ドイツ週刊誌「シュピーゲル」スター記者、ねつ造で解雇。欧州メディア界最大のスキャンダル

ライバル紙ツァイト編集長「できるだけ魅力的に問題をドラマ化する傾向がある」と問題点を指摘
Claas Relotius
Claas Relotius
HuffPost

ドイツ週刊誌「シュピーゲル」は12月19日、同誌に所属する記者が大規模な記事のねつ造をしていたとして解雇したことを発表した

シュピーゲルは調査報道や政権批判において、質の高い報道で定評のあるメディア。同誌の事実確認を担当する部門は、かつては世界最高ともいわれていた。

シュピーゲルの発表などによると、解雇されたのはクラース・レロティウス記者(33)で、ドイツ国内で報道に関する数々の賞を受賞し、ルポルタージュを得意としてきたスター記者だった。

信頼性が高かっただけに、ヨーロッパメディア界最大のスキャンダルに発展している。

60本中14本で「ストーリーをでっち上げ、架空の人物を作り上げた」

シュピーゲルの調査結果によると、レロティウス記者がこれまでにオンラインや紙面上で執筆した記事60本ほどを調べたところ、少なくともそのうちの14本で、架空の人物を作り上げたり、ストーリーをでっち上げるなどの何らかのねつ造が見つかったという。

レロティウス記者は、2011年にフリージャーナリストとしてシュピーゲルで記事を書き始め、その後7年間、シュピーゲルの記者として勤めた。1年半前からは編集にも携わっていた。

彼はシリアの内戦孤児の話や、グアンタナモ米軍基地にある収容所で間違って投獄されたイエメン人が、14年の間独房に入れられたせいで精神に異常をきたし、もう釈放されることを望まなかった話などを感情豊かに書いた

しかしそれらの記事は、今までに会ったことのない人や、話したこともない人の言葉や、引用を自分が聞いた話として入れ込んでいた。それだけでなく、全文が作り上げだった記事もあったという。

架空の人物は、記事の核となる中心人物であり、これらのねつ造は他のメディアも影響を受けている可能性がある

経緯は?

発覚のきっかけは、共著の記事を執筆していたファン・モレノ記者(46)が、レロティウス記者の取材に不信感を抱き、調査したことからだ。

メキシコとアメリカの国境近くの自警団についての記事で、武装したトランプ支持派が移民を捉えようとしているという内容のものだった。

モレノ記者は2018年11月、記事の中の矛盾を指摘。

だが当初、 CNNジャーナリスト・オブ・ザ・イヤ―2014など数々の受賞歴があるレロティウス記者のねつ造を上層部も信じず、「レロティウスは中傷の犠牲者だ」という人も少なくなかった

モレノ記者は渡米してねつ造の証拠を集め、報告書にまとめた。

それらを基にして、シュピーゲル社内で調査が始まった。調べに対し、レロティウス記者はねつ造を否定していたが、12月13日になって自身の罪を告白。19日にシュピーゲルが公表した。

シュピーゲルはこの事件を受け、透明性を確保するためのキャンペーンを開始。レロティウス記者の書いたすべての記事を検証し、結果を公表していくという。

ドイツ紙ツァイト編集長「メディア非難者への一風変わったクリスマスプレゼントに」

Giovanni di Lorenzo
Giovanni di Lorenzo
ullstein bild via Getty Images

キャンペーンの一環として、シュピーゲルは今回の事件を、ライバル紙でもあるドイツの週刊新聞「ディー・ツァイト」の編集長にインタビューをした。

ツァイトのジョバンニ・ディ・ロレンツィオ編集長は、国内でレロティウス記者の記事が高く評価されていた背景に言及し「戦場記者など、人生をかけたルポルタージュをしている記者たちの記事にも真実性に疑いがかけられる。本当に害悪だ」と痛烈に批判。

メディア不信を一気に高めた事件として「メディアを非難する人たちにとっての、一風変わったクリスマスプレゼントになりましたね」と語った。

この事件について「ジャーナリズムは文学に寄りすぎているのではないか」というシュピーゲルの質問に「これは我々が日々もがいている問題。平凡でつまらなすぎる話は失望するし、本当のことにしては良い話過ぎるというものも一方である」とし、記事について「できるだけ魅力的に問題をドラマ化する傾向がある」と話した。

また、CNNはかつてレロティウス記者に与えた賞をはく奪する方針であることを公表した。

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