恋人は、1人じゃないとダメなのか——。
誰かを好きになり、恋人同士になって、お互いの愛を深めていく。恋愛は、1対1の関係であるべきだと、多くの人が考えているだろう。それとは異なり、複数の人と、合意の上で交際する「ポリアモリー」という生き方がある。
当事者のきのコさんは、現在2人の男性と交際している。
周囲との違いに悩み、自分を否定し続けた過去を乗り越えて、ポリアモリーである自分を受け入れられるようになった。自身の生き方や心の変遷を、著書「わたし、恋人が2人います」の中で赤裸々につづった。
「結婚しても、自分を変えられなかった」
そう語る彼女は、「恋愛は1対1」という規範意識に対して、恋愛とは何か、そして恋のかたちを問いかけている。
「合意があるか」が一番大事
——ポリアモリーとはどんなものでしょうか
日本語だと「複数愛」や「複数恋愛」と言われています。一般的な定義はまだふわっとしているのですが、私の考えるポリアモリーは「複数の人を同時に好きになり、全員の合意を得たうえでオープンにお付き合いする」こと。
本命がいて隠れてこそこそするものではない、オープンな関係です。浮気や不倫との大きな違いは「合意が得られている」ことで、私はそこが一番大事だと思っています。
私がポリアモリーという言葉に出会ったのは16年くらい前です。Wikipediaに書かれていた「複数の人と合意のもとで性愛関係を結ぶこと」という説明が理解のベースになっています。
プラトニックな関係もあり得ると思うので、セックスのあるなしよりは、きちんとした恋愛感情があって、お互いにコミットメントがあるかが重要だと思います。
――複数の人を同時に好きになることは、誰にでも起こり得ると思います。ただ多くの人が"ポリアモリー"という形を選びません。選ぶ人と選ばない人の違いはどこにあるのでしょうか
例えば、大好きな友達が複数いるとか、親が複数の子供たちを平等に愛するというのは珍しくないですよね。
でもなぜか、恋愛だけが"1対1じゃなければいけない"という規範意識があります。だから大抵の人は、複数の人と同時にお付合いしないです。
そこを超えてポリアモリーを選ぶかどうかは、"どのくらい本気で複数の人とお付き合いしたいと思っているのか"、そして"どれくらい嘘をつきたくないか"という気持ちの強さではないかと、私は思っています。
ポリアモリーに踏み出す人とそうでない人が、本質的に全く違うわけじゃないと思います。好きな人が複数いるという人は、実は結構いるんじゃないでしょうか。ただ、生き方として実践するかは、結構ひらきがあります。
——ポリアモリーは、レズビアンやゲイのように生まれ持ったセクシュアリティ(性的指向)なのか、それともライフスタイル(選択)なのかという議論もあるということですが、きのコさん自身はどう考えていますか
セクシュアリティかライフスタイルかについてはいろんな議論があるし、私自身もどちらだろうと悩んできました。
色々考えた結果、セクシュアリティとライフスタイル、一体のものとして考えた方がよいのではと思っています。ただその上で、ポリアモリーはライフスタイルになって、初めて形として現れるものだと思っています。
ゲイやレズビアンの人は、オープンにしていてもいなくても、ゲイでありレズビアンです。一方で、オープンにして合意を得るというライフスタイルでの実践を抜きにして、ポリアモリーはあり得ません。3人の人を真剣に好きになっても、隠れてお付き合いしていたら、それはポリアモリーとは全然違います。
「間違った状態だから治さなきゃ」と自己否定
——きのコさんがどんなきっかけで「自分はポリアモリー」と認識したのでしょうか
小学校の時に、よく「1組の誰々ちゃんが好き、2組の誰々ちゃんが好き」という話を友達としていました。みんなそのうち、好きな人が1人だけになっていくのに、私は中学生・高校生になっても複数いて、ぼんやりとした違和感を覚えていました。
大学生になって初めて恋人ができた時、他にも好きな人ができて、これは浮気心だろうかと焦りました。両方とも本当に真剣に好きだったので、自分は心の病なのかもしれないと、とても悩みました。
そんな時、文化人類学の講義でポリガミー(複数の人と交際すること)や、一夫多妻制について習ったんです。帰ってネットで調べたら類義語としてポリアモリーという言葉が出てきて、それを見た瞬間、雷に打たれたようでした。私はきっとこれだったんだ、と思いました。
でも、そこからポリアモリーとして一気にはじけたわけではないんです。むしろ「これは人として間違った状態だから治さなきゃ」と捉えて、自己否定が深まってしまった。周りと違う自分に戸惑い、不安や罪悪感、孤独を感じていました。LGBTの人も、同じような気持ちを味わった経験があるのかもしれません。当時は付き合っている彼に隠れて他の人と付き合っていたので、さらに罪悪感が増しました。
結婚は解決にならなかった
ちゃんとした人生を送らなきゃ、「浮気性」を治すには結婚して法的な枠組みの中に入るしかない。そう思って、27歳の時に結婚しました。でも、結婚という枠で自分の心は縛れず、結局28歳で離婚しました。
18歳でポリアモリーという概念を知って28歳で離婚するまで10年間、ずっと"自分を矯正しなくちゃ"と自己否定していて生きていくのがすごくしんどかった。それが離婚で、ふっきれました。結婚までしたけど結局変えられなかった。だからこういう自分を受け止めてあげないといけない、死ぬまで自己否定し続けるのはもういやだ。そこからはポリアモリーの自分を受け入れる方向に180度転換しました。
――ポリアモリーとして生きると決めてから、どう変わりましたか
まずTwitterのプロフィール欄に「ポリアモリーです」と書いて、仲間を探していたら、大阪で開催していた"ポリーラウンジ"という交流会を見つけました。そこで初めて、ポリアモリーという言葉を使って会話ができたんです。やっと巡り会えた...という気持ちでした。もしかしたら世界で自分だけじゃないかと思っていたので、本当に救われました。
ポリアモリーに興味がある人、自分がそうかもと悩んでいる人、何年も実践していて本も出している人。仲間が一気に広がって嬉しかったです。今では、私が主催して関東でも定期的に開催しています。
――ポリアモリーをオープンにしてどんな変化がありましたか
仲間ができて孤独じゃなくなり、ポリアモリーの悩み相談もできるようになりました。
困ったことは、「こんなブスのくせに」「死ね」といったTwitter上の罵詈雑言や、ポリアモリーは性に対して奔放で誰とでもセックスする女と曲解されて、「俺にもやらせてよ」といった気分の悪いメッセージが来ることです。ポリアモリーが社会にはびこったら家族制度がぐちゃぐちゃになるとか、叩く人はたくさんいます。
合意を得た上で付き合ったけど...
——現在お付き合いしているAさんとIさんには、どのように打ち明け、説明したのでしょうか
Twitterのプロフィールに書いていたので、AさんもIさんも、私がポリアモリーと知った状態で知り合いました。
それだけじゃなくて、「私はあなたのことが好きだけど、付き合っている間にきっと他の人に恋をすると思う。もしかしたら新しい恋人ができるかもしれないけど、それでもよければお付き合いしましょう」と伝えました。
自分がどういう人間かを説明して、2人から合意を得た上で付き合いが始まりました。
——打ち明けた時、相手はどんな反応でしたか
Aさんは「僕も(他の人と)デートしてくる」と(当初は)楽しそうな様子でした。ただ、ポリアモリーのことを頭では理解していたけど、心の底からピンときていたわけじゃなくて、付き合い始めれば私が彼に一途になる、という打算があったようです。
「日付が変わる前には帰ってきて」「泊りに行くのは嫌だ」とか、実際にポリアモリーの状況になってみて、許せること・許せないことがお互いたくさん出てきて、そこからが本当にガチガチのすり合わせでした。
1回喧嘩をするたびにひとつルールができました。私が誰とデートやお泊り・セックスしようが、それでAさんを好きじゃなくなったり離れていったりするわけじゃないと、2年半ぐらいかけてだんだん彼も腑に落ちてくれました。
2人との交際、どうやって両立?
——AさんとIさん、それぞれとの時間の過ごし方は、どうやって区別しているのですか。優先順位みたいなものをつけたりするのでしょうか
(相手にかける)時間やお金の配分は、平等・均等に分けているわけではありませんし、そうするのはあまり意味がないと思っています。「1番、2番があるのか?」とよく聞かれますが、優劣はつけられません。
Aさんとの間にしか絆、愛情があって、Iさんとの間にもまた別の絆があります。Aさんはとても安定感があって、心地よさを感じます。Iさんは、ドキドキやトキメキがある。どちらも種類の違う愛情です。過ごす時間の長さは違っても、優劣になっていないという感覚です。
——例えば、2人から同時に「一緒に住みたい」と言われたらどうするのでしょうか
どちらかの要求だけを叶えることはせずに、「どちらとも一緒に暮らさない」と言うと思います。これが解決策は分かりませんが、例えばマンションの隣同士の3部屋を借りて、真ん中に私が住むとか、方法がないかを探すと思います。「一緒に住みたい」というのは、どんな状態を望んでいるのかを確認した上で、2人と相談しながらすり合わせしていくということになると思いますね。
パートナーもポリアモリーになった
——モノガミー(1人の相手と恋愛・結婚をすること)だったAさんもポリアモリーになったようですが、彼にはどんな心境の変化があったのでしょうか
遠距離交際だったころ、けんかが絶えない毎日でした。彼は仕事の拠点が変わって引っ越したばかりで、見知らぬ土地で人間関係も新しくなり、唯一私だけが前からの繋がりといった状態で、依存度が強くなっていきました。
「あなたは私に依存しすぎている」と言ったのが、彼にぐさっと刺さったみたいです。自分の人脈や世界を広げようと意識したみたいで、知り合った人とご飯を食べに行くところから始まり、デートに行って、最終的に彼女ができたというステップでした。
Aさんは、多い時で私を含めて彼女が4人いました。私と付き合ううちに、「俺も他の女の子とデートしてもいい?」と聞かれるようになりました。デートから帰ってきた後に、「どうだった?」「楽しかったよ」といったやり取りもしました。それでAさんも楽になって、私が他の人とデートすることに対しても寛容になりました。
「添い遂げなければならない」とは思わない
——AさんとIさん、もしくは他の誰かと将来家族を築きたいと思ったことはありませんか
結婚が悪いとは全く思ってませんが、日本の婚姻制度は私のライフスタイルとは相性は悪いので、利用するつもりはありません。
2人は私にとってライフパートナーです。これからの人生、一緒に過ごしたいと思っています。ただ、「添い遂げなければならない」とは全然思っていないです。
くっついたり離れたりしてもいい、出入りできる家族的共同体みたいなものが作れたらいいかな。それを私の家族のイメージと呼んでいいのかどうかはちょっとわからないんですけれど。
お互いに、とても大事にしているし、助け合ってもいるけれど、もたれあっていない。それは恋人との関係ですごく意識しています。
——出産や子どもを持つことついてはどう考えていますか
子供をどうしようかはすごく悩んで、AさんIさんとも話してきましたが、今のところつくらないだろうと考えています。
28歳ぐらいまで「こういう風に生きなきゃ」「これが正しい人生だ」という考えに引っ張られて過ごしてきました。自分のしたいことを殺してきた部分があったので、今は自分の生きたい人生を生きるので精一杯です。
子どもについてポリアモリーは一番批判を受けやすくて、「子どもがかわいそうだから持つべきじゃない」とすごく言われます。そういう意見に対して、まだ自分の中で答えや行きたい方向が見えていません。
もし妊娠・出産したとしても、誰かと籍を入れようとは考えていません。シングルマザーを選択すると思います。理想を言えば、籍を入れずにAさんとIさん、それに友達も交えて7、8人で子育てチームみたいなものをつくって、シェアハウス的に皆で子育てができたらいいなと思っています。
人生の数だけ家族のかたちがあります。ハフポスト日本版ライフスタイルの「家族のかたち」は、そんな現代のさまざまな家族について語る場所です。
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