スマートフォンで動画撮影しながら「街歩き」し、それをInstagramで発信するノルウェーの男性がいる。ミスターヤバタン。
愛くるしい日本語とひょうきんな言動がうけ、若者に大人気だ。いったいどんな人物なのか。
「動画やばい。ホントにびっくりした~」。10月中旬、平日の東京・原宿の竹下通りにヤバタンの甲高い声が響いた。
スマホを片手にヤバタンが歩いていると、あちこちから「あっ、ヤバタンだ」と声をかけられる。間もなく人だかりができ、記念撮影や握手などをせがまれる。
「本当に信じられないです。ずっと会いたかったんです」。流暢な日本語で近づいてきたのは、ニュージーランドから伊豆大島に留学中で、この日たまたま東京に遊びに来ていた女性(16)。感激のあまり涙を流し、「Instagramでずっと見ていました」。
この女性によると、1年ほど前からヤバタンのファンになり、注目していたという。
ヤバタンは26歳。2017年春から、スマホ片手に街中に繰り出しては「リポート」するスタイルで動画を発信し続けている。
ヤバタンはもちろん、本名ではない。活動の名前を決めるに当たって、知人女性から提案された「キャワタン」をヒントに自ら思いついた。
「『ヤバい』という言葉が色んな意味があって好きだったので」。ヤバタンはそう振り返る。
撮影場所は主に東京。これまで、渋谷や原宿、新宿・歌舞伎町や東京タワーなどを訪れた。
通行人にゲリラ的に声をかけながら、その様子を動画で撮影、その後編集してInstagramで発信している。
花見やハロウィンなど、人が集まる場所やイベントを実況することもある。
ヤバタンがこうした活動を続けているのは、日本でコメディアンになりたいからだ。
ヤバタンは日本のお笑い番組が大好き。特に気に入っているのが、ダウンタウンらが出演する大晦日の人気番組「笑ってはいけない」シリーズだ。
ノルウェーにいたころ、英語の字幕がついた「海賊版」を動画サイトで見た。
「出演者たちのあのハイテンションと、罰ゲームという体を張ったお笑い。ノルウェーのコメディーにはない。とても新鮮でした」。ヤバタンはぐいぐい日本のお笑いに引き込まれていった。
ヤバタン自身、テレビの仕事を目指していた。父はミュージシャン兼テレビプロデューサー、いとこも名のしれたコメディアン。エンターテイメントの道を志すことは自然な流れだった。
日本のお笑いとの出会いによって、ヤバタンの夢はさらに広がった。「ノルウェーと日本のお笑いをミックスしたスタイルを追及したい」。そう思うようになった。
初めて日本にやってきたのは2012年。友人と東京や関西を旅行した。渋谷駅前の交差点の人の多さに驚き、寿司や焼き肉に舌鼓を打った。
「国土は小さいのに、文化も技術も料理もなんてバラエティ豊かなんだろう」。日本にすっかり惚れ込んだ。
ヤバタンは高校を卒業後、アルバイトをしながら自分で動画を撮影するなど、コメディアンへの道を歩み始めた。
だが、なかなか成果の出ない活動に行き詰まりと疲れを感じていた。「ノルウェーの中だけで続けていたら、僕のお笑いは狭いものになってしまうのではないか」。そんな危機感から、あこがれの日本で「修行」することを決意した。
2013年に来日。日本語学校に通いながら半年間、日本で暮らした。いったん帰国後、2017年に再び日本にやってきた。
英会話を教えながら動画を作っていたが、生活は苦しく、父親からも「帰ってこい」と言われた。あきらめるつもりはなかったが、不安もあった。
2017年12月、東京ミッドタウンのイルミネーションを撮影しながら初めて本格的に日本人に声をかけた。緊張したが、「ホントにびっくりした~」と言ったら、日本人の女性に笑えてもらえた。それが自信につながった。
今ではすっかり有名人のヤバタン。「知られすぎてしまって、通行人に声をかけても『きゃー』ってなって会話にならなくて。私のことをあまり知らなそうな人を探しています」と苦笑する。
ヤバタンの目標は2つある。1つはノルウェー人向けに日本を紹介する動画を作ること。「私のように、日本に興味を持ってもらいたいです」
そしてもう1つは、日本人を笑わせることだ。「これはとてもチャレンジングなこと。今のところはまだまだ、『厚切りジェイソン』と間違えられることがあるので、もっと頑張りたいですね」