タレントのローラさんの「政治的発言」が話題だ。沖縄・辺野古への米軍基地移設計画に関するインターネット署名に対して協力を呼びかけたことがきっかけだ。基地問題は賛成派と反対派が対立している。「芸能界から干される」「ローラは左傾化!?」などの指摘がネットや一部メディアから聞かれた。
芸能人がSNSを使って、ファンに直接呼びかけられる時代。おいしいご飯の写真を紹介したり、ドラマの宣伝をしたりするだけではなくて、ニュースにコメントすることも増えるはずだ。芸能人は、口を閉ざしていた方が良いのか。激しい論争が起きている。
■「ローラが左傾化!?」の報道も
「We the people Okinawaで検索してみて。美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの。名前とアドレスを登録するだけでできちゃうから、ホワイトハウスにこの声を届けよう」
ローラさんは12月18日、Instagramでこう呼びかけた。「We the people」は、沖縄・名護市辺野古への移設計画をめぐり、アメリカのホワイトハウスに向けて、建設中止を求めるインターネット署名のことだ。
計画を早く進めたい政府と、基地移転や進め方の強引さに反発する沖縄県民らの間で激しい対立が起きている中、ハワイ在住の作曲家が提案し、10万筆が集まった。
ローラさんのInstagramに対して、デイリー新潮は12月21日にネット配信した記事で、「ローラが左傾化!?」というタイトルをつけた。
芸能人やタレントは、多くのファンの人気に支えられている。米軍基地の辺野古移設には、賛成の人も反対の人もいる。どちらかのスタンスをとってしまうと人気が落ちてしまう恐れもある。
新潮の記事では、ローラさんのことを支持する声を紹介しつつも、スポンサー企業が本人をCMに起用することを敬遠するリスクや、安倍政権側からの反発の可能性などに触れている。
■日本で『モノが言える』タレントが生まれない理由とは
過去にも、2015年、安全保障関連法案の成立をめぐって、俳優の石田純一さんが「戦争は文化ではありません。誇るべき平和を戦後100年に続けていこう」(2015年9月18日 朝日新聞)と訴えるなどしたときは、反発や戸惑いの声が聞かれた。
一方、アメリカでは、芸能人が政治的なテーマについて発言をすることはある。世界的なポップスターのテイラー・スウィフトさんは、肌の色やジェンダー、性的志向などの権利を擁護する立場から、インスタグラムで2018年の中間選挙についてコメントした。
テイラーさんは、保守的な白人層に人気があるとされるカントリー・ミュージック出身だったこともあり、その「リベラルな姿勢」は特に注目をあつめた。
芸能取材の経験が豊富なライターの松谷創一郎さんは、アメリカは、タレントや俳優が「個人事業主的」な立ち場を取りやすい一方、日本は、事務所に所属する「社員」のような立場になりがちだと指摘する。もちろん芸能人の契約は様々なので一概には言えないが、一般の会社員が上司を無視して自由にTwitterに投稿が出来ないのと同じようだ、という。
また、テイラーさんをはじめアメリカのスターは世界に進出してグローバルなマーケットで収益をあげているため、特定のファン層やスポンサーを気にすることなく、「自由にふるまいやすいのではないか」と松谷さんは指摘する。
■現れてきた変化の兆し
日本のある老舗芸能事務所の男性マネージャーに話を聞いてみた。もし所属タレントがローラさんのような投稿をしようとしたら、「(自分だったら)ストップさせていた」と断言する。
「沖縄や歴史問題はとても複雑で、背景を知らないと『勉強不足』だと思われてしまう。意見をしたことが一般の世論と違ってしまうと、ワイドショーでコメンテーターから批判的な意見をいわれてしまう。そうなると批判が大きくなり、テレビ局にとっては『使いづらい』タレントになる」という。
「ただ」と、このマネージャー取材の最後で言った。
「海外のように、芸能人がどんどん発言をするような世の中になったら良いですよね。自分も変わらないといけないし、これから世の中はどんどん変わっていってほしい」。
実際、変化の兆しはみられる。
お笑いコンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さんは、12月9日に放送されたフジテレビ系の「THE MANZAI」で沖縄米軍基地問題などを漫才のテーマにして大きな話題を呼んだ。
村本さんをはじめ、インターネットテレビの「AbemaTV」では政治的なテーマを話す討論番組に、お笑い芸人を呼ぶことが多い。同番組の主要スタッフの一人は「芸能人といえども有権者なので、政治的な意見は持っている。そうしたことに視聴者も慣れてきたのではないか」と話す。
■芸能人の「個人の声」
広告業界も変わりつつある。有名タレントのCMなどを多く手がける、ある大手広告代理店の男性はこう話す。
「SNSの登場によって、芸能人やタレントの生の発言が身近になった。作られたイメージではなくて、政治をはじめとする時事問題に関する素直な意見を述べる著名人の方が、ファンや消費者から『共感』される時代になる可能性がある」。
2017年には、女性の地位向上を訴えるキャンペーンが、世界最大級の広告・クリエイティブの祭典「カンヌライオンズ」でグランプリを受賞。広告業界でも、社会問題を告発するメッセージが支持され始めているという。
もちろんローラさんの行動によって、ファッションやブームとして沖縄の問題に興味を持つだけでは、本当の意味では基地問題の長い歴史や沖縄の人の苦しみは分からない。ローラさんではないが、芸能人の発言には事実誤認が混ざっていることもある。
■「政治的でない人は、1人もいない」
1960〜1970年代以降、アメリカでの学生運動や女性の地位向上を訴える運動では「個人的なことは政治的である」というスローガンが注目された。女性として感じる生きづらさや働きづらさ。それらを単なる「本人の個人の問題」ではなくて、政治や職場での男女差別など広く「政治的な問題」としてとらえようという動きだ。
タレント、エッセイストの小島慶子さんはハフポスト日本版の取材にこう答えた。
「今後も(ローラさんの発言のような)動きは広がっていくと思います。政治というのは『誰が好きか嫌いか』という話ではありません。『何を大事だと思うか』という話です」
「たとえば自分は子どもたちの命を大事にしたいとか、虐待をなくしたいという思いを表明することも、政治的なことなのです。そう考えれば誰だってなにかしら『これは大事にしたいな』『こんな世の中は嫌だな』という思いはあるでしょうから、政治的でない人は、実は一人もいないのだと思います」