかけに色々な人の意見を聞きたいし、ライブでも発信していきたいです。

カルチャーを変える力を持っている「笑い」が大事なんです。笑いを通して相手の意識にスッと入って、少しずつ変えていくしかないんじゃないですかね。

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