クリスマスが近づいてくると、どこかソワソワした気持ちになる人もいるだろう。
「クリぼっち」などという言葉がまだ生き続けているように、恋愛をしていない人はカワイソウという風潮はいまだに根強く、イベントごとがあるたびそれは浮き彫りになる。
「多様性の時代」。なのに、恋愛だけが画一的な枠組みの中で賛美され続けているのはなぜ...?
2018年にベストセラーになった「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(河出書房新社)の著者で、書店員の花田菜々子さん(39)もそんな疑問を抱く一人。本をきっかけに恋愛相談を受ける機会も多くなったという。
花田さんが見た現代の恋愛とは。読者へのオススメ本と合わせて聞いた。
1つしかない恋愛の形にずっとモヤモヤしていた
――花田さんは今までどんな恋愛をしてきたのでしょうか。また、恋愛について考えるきっかけになった出来事などはありますか。
十代後半から、いわゆる「普通の恋愛」をしていました。基本的には、男の人を好きになって、つき合うという契約のもとでセックスをする。お互い他の人とはしない、好きにならない、という関係を理想としてそこに向かってPDC(Plan Do Check)を繰り返す、というような。
当時の2000年前後は、まだ「クリスマスにバイトしてるなんてさみしい」とか、「彼氏が2年もいないなんてやばい」というムードがありました。
そういう恋愛の「圧」みたいなものにずっとモヤモヤを感じていて、いろんな経験を重ねていくうちに、「本当にこれだけが恋愛において唯一の正解なのか?」と考えるようになってきたんです。
「遊びだったのね?」って、そもそも何なの。恋愛の損益分岐点
好きな人といい感じになって、セックスして、これからも会いたいし、お出かけとかもしたいし......なんて盛り上がっているのに、相手は全然そう思っていなかった、というような経験をきっかけに、どうやら自分と相手が常に同じ気持ちでいるとは限らないと気づき始めました。それから考えるようになったのは、男女間の温度差について。
ある日、会社の後輩の女子が、「やっと付き合えるかもしれないと期待していた相手に、もう会わないと言われた。セックスもしたのに、ヒドイ!」と、訴えてきたことがあって。
でも、果たして本当にヒドイのか。その被害者意識はどこからくるのかというと、たぶん、身体を提供したという意識からだと思うんです。
更には、彼女のなかに「セックスをしたのに、損をした」という損得勘定があることに気がついて、じゃあ、何回セックスしたらもとがとれるのか、損益分岐点はどこなんだろう、と不思議に思ったんですよね。
あの日は盛り上がったのに連絡が取れなくなるって、よくある話。そうすると、「遊びだったのね?」と男性を責める構図になるんですけど、そもそも女性だけがピュアで、恋愛的に被害者で、純粋な思いをもっていて、男の人に傷つけられるという構図は必ずしも本当ではないと思うんです。人の気持ちは、遊びか本気かの二者択一じゃない。
「好きなのに」とか「一回セックスしたのに」とか、正義みたいなものを振り回して、人を攻撃できる権利があると思うのは暴力的な気がします。
結婚しても人を好きになります。アリかナシかで語れない不倫
――正義と悪で語られがちなことと言えば不倫があると思いますが、花田さんはどのように考えていますか。
世の中、不倫に対してはみんな冷たくて、「あり得ない」とかばっさり切り捨てる人が多い気がするんですよ。それは裏切りとか騙すという行為に対してのとらえ方なんでしょうけど、夫婦間には他人に見えない問題がたくさんあるし、夫婦のルールや関係性は人それぞれ。
自分たち以外の問題を、アリかナシかでなんて他人がジャッジできないですよね。たとえば既に別居状態の夫婦の不倫が発覚したとき、「離婚するまでは付き合うべきではない」と言う人がいるけど、その「べきではない」は、何に対して発揮されているのか。
自分の意見で他人の家庭をコントロールしたいという、その正義の振り回し方には幼稚さを感じてしまいます。「自分」と「特定の他者」と「一般的な世論」とが全部ごっちゃになってしまっているのではないかと思います。全部別のものですよね。
わたしは、結婚しても人を好きになると思っています。その度に不倫をするというスタンスの人がいてもいいと思うんですけど、それはそれでキリがないなと思っていて。
結局、恋愛においては、好きになる、つき合う、セックスする、というような一直線のゴールみたいなものが想定されていて、そこだけを目指していれば、不倫の場合は当然苦しくなりますよね。
それでも秘密で続けるとか、リスクを覚悟の上でパートナーに理解を求めるとか、いろんな選択肢があると思うんですけど、わたしは付き合うってことだけが必ずしも恋愛のゴールではないと思っています。正義や悪ではない、恋愛のかたちがあるのではないでしょうか。
女子の「サラダ取り分け問題」からの進化
――書店のいわゆる「恋愛本」コーナーには、「選ばれる方法」や「モテる方法」といったタイトルが目立ちますが、やはり女性が受け身の恋愛がまだまだ続いていくと思いますか。
たぶん一番わかりやすい例だから今までも議論されてきたんでしょうけど、「サラダ取り分け問題」ってありますよね。
恋愛の原始時代に、サラダを取り分けられて喜ぶ男がいるらしい、という発見があり、次の時代には、サラダを取り分けるとどうやらモテるらしいとなった。それに対して「わたしはサラダなど取り分けぬ」とか、男性の方からも「サラダ取り分けられたくらいで好きになるか」というカウンターカルチャーが出てきた。
お酌もそうなんですけど、お酌をされたおじさんたちの中にデレッとする人もいれば、「そういうの好きじゃないから自分でやります」という人もいて、これも「どちらが正しいか」ではなくどちらに好感を抱くのかということでも女性の人生は分岐していくと思います。
女性たちの「サラダ取り分けなきゃ」っていう呪いと同じで、男性にも「一人前に稼いで、頼りがいのある男にならなくちゃ」という呪縛はずっとあったと思うんです。
でも、女性がだんだん解き放たれて、サラダを取り分ける呪いがなくなったとき、そういう女性が素敵だと感じる男性は必ずいて、男性もまた解き放たれるような気がするんですよね。普通に気が利いて、状況に応じて取り分けている人は男女関係なく魅力的ですしね。
女子はかわいくして、常に受け身で、合コンですごいすごいって言ってれば大丈夫という未来はないだろうと思います。自分から突き詰めたり発信したりできる人がどんどん楽しくなれる社会になっていくはず。
今までとは違う「恋愛格差社会」の時代を迎えるかもしれない。
――女性が解放されたり、LGBTQについて少しずつ認知が広がったり、恋愛についてさまざまな意見が交わされるようになってきた中で、今後の恋愛はどうなっていくと思いますか。
わたしが学生の頃よく耳にしていた、「彼氏がいないとやばい」とか、「30歳までに結婚できないとやばい」とか、そういう意見はだいぶ減ってきているとは感じていますが、「普通は○○だよね」という圧はいまだにあると思うんですよ。
異性が1対1で長く続く恋愛をして、結婚というゴールに向かっていくのがいいことだとされて、その一方で、男女がふたりで一緒にいればそこには何かしら恋愛が絡んでいるという思い込みがある。
これからは「恋愛の相手がいる人が偉い」という今までの歴史とは異なる恋愛格差社会になっていくかもしれません。
恋愛ってこういうものだ、これが正しいのだと思い込んでいる人はすごく狭い世界で生きていくことになるだろうし、逆に、恋愛において今まで弾圧され気味だった「自分って変なのかな」と思っていた人たちは、ネットなどで同じ意見の人とどんどん繫がって、自信を持つことができる。
私たちには恋愛以外の関係もあれば、最近認知されつつあるポリアモリーのような恋愛の形もある。
恋愛はしてもいいし、しなくてもいい。周りにジャッジされることでもない。
少しずついろんな理解が進んでいって、半分願いを込めてですけど、生きづらい人が減っていくんじゃないかなと思いますね。
■花田さんがおすすめする「恋愛本」
「悩むから読む。相談相手が本だった。」という花田さん。恋愛に悩めるハフポスト読者にむけて、花田さんの恋愛観に影響を与えた2冊の本を紹介してもらった。
ののはな通信
著者:三浦しをん
出版社:KADOKAWA
2018年のナンバー1だと思っている一冊です。昭和の終わりを舞台に、二人の女子高生が文通しながら恋を育んでいきます。とても幸せな時間を過ごしていたあるとき、事件が起きて、二人は別れてしまうんです。でも愛を築いた記憶や思い出が大人になった二人を支えてくれていました。その後、40歳くらいになって再び文通を始めるのですが、物語は予想外の方向へ展開していきます。
恋愛が終わってしまっても、その関係性が本物だったら二人の生き方次第でもっとその先の形があるんじゃないかと思います。逆に恋愛のゴタゴタで終わってしまう関係は、残念だけどそれだけの関係だったということなんですよね。
ハチ公の最後の恋人
著者:吉本ばなな
出版社:中央公論新社
20歳の時に読んで、自分のベスト盤になっている一冊です。この本が、つき合うことだけが恋愛じゃないと教えてくれました。
主人公は、新興宗教にはまった家族の中で絶望しながら生きているのですが、ある男性と出会って、一緒に暮らすようになり、初めて自分の人生をとり戻します。そこまでは最高なのですが、彼がインドに修行に行くために別れることになってしまう。そしてその後...という話です。
ここまでドラマチックではなくとも、現実にこういうことはいっぱいある。相手がどこか同じ空の下で生きているから、それでいいんだという落とし前の付け方は、自分自身の恋愛や人生に影響を与えてくれたような気がします。
(取材・文:秦レンナ 編集:泉谷由梨子)
【花田さんの著書】
出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと。
著者:花田菜々子 出版社:河出書房新社
2013年の冬、夫に別れを告げ、家を飛び出した花田さんは書店員の仕事にも行き詰まりを感じていた。ふと見つけた出会い系サイトで知り合った人に本を薦めるということを始める。さまざまな出会いを通して変化していった日々の実録エッセイ。