初めての妊娠がわかった直後、夫の海外赴任が決定。
夫は臨月のときに海外へ赴任し、スマホで立会い出産。
MANABICIA代表の池原真佐子さんは、日本に残り、2歳の息子をワンオペ育児しながら働いてきた。
講演やワークショップなど多忙を極める中、2017年には自身の経験を活かして働く女性のキャリア支援として、メンターをマッチングさせる「育キャリカレッジ」など新規事業も立ち上げている。
なぜ夫婦が別に暮らす道を選んだのか? 離れて暮らす夫はどう育児に参加しているのか? 池原さんに話を聞いた。
スマホ越しの立ち会い出産
――初めての妊娠がわかったすぐ後に、夫の海外転勤が決定。一緒に行くか、別居するか、仕事を続けるかやめるか、いろんな選択肢があったかと思いますが、夫婦でどんなふうに話し合いをされたのでしょう?
妊娠4カ月くらいのときに、「海外に行くことになるかもしれない」という話が彼から出たんです。以前からずっと彼が海外に行きたいと会社でアピールしていたのは知っていました。だから「いずれは」という気持ちはあったのですが、まさかこのタイミングでとは予想できませんでした。驚きました。
もちろん簡単に結論は出なくて、いろんな可能性を探って話し合いました。どちらかが転職するか、キャリアを柔軟に変えることができるのか、とか。
ただ、私が結婚後すぐに大学院に通っていた時期や起業した当初などは、彼に相当負担をかけて、サポートしてもらっていたんですね。そういう背景もあって、もしも次に彼が大きな決断をしたら私が止める権利はないだろう、とも思っていました。
最終的には夫は単身海外へ、私が日本に残ってワンオペ育児をする、という結論に落ち着きました。
――臨月から海外へ行かれたということは、出産には立ち会えなかった?
それがオンラインで立ち会えたんです。
無痛分娩にしたんですが、麻酔を打った途端に「もう楽ちん!」ってなって。その後に(海外の自宅に)帰宅した夫からメールが来たので、看護師さんにお願いして「私たちこういう事情で離れているので、Wi-Fi繋いでいいですか」って交渉して。最初は断られたんですが、途中から許可が降りたので私が自分でスマホを持って自分を映しながらお産を進めていきました。
いよいよ産まれてくるときには、看護師さんがスマホで赤ちゃんを映そうとしてくれたんですが、私が間違えて自分の顔をずっと映しちゃって(笑)。そんなふうにスマホ越しでしたが、リアルタイムで立ち会い出産ができました。
ワンオペ育児を乗り切るためにサービスはフル活用
――産後の心身の調子はいかがでしたか。
産後は母が九州から3週間手伝いに来てくれたのですが、母に八つ当たりをしたり、喧嘩をしたりしてしまって。今考えるとやっぱりホルモンバランスが崩れていたんでしょうね。
母が帰った後、私もすぐ仕事に復帰したので、認可外の保育施設に息子を預けました。保育園の園長先生を経験されたおばあちゃん先生が自宅でやっている、本当に少人数のところで「こういうときはどうしたらいいですか?」って不安や疑問を相談ができたことが心強かったです。常に"疑似おばあちゃん"がいる感じでした。
産前も産後も自治体のヘルパーさんやシッターさんにはすごくお世話になりましたし、近所の友人たちにも助けてもらいました。腰痛持ちなので、痛みがひどいときは沐浴を手伝ってもらったり、食事を作ってもらったりしましたね。
――夫は海外、実家は遠方。働きながらのワンオペ育児となると、やはり子育て支援サービスなども活用しましたか?
もちろんです。自治体のファミリーサポートのほかに、2つのシッターサービス会社、通っていた保育園のシッターサービスと4つ登録していました。
その他にも、公的な病後児保育施設も2カ所ほど利用して。大変な場面もたくさんありましたが、おかげでなんとか乗り切れました。
時差の関係で、夜中に息子の体調が変わったときも、夫に相談すると即レスが返ってくるのはありがたかったですね。
海外にいる夫も子育てのサポートはできる
――単身赴任などで離れて暮らす夫は、家事・育児にコミットしづらいと思うのですが、サポートできることもありますか。
夫にはものすごくサポートしてもらっています。一番大きいのは土日ですね。ずっと子どもと一対一だと、やっぱり疲れてきちゃうんですよ。PCでオンラインでパパと繋げば、夫がずっと息子とお話ししたり、絵本を読んでくれる。2、3時間はそうやって遊んでくれるので、その時間はゆっくりできますね。
あとは子育て情報のリサーチなど、私じゃなくてもできるものは夫にお願いしています。子育ては、子どもをあやすだけじゃない。子どもとの時間にまつわる雑務やいろんなオペレーションがあって、全部まとめて「子育て」です。
妊娠中の保育園の見学も夫婦で手分けして行きましたし、私がやることをまとめたTo doリスト作ってくれたり、資料をまとめてくれたりするのは夫の担当です。
――単身赴任のパパでも、子育てで参加できることがたくさんある。
今はたまたま私が日々の子どものケアの部分を、夫がロジスティクスを主に担っている、という感じかも。オンラインを通じてできるコミュニケーションはしてくれているので。そういう意味では、距離があっても私たちなりの家族のかたちはできています。子どもはパパが大好きで、日々画面越しにパパと話をしているので、一時帰国した際も、パパだと認識していて、ずっと甘えています。
夫婦って共同経営者みたいなものだと思うんです。人生のどの時期に、どういうライフスタイルで、何を担うかということを、夫婦で合意を取りながら調整していく。「この時期は私がちょっとペースダウンするけど、次はお願いね」みたいなことを、柔軟に変えていけたらいいなと思っています。
だからこそ、「夫が海外転勤になったら妻が無条件でついていくべき」というのが当たり前とされているのは、私はやっぱり解せない。もちろん、一緒に暮らせて一緒に日々を共有できれば最高ですが、どちらかの都合でそれが叶わないかも、となった時は、「ついていくのが当たり前」で進めるのではなく、一度立ち止まって、それぞれの家族のあり方を、皆が納得するまで話し合う必要があると思います。
距離がどうであれ、「女性がキャリアを諦める」という前提をいったん置いて、どんな選択肢が探れるのかなと夫婦で話し合うことで、女性側ももう少し楽になれる気がします。
今はまだ(男女の賃金格差もあり)妻よりも夫の給料が高い家庭が多いので、「家計を支える」という意味で男性側の働き方を優先するのが主流になっているんだと思うんですね。でも、どちらにとっても人生において仕事は大事なものじゃないですか。だからそこはイコールで、対等な立場で考えていいのではと思います。
(取材・文:阿部花恵、撮影・編集:笹川かおり)