「週刊SPA!」の特集記事「ヤレる女子大学生RANKING」をめぐって抗議の署名活動を行っていた大学生グループが、1月14日夕、扶桑社の週刊SPA!編集部と話し合いを行った。
約2時間の対談の中では、記事を書いた経緯や、なぜ編集部で疑問が上がらなかったのか、そして今後の誌面について、大学生らから改善要求があった。
「売れる」を追求し「感覚がマヒ」 編集長「女性をモノとして扱う視点があった」
対談に向かったのは、記事の撤回と謝罪を求めオンライン署名サイトChange.orgでキャンペーン「女性を軽視した出版を取り下げて謝って下さい」を立ち上げた国際基督教大学4年の山本和奈さん(21)ら4人。
山本さんはTwitterやInstagramをきっかけに今回の記事を知り、その後オンライン版で週刊SPA!の誌面を読んだ。過去の誌面などにも目を通して強い疑問を感じ、1月4日に署名活動を始めた。
署名の呼び掛けは、日本語と英語、スペイン語やノルウェー語で記事の撤回と謝罪などを求めた文章を掲載した。14日午後8時時点で約5万筆が集まっている。
この日の対談は非公開だった。終了後、大学生グループがハフポスト日本版などの取材に応じて、やりとりを紹介した。対談に応じた扶桑社側は、渡部超第2編集局長、週刊SPA!編集部の犬飼孝司編集長、石井智副編集長、そして女子SPA!などを受け持つ増田結香SPA!web編集長だった。
山本さんによると、まず初めに「なぜ批判されているのか。どこが批判されていると思うのか」と質問し、記事が出るまでの経緯について聞いた。
編集部側は「売れる、売れる、ということにフォーカスし、感覚がマヒしていた。部内には女性もいたが、この記事には関わっておらず、疑問が出ることなく出版に至った」と説明。犬飼編集長は「私たちは女性が好きであるが、その女性をモノとして扱う視点があった。その点を反省したい」と話したという。
特定のテーマでランキングを作る枠が決まっており、どのような内容にするか編集部内で提案しあった。どうすれば人が手に取るのか、なにが「面白い」のかを考えていった結果、「ヤレる」ランキングを作ろうということになった。
これに対して山本さんは「今までの積み重ねがエスカレートしたように見える」と話した。渡部第2編集局長は「こうした企画を出す前のチェックを怠った」と謝罪したという。
廃刊して「消す」のではなく、これからの話を
対談を終えた山本さんは、この件に関して「追及が甘いという意見もあるかもしれない。ただ、私たちは廃刊にして問題を消して終わりにしたいのではない」と話す。
大学名を出すことに対し、社会的影響を考えなかったのかという趣旨の質問をした際には「そこまで考えや想像が至らなかった。とにかく売れるものを、と考えていた。謝罪したい」と編集部側は話していたという。
対談に参加した国際基督教大学4年の高橋亜咲さんは「これを受けて週刊SPA!がどういう結論を出していくのか、結果をシェアしていきたい。私たちの視点も取り入れてもらい、今後のメディアの在り方を一緒に考えられるきっかけにしたい」と語った。
対談前には意見をつのるミーティングも
この4時間前、「この問題について広く意見が聞きたい」と大学生グループがSNSで呼びかけ、都内でミーティングが開かれた。ライブ配信も行ったミーティングには約50人が会場に足を運び、熱気があふれた。
山本さんはミーティングで「これまでにも同じような内容の記事を、コンビニや電車の吊革広告で見てきた。SPA!の記事はきっかけに過ぎないけれど、もう耐えられない。ランキングにICU(国際基督教大学)が載っていてもいなくても、声を上げるべきだと思った」と署名活動を始めた理由を説明した。
彼女たちが週刊SPA!編集部にどうしても聞きたいこと
週刊SPA!編集部が最初にコメントを発表したのは1月7日。「扇情的な表現を行なってしまったこと、読者の皆様の気分を害する可能性のある特集になってしまったことはお詫びしたい」という謝罪の文面に対し、山本さんは「論点が全くズレている」として直接対話を求めた。
なぜ書いたのか、どういうプロセスで書いたのか、疑問に思った人はいなかったのか。この記事を通して何を伝えたかったのか。週刊SPA!はどんな世界を作りたいのかーー。知りたいです。
雑誌の廃刊が問題の解決だとは思っていません。こちらの意見を押し付けたり、「私たちVS雑誌」、「女VS男」にはしたくない。今後の対策、問題の根本解決について話し合えたらと思っています。編集部の1人を説得することもできなければ、社会を説得することはできない。逆に1人が説得できたら、みんなに伝わるんじゃないかと思っています。
「週刊SPA!」だけではない、「男VS女」でもない
女性を性的にランク付けしたり評価したりする言説は、メディアにあふれている。
「週刊SPA!」でも、問題となっている特集「ヤレる女子大学生RANKING」以外にも、過去には「合コンお持ち帰り率の高い大学」「ヤリマン生息数の多い大学」など、女性を性的な消費の対象として軽視するような特集を組んできた。だが、これまでは今回のように問題視されてこなかった。
山本さんは「週刊SPA!をきっかけにして、他のメディアとも話し合いの場を持ちたい」と言う。
電車のつり革、コンビニの雑誌売り場。誰でも、子どもでも見える、手に取れるところにこういう雑誌がある。それを問題視しているんです。
メディアの影響は大きくて、見ているつもりがなくても見知らぬうちに目に入ってしまう。女性は軽視されることに慣れてしまって、声を上げにくくなる。4歳の時から女性がランク付けされているのを見ていたら、それが問題だと思わなくなってしまいますよね。
日本では女性をモノのように扱うこと、性的に扱うことは人権問題だという概念が浸透していない。だから「何がいけないの?」「こんなの他にもたくさんある」という声もある。
でも、海外文化に接したことがある人たちには、違うように見えている。外国から人を呼んだ時に、コンビニにこんなタイトルの雑誌があるのが恥ずかしい、と言われているんです。
山本さんは「男VS女にしたくない」と何度も強調した。
この手の記事を男性が喜んでいるという印象を与えるのも失礼ですよね。こういう問題が海外で報じられて、日本の男性のイメージが落ちているのに、男性に対しても失礼だと思います。
若者が声をあげる意味
参加者からは、声を上げにくい社会を打ち破ってくれたグループの活動に感謝する声が上がった。
イギリスの大学に通っていたという女性は「海外経験があると上から目線だとか、いろいろ言われると思うし、もう言われているかもしれない。でも、どうか負けないでほしい」とエールを送った。
アメリカ人の留学生は「この先、何年日本に住むか分からない。それでも、私が何か言えば『日本人じゃないんだから黙ってな』と言われると思う」と、声を上げる「資格」が問われることへの疑問を呈した。
参加者の中には、グループの親世代の姿もあった。
企業の男女別採用に対して記者会見で異議を唱えた経験がある女性(46)は、「性的に過激な記事が売れるから、という理由で差別的な記事が出るのは今も変わっていない」と訴えた。
バブルが弾けた90年代前半、就職難の時代に企業は『男子のみ採用』と謳っていて、女性は面接で「彼氏いるの?」「性経験はあるの?」といった質問をされたり、スタイルをからかわれることもあった。
当時、週刊誌の取材で、同じ媒体から2人の記者が来ました。一方は真面目に問題を取り組んで質問し、他方は「ホテルに連れ込まれたりしたの?」「セクハラの過激な内容を知りたい」と性的な質問に終止。誌面に載ったのは後者でした。
売れるのは、そういう性的な記事なのかもしれない。それが今も変わっていないと思い、この署名に参加しました。
山本さんは、「『フェミニズム』というと敬遠する女性も多いけれど、上の世代の方たちが戦ってくれたから今がある。だから、今回は私たちが行動したいなと思った。(署名の)呼びかけに多くの人が応えてくれたことが、とても心強い。感謝でいっぱい。若者が声を上げるのはすごく大事だと思っています」と力強くバトンを受け取った。
山本さんを中心としたメンバーは、ミーティング後すぐに扶桑社へ移動した。
SPA!編集部「貴重な話し合いの場となった」
週刊SPA!編集部の犬飼編集長は今回の対談について「お陰様で弊誌にとって大変貴重な話し合いの場となりました。今回の一件に関する議論はもちろんですが、新しい企画提案など建設的なご意見も頂戴いたしましたので誌面づくりに反映させていただく所存です」とコメントした。