個人が所有している乗り物や住居スペースなどを、不特定多数の人たちに貸し出し、共有・交換し合うシェアリングエコノミー。配車サービスの「Uber」や、民泊仲介サイト「Airbnb」などが有名だが、「2019年はもっと新しい形のシェアエコサービスがブレイクする」と予言する人がいる。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師の石山アンジュさんだ。
シェアリングエコノミー協会の公共政策渉外部長としても、シェアサービスの普及のために規制緩和や政策推進などの活動をしている石山さん。
「UberやAirbnbなどのプラットフォームに加え、『生協』のように、協同組合型で利用者がサービスを運営するシェアリングエコノミーの存在感が増してきているのではないでしょうか」と語る。
石山さんは11月22日、ハフポストのネット番組「ハフトーク」に出演。シェアリングエコノミーのこれからについて語った。
″プラットフォーム資本主義”の先にある「シェア」のかたち
使ってない空間、活用していないスキルなど、個々人が資産を出し合い、共有する。それはまるで、かつてご近所同士が醤油を貸し借りし合っていたような気軽さがある。企業が主体ではなく、個人がサービスの提供者となって「CtoC(Consumer to Consumer)」の経済圏を新たに作り上げていくのが、シェアリングエコノミーの特徴だ。
しかし今、そこには新たな課題が立ちはだかっている。
「(例えばUberやAirbnbなどのような)個々人を仲介するプラットフォームが巨大化するにつれ、プラットフォームにメリットや利益が集中する状況が起きています。これに対して利用者側から、適正な手数料や、個人情報提供のあり方、社会保障などを求める声がだんだんと大きくなってきています」
石山さんは現状をこう指摘する。
こうした動きはシェアリングエコノミーだけのものではない。世界では、GAFA(ガーファ)と呼ばれるGoogle、Apple、Facebook、Amazonの4社に対して、EUをはじめ各国政府からの規制強化が進んでいる。個人情報や知的財産などのデータがGAFAに集中し、公正な競争環境を歪めかねないといった理由からだ。
インターネットを通じて、せっかく個人と個人が結びつくようになったのに、結局は間に立つプレーヤーに利益が集中してしまうのだろうか。例えばUberなどのライドシェアサービスで、ドライバーとしてお金を稼いでいるシェアワーカーたちの社会保障や労働条件などの問題については、ドライバーからの訴訟が各地で起きるなどの状況となっている。
「プラットフォーマーの利益追及の陰で、個々のユーザーの問題は見過ごされたままになっているケースもあります」と石山さんは指摘する。
シェアエコは、シリコンバレーの隆盛と共に盛り上がった一時の夢だったのだろうか?シェアエコ伝道師の石山さんは「残念なことばかりではない。新たな希望も見えてきている」という。
「今、新しい形のプラットフォームが出てきています。利用手数料がなく、参加する個々人が組合費を払うことで、サービスを運営していく非営利のモデルです。2019年にはこの個人組合型のシェアエコサービスの存在感が大きくなっていくのでは、と期待しています。
『生協』のようなイメージに近いかもしれません。生協も、みんなで運営費を出し合って、安全で美味しい野菜をリーズナブルに買うことができますよね。こうしたモデルに、テクノロジーが合わさって、新しい形のシェアエコサービスが活性化していくのではないかと見ています」
石山さんが注目するのは、協同組合型のライドシェアを展開するカナダ発のサービス「Eva」や、手数料ゼロで民泊を支援する韓国発のサービス「Wehome」などだ。いずれも、ブロックチェーンと呼ばれる最新技術を用いて、見ず知らずの他人同士が手軽に安全な取引を行えるように作られている。
こうした新しいサービスの盛り上がりを受けて、既存のサービスがもっと利用者に寄り添った取り組みを始めれば、より良い市場環境ができあがっていくことも期待できる。
その際に重要なのは、プラットフォーマー側だけの変化ではなく、利用する個々人の変化だと石山さんはいう。
「サービスの利用者である個人一人ひとりが、ネットにおける自由と責任を自覚し、評価システムや信用についても考えていけるかという点が、鍵になってくると考えています」
シェアは「プロセス」。大事なのは、持続可能で平和な社会を作ること。
シェアリングエコノミーを推進していくロビイストとして、ベンチャー企業と政府のパイプ役となり、規制緩和や政策提言を行なっている石山さん。自身も「Cift(シフト)」と呼ばれるシェアハウスに住んでいる。
公私ともに「シェア」づくしのライフスタイルの原体験は、実家での生活にあった。石山さんの父はいつも、世界中からやってくる旅行客や、飲み屋で出会った見ず知らずの人をどんどん家に連れてきた。家はいつも「居候だらけだった」という。
「12歳の時に両親が離婚して、はたから見たらかわいそうな子だったかもしれません。でも実際は、そうではなかった。血は繋がってないけれど、色んなお兄ちゃん、お姉ちゃんがたくさんいて、ちっとも寂しくなかったし幸せだったんです」
シェアは幸せの源ーー。石山さんの活動を支えるのは、幼少期に積み上がったこうした考え方にあった。
「シェアの話をすると、『(平成生まれの)ミレニアル世代ならではの感覚』と言われることもありますが果たしてそうでしょうか。考えてみれば昔の日本はシェアが当たり前だったんです。お隣同士でお醤油の貸し借りをしたり、テレビだって近所でシェアしてみんなで見たりしていました。
それが高度経済成長によって、どんどんモノを生産して、どんどん消費するようになったことで、他人と何かをシェアしなくても生きられるようになりました。
今という時代は、こうした大量生産・大量消費が一回りして、何となく寂しさや孤独感が漂ってきている時なんじゃないかという気がするんです。もう一度つながりたい、という欲求が社会全体で高まってきているのを感じます」
シェアリングエコノミーに関する最新情報や動向に精通する石山さんだが、「シェアは目的ではなく平和な社会を実現するためのプロセスでしかない」と断言する。
「地球の反対側にいる、血縁も何もない赤ちゃんに、自分の子供のように手を差し伸べることができるでしょうか。個人は、どこまで社会の平和のために貢献できるか、を試されているのかもしれません」
「シェアの対局は、孤独や独り占め。本来、人と人は、分かち合うことで幸福を感じる生き物だと信じています。私はこれからも、シェアのマインドを日本に根付かせることで、温かみのある持続可能な社会を作っていく手助けをしたいと考えています」