日産自動車会長、カルロス・ゴーン(64)と同社代表取締役のグレッグ・ケリー(62)の両容疑者が東京地検特捜部に逮捕されたことを受け、西川(さいかわ)広人社長は11月19日夜、横浜市内の本社で記者会見した。
絶大な権力を持ったカリスマ経営者に対する社内の「クーデター」だったのか。そんな憶測について、西川社長は明確に否定した。記者との主なやり取りは次の通り。
――不正を働いたのは今回逮捕された2人だけか。ほかの役員は社長のように怒っているのか、裏切られた思いなのか。
この2人が我々の調査の結果、首謀であると確認しているが、それ以上は今のところ捜査の関係があるので控えさせていただきたい。
役員の反応ですが、実は役員がこの件を知ったのはつい先ほど。事案の中身から非常に秘匿をしておりました。彼らも今、それを聞いて一体何があったんだという感覚だろうと思う。
そんな中、先ほど状況をシェアして申し合わせたのは、とにかく従業員、取引先の皆さんが心配していると。大きな不安を抱えていると思われるので、そこの業務を不安定にしないように全力を尽くしましょうと。
あとやっぱり、従業員の皆さんが非常に不安に思っているので、役員が先頭に立って日常的な業務運営に影響が出ないようにしっかりとリードすると。それともちろん、捜査には全面協力していくと。それを申し合わせた。
「当然、解任に値」
――私的流用について指摘しているが、特別背任ではなく、金融商品取引法での容疑になっている。これについての受け止めを。
捜査に関することですので、そこについて私が見解を申し上げることではないと思っていますが、社内での調査の情報は(東京地検に)報告していますし、捜査の方も並行して進めていただいている。
その中で、捜査の対象、刑事罰の対象についての部分はなかなか、私には判断できません。ただし、先ほど申し上げたとおり、大きく3つの(不正行為の)事案があるわけですが、どれをとっても、全部合わせても、会社としてみた場合は、取締役の義務に反するどころではなく、当然解任に値すると理解している。
この部分については詳細な調査の結果、専門家、つまり弁護士に見ていただいて、これは解任に値するというご意見も頂いている。この3つの点で解任の提案をしようと思っている。
刑事事件の対象になるかどうかは判断できませんが、会社としてみた場合、虚偽であったり、支出の目的であったり、会社としては容認できないことであるとご理解いただきたい。
――解任を提案することを決めたのはいつか。
事案を見て、実際にその方向で弁護士からアドバイスを頂いたのは、社内調査がまとまった段階。いつかとは申し上げにくい。
不正は長期
――不正がいつごろから行われていたと考えているのか。検察当局は(平成)23年以降としているが、これは時効にならない部分と思われる。それ以前からか。
申し訳ないです。今は内容を申し上げるタイミングではないと思います。いずれオープンにしたいと思います。
――長期にわたって行われていたとの認識か。
長きにわたってということだと思います。
――ゴーンさんは日本で納税したのでしょうか。しているのであれば、源泉徴収額から会社としても報酬額は把握していたのではないか。
ちょっとこれ私、お答えできないんですが、そこは事実を確認したいと思います。当然、日本で納税していたと思います。もし違っていたらあとで訂正させてください。
――会社として告発する意思はないのか。会社の利益がこれだけ失われて、株主に代わって訴えなければいけないのではないか。
おっしゃる点よくわかります。今日お答えすることはできませんが、それに値する事案であることは認識しております。どうするかはこれから判断する。
――報道によると、過少申告額が50億円。これだけの金額、日産の帳簿上はどういうからくりで消えていたのか。
内容的にはもちろん、確認している部分はありますし、検察とシェアをしておりますけど、今の段階ではお答えを控えさせてください。
「クーデターではない」
――長期政権の弊害が先ほどから指摘されているが、どのような形でゴーンさんに権力が集中していって、そして今回のようなクーデターのような形に至ったのか。ケリーさんの役割についてはどう考えているのか。
権力の集中と結果的にクーデターのような形で崩壊するとおっしゃられましたけど、今回の件は事実としてみた場合、内部通報の結果、不正が見つかった。
そこを除去することがポイントで、権力が1人に集中し、それに対してそうではない勢力からクーデターがあったというような理解はしていないし、そのような説明をしたつもりはない。そうは受け止めないほうがいいんじゃないかと思います。
1人に権力が集中していてもこういうことが起きるとは限りません。権力を持っていても、公正にやっておられる方はたくさんおられる。それが原因だとは言えないと思う。
ただ、ガバナンスの面から見るとそれが一つの誘引だったというのは間違いない。従って、個々の部分についてはどういう形がより公正なガバナンスというのを持っていくのかというのは大きな課題だと思っています。
どういう形で権力が集中してきたのかと、私も同じようなことを考えていましたけど、やはりこの長い間、徐々に形成されてきたとしか言いようがない。
一つはルノーと日産のCEOを兼務していたのが長く、これは無理があった。ただそこは、私自身総括できていないので、軽々なことは言えない。
ケリーという人間は長い間、ゴーン側近として様々な仕事をしてきた。CEOオフィスということになるのでゴーン氏の権力を背景に相当な権力を持って社内をコントロールしてきたと言えると思う。
言葉が適切かどうかはわかりませんが、これが実感であり、実態ですね。
――今回の件、秘匿性が高いとおっしゃったが、内部告発から今日まで、この件を把握していたのは西川社長のほかどなたがいたのでしょうか。
多くを申し上げることはできませんが、数名の単位と思っていただければ。
「権力の座長く、弊害」
――ゴーンさんはカリスマだったのか。暴君だったのか。有価証券報告書に虚偽記載があったということは粉飾決算に当たらないのか。
2点目からお答えしますと、粉飾と言うよりは、本来記載すべきことがされていなかったので、会社の発行物である有価証券報告書が適正でなかったということなので、是正をする。瑕疵(かし)を認めなければいけない。
もう一つの点、正直言って、私も今に至るまで当面の対応に追われていますので、じっくり考えることをもう少ししたいと思うが、事実としてはなかなかほかの人間にできなかったことが、特に初期については非常に大きな改革を実施したという実績は紛れもない事実。
その後についてはやはり、功罪両方あるかなと私としては実感でございます。いろいろ積み上げてきたことが全部否定することはできない。
ゴーン氏としてトリガーを引いたことでも、実際に仕事をしてきたのは従業員であり、あるいはパートナー、取引先の皆さんとの協業であり、仕事であるわけです。その部分の価値は棄損するものではないと思う。
最近の状況はやや、権力の座に長く座っていたことに対する、ガバナンス面だけでなく、実際の業務の面でも弊害は見えたなという実感。
もちろん、私も意見を申し上げることはありましたけど、こういう事態に至った以降は、問題点については従業員からも目に見える形で手を打っていきたいと思うようになった。
――権力の座に長く座っていたことで、実務ではどんな弊害があったのか。
現場から離れているので、彼に対して日頃からレポートする人が限られてきて、もう少し確認すべきなのに、限られた情報をインプットし、間違った判断をしてしまうと。もちろん、誰でもあることだが、でも昨今は多く見られたという実感。
――グレッグ・ケリー氏、具体的に社内でどのような影響力を与えていたのか。ゴーン氏は日産の顔だったわけだが、どのような影響があるか。3社アライアンスは今後どうなるか。
ケリー氏については、彼は元々日産出身で、執行役員で、その後アライアンスの仕事を兼ねていた。専務執行という立場。
私が影響力があると申し上げたのは、CEOオフィスの時代からアライアンスの仕事をやっていた時代まで。非常に幅広い仕事をしていて、アライアンスの面でも日産のCEOオフィスの仕事でもゴーンの側近として働いてきたと。そういう意味で影響力は大きい。
ただ、近年は会長に対するサポート、アドバイス機能以上のものは持っておらず、影響力という面では落ちてきた。
日産ブランドについてはお客様が決めることだと思う。私としては日産は日産であるということで、もちろん、イメージとしてゴーンと日産を重ねる人も多いと思うが、私たちができることは日産ブランドをそのものとして皆さんにご愛顧いただくということ。
3社のアライアンスについてだが、パートナーシップそのものについて影響する事案ではない。この状態で取締役会同士、より緊密に話し合いをし、取締役会として十分議論して決めていく。
――ゴーンさんの高額な報酬は正当だったのか。権力に過度な集中については、大変革を成し遂げたゆえに、経営陣が許してしまったということはないか。
報酬については私がコメントするのは適当ではないが、日本全体、いろんな議論があるが、総論としてみると、日本人だから低い、日本の企業だから低い、欧米だから高いという考えは、本来の価値とパフォーマンスに応じて徐々に是正されるべきと個人は思っている。
ただ、絶対額として何が正しいのかというのは第3者を含めて決めていくべきだとも思う。
権力の集中については、振り返ってみると、今おっしゃったようなことは、猛省すべきだと。反省すべきところはあるとみている。
それだけが原因ではないが、そういうことが起きないように絶えずすべきだと。この19年間で十分できていたのかと、反省すべきことは多いと思っている。
――特捜部との司法取引はしているのか。社長もゴーンさんをコントロールする役割もあった。ご自身の責任をどう考えているのか。頭を下げての謝罪がなかったが。
最初の質問はまったくコメントできない立場。今日、ここでまずお話したかったのは、皆さんの背景には日産のファンもおられれば、これまでサポートいただいた皆さんがいる。そういう方には本当におわびしたいと思っている。
今私がこれをどう感じているかとストレートに言いたかったと。私の責任については、今は猛省すべきこともあり、事態を鎮静化させて安定させることもある。
会社を一日も早く正常化させるため、やることが山積している。まずはそこを進める。それが私の仕事だと思っている。それをやった上で、その先を考える時が来ると思う。
――内部調査でゴーン氏からは話を聞いたのか。ゴーン氏がケリー氏に指示をしていたのか。
2つ目の点。私からは申し上げにくい。つかんでいる事実はあるが、最終判断は捜査当局がする。ただし、その2人が首謀であることは間違いない。
1つ目についても答えない方がいいと思う。私もプロではないので、どこを話していいのか。内部調査の詳細についてはそれもシェアして捜査が進んでいるので控えたい。
本人の弁明は聞いていない。
――後任の人事はどうなる。どうして不正を見抜けなかったか。
どうして見抜けなかったのか、ある部分、会社の中の仕組みが形骸化していたというか、透明性が低い。
ガバナンスの問題が大きかった。ガバナンスについて言うと、(権力が)集中していても、なかなか検知できない弱点があった。何か起きたときの歯止めが弱かったんだろうと思う。
――社内で(不正を)知っている人がいたがなかなか言えなかった、そんな状況か。
私の認識ではそれが原因ではなくて、なかなか3つの本件が表面化しなかったと。仕事をする時にぶつ切りですれば、それぞれが見えませんから。
――内部調査の結果の発表のスケジュールは。
すべて取締役会にはかって進める。今私が言うのは時期尚早だと思う。ガバナンスはどうしたらいいのか、第三者も入れてあまり時間をとらずに、まずどうするんだと提言いただいて、取締役の構成など総会の決議が必要な事項などを整理したい。
――ゴーンさんからの弁明は聞いていないということか。
私は直接は聞いておりません。
――動機などもわかっていない状況でしょうか。
わかっている部分もあるが、ここはちょっと控えさせてください。調査は十分にできていると思っています。
――ゴーンさんに権限が集中するのを食い止めることはできなかったのか。
もう少し私も考えてみたい。結果として今、振り返ってみると、第三者の方から権限が集中しすぎていると言われればそのとおりですね、と言わざるを得ない。
これは難しいんですね。人も入れ替わりながら徐々にそういう形ができたというふうにも見える。
私がどういう立ち位置で何ができたのか、もう一度反省しないといけないと思う。
振り返ってみれば2005年、ルノーと日産のCEOを両方兼務するということになったが、このとき、ごく当たり前に日産を率いてくれたゴーン氏だから、日産にとっていいことじゃないかと思ったが、その結果、将来どういうことが起きるかということはあまり議論しなかった。
この段階が1つの今に至っている契機、転機だと思う。だが、残念ながらその段階でその後、どういうことが起きるかということは残念ながら我々もわかっていなかった。実際面で権力が集中していった。今振り返ってみると、そういうことが言える。