性の知識がない。セックスってどうやって覚えるのかもわからない。
相談する先もない。簡単にアクセスできるアダルトビデオ(AV)から、"性の知識"を得たつもりになる。
間違ったセックス観を押し付け、パートナーを傷つける。コミュニケーションはどんどんすれ違い、性に対するタブー感だけが募っていく。
女性は望まない妊娠をする。
人工妊娠中絶(中絶)をする人が、年間で16万4621人。実に、1日に450人以上が中絶している。
こんな世の中でいいんだろうか。
疑問を持った大学生たちが11月4日、東京都八王子市の中央大学で、AVの出演者らで語り合うイベント「AVの教科書化に物申す」を開いた。産婦人科医の遠見才希子さんによる、性の誤解を解くコーナーも用意された。
会場には約1000人が集まった。なかには、中学生や高校生もいた。
正しい性知識とは何か。AVって何なのか。出演者たちが思い思いに語った。
イベントでは、紗倉まなさんのほか、9300本以上のAVに出演しているしみけんさん、大手アパレルメーカー社員から転身し、現在はAVメーカーの社長を務めるコンピューター園田さんや、女性向けアダルトコンテンツで有名になった一徹さんも登壇した。
AVは誇張でありフィクション
AVでは、「嫌だ」という女性も、無理やり押さえつければOKというようなものや、本来であれば女性にとって痛みを感じるような行為、だまし討ちでいきなり女性を襲うものなど、男性本位な演出も多い。
コンピューター園田さんは「AVはフィクションであり、ある程度エンターテイメントとして楽しんでもらう。鵜呑みにしないでほしい」と説明する。
「人に見せるセックスと、プライベートで誰に見せるわけでもなく楽しむセックスは全然違う。AVは誇張するもの」と紗倉さんは言う。
また、AVが18歳以上しか見られない理由について「分別があるかないか。正しい知識もないままに、13歳とかで見てしまったら『これが全てだ。これが良いものなんだ』と、きっと信じ込んでしまう」と話した。
紗倉まなさん「伝えにくいけど、女性も『これは嫌だ』と言える勇気を」
AVのフィクション的要素について、紗倉さんは、自身の出演したコンテンツのなかで、女性が「潮を吹く」というシーンが多くあったという。
女性を気持ちよくさせた、という映像的な演出の1つではあるが「色んな感覚が混在している。気持ちいいと感じることもあれば、特になんとも思わず気が付いたら出ている。実際には無の感覚というときもある」と話す。
しみけんさんは「モザイクのかかる作品の中で『すごいことをする』という演出で編み出された」と経緯を説明した。
そのうえで、AVの演出を信じてパートナーに「吹かせてみたい」とする男性について「自分の力を誇示するためだけ。女の人のことを全く考えていない」ときっぱり。
一方、紗倉さんは「ただ、女性側もしらけさせてしまうんじゃないかと思い、『痛い』『嫌だ』って言えないときがありますよね」と女性側の気持ちを語った。
そして「伝えにくいけど、女性も『これは嫌だ』と言えるように、自分から伝えられる勇気や心構えをちゃんと持てることに意味があると思う」と続けた。
それに対し、しみけんさんは「セックスの時に、女の子にNoと言わせる余裕を持たせない男はクズ。潮吹かせようとするやつは連絡を断とうね」と呼び掛けた。
女性向けAVで活躍する一徹さんは「女性向けでは、潮吹きなどの男性本位な演出はすべてNGになっている」という。
男性向けでは、女性のスタイルや胸の形をきれいに見せるために下着で押し付けることもあるが、女性向けでは「苦しそうに見えることは絶対にしない」と話した。
コンドームの装着についても、男性向けはカットして映さないことが多い一方、女性向けでは必ずつけるシーンを見せるようにしているという。
パートナーの気持ちを確認して
AVの演出として映像化されていても、実際は犯罪であったり、相手を傷つけたりすることがある。
話はAVでは描かれないことが多い「同意(セクシャル・コンセント)」にも及んだ。
医学部生時代から性教育で全国を回り、講演活動を続けている産婦人科医の遠見さんは「セックスをしたときに起こりうる結果をちゃんと分かっているかどうかが大切」といい「知識がなければ、本当の意味で同意とは何かが分からない」と訴える。
相手が「嫌だ」と思えば無理強いしない。
「対等な関係で、自分で決めて自分で選ぶことができる。それが同意。対等ではない、同意のない性的行為は『性暴力』だということを覚えておいてほしい」と強調した。
また、自分の意思が尊重され、自分の身体に関することを自分自身で決められる権利である「リプロダクティブ・ヘルス・ライツ」について解説。
紗倉さんは「相手がどう思っているか、自分がどう思っているかは言わなきゃ伝わらない。AVが背徳感を煽るものだったり、抗われてるのに『イヤよイヤよも好きのうちでしょ』みたいに変な錯覚を覚えるものとして扱われていたら、女性側はつらい。本当はそうじゃない。(どう伝えるか)これもコミュニケーションな気がする」と語った。
一徹さんは「昭和の感覚かもしれないけど、『セックスする?』『うん』ってしっかり同意を取るのも大事なんだけど、なんとなくお互いがポッとして何となく...で進むという雰囲気も好きだと思う人間だったりする。性的同意をおしゃれなものだったり、かっこいいと思ったりする誘い方のモデルが出れば、さらに進むんじゃないかな」と提案した。
しみけんさん「ランボルギーニ乗ってる男より、黙ってコンドームつける男がカッコいい」
イベントでは、実際に相談に乗った中学3年生の女子生徒の話を、遠見さんが著書から紹介した。
2人とも初めてで、知識もなくて、最初から中出し(膣内射精)でした。半年後に、妊娠しました。中絶することを彼氏と決めました。私は妊娠が分かったとき、お腹を殴りました。流産すれば気づかれないと思ったからです。私は最低でした。
(ひとりじゃない 自分の心とからだを大切にするって? ――遠見 才希子)
遠見さんは状況を説明しながら「最低なのは、この子なんだろうか。『中出し』は、AVで知ったと言っていました。性のことを知る機会、考える機会が十分に与えられない。AVを見て、それしか情報源がないのは、社会の問題じゃないでしょうか」と語りかけた。
続いて、高校生の女子生徒から受けた「ゴムをしてと言えない」という相談も。
「ピルを飲めば、妊娠しないから、ゴムなしでエッチできる」と彼氏に言われ、クラミジアに感染した。「HIVにも感染しているかも」と不安になって泣いた。「ゴムつけないほうが気持ちいいって言われた。今さら言えない。気持ち良くなくなったら、私、ふられちゃうかもしれないもん...」
(ひとりじゃない 自分の心とからだを大切にするって? ――遠見 才希子)
この事例について紗倉さんは「両者の心がけ。『つけている間に萎えさせてしまったらどうしよう』って気持ちで、言いにくいとか申し訳なく思うとか、女の子からの相談を受ける。でも、女性も言えるように心がけて。男性も、言わずともつける。両者にとって大切なこと」と話した。
「コンドームをつけるかつけないかで、今後の関係性を決めていくくらいの指標にするべき」としみけんさんは言う。
「この人って安心できる、と思ってもらえるような心遣い。男は言わないでもつけること。言い訳する男はバサッと切って。セックスは相手を思いやること。あなたは自分のことしか考えてない、とはっきり言ったほうがいい。嫌われることを恐れないで」
「イイ車乗ったり、イイ時計したり、そんなもので男はカッコつけられない。何も言わないでコンドームつける男のほうが、ランボルギーニ乗ってる男よりカッコいいじゃん」と続けた。
文科省「性行為はしてはいけないこと」⇒でも実際は?
セックスは悪いことではない。タブーでもない。問題は、知識がないままにセックスすることだ。
だが、学習指導要領では、避妊や人工妊娠中絶は高校で学ぶ内容となっている。そして小中高を通じて、妊娠するにあたって避けては通れない"性交"という過程は扱わない。
性感染症について話しても「性的な接触をすると感染することがある」としながら「性的な接触とはなにか」を説明できない。
つまり、知識を得る場所が無い。
文部科学省の専門部会では「中学生であろうが、高校生であろうが、性的行為をしてはいけないのだということについては、きちんと教えていく必要がある」などと意見が出ていて、セックスについて教えるのではなく、知識を抑制することを推奨している。
生徒たちは、学校で正しい知識を得る機会を得られないまま、インターネットで情報を漁り、アダルトビデオ(AV)を見て「こうすればいいのか」と誤解していく。
"中絶"は1日に450人
日本では人工妊娠中絶(中絶)をする人が、1日に450人以上いる(2017年度)。
大学生になると、ひとり暮らしになったり、交友関係が広がったりする。特有の焦燥感から、知識がないままに性体験を積もうとする人も多い。
実際に、初めてセックスを経験する人が爆発的に増えるのも、この年代だ。
女性人口1000人あたり、中絶人口が最も多いのは、20~24歳。ちょうど、大学生の年代にあたる。
そして、年々減っているが中学生の中絶も毎年200人以上いる。
そのほとんどは避妊についての正しい知識がないゆえの妊娠だ。
女性が選べる避妊法が少ない日本
望まない妊娠には、正しい避妊法を知っておくことが大切だ。
ただ、避妊の方法について言えば、日本は世界的に見て後進国。女性が主体的に選べる避妊法が少ない。また、学校での教育が限られているため、正しい知る機会も少ない。タブー視されるセックスや避妊については、友人同士で話すことも少ない。
「先進国の避妊実行率は72.4%(国連2011年)。一方で日本は54.3%。40.7%がコンドームで、避妊法だと勘違いされている膣外射精は11.8%もある」と遠見さんは説明。
女性が主体的に選べる避妊法であるピルも、年々増えつつはあるがいまだ3~4%程度だ。当時の国連加盟国では最も遅い1999年に承認され、医師の処方箋が必要なことや、強い偏見があるなどが背景にある。
ピルの飲み忘れに不安を感じる紗倉さんは、子宮の中に入れるIUS(ミレーナ)を使っているという。
海外では、ミレーナなども普及しているが、日本ではあまり知られていない。
遠見さんは「世界から見ると、女性が主体的ではない不確実な避妊法に偏っていると言われてしまっている」と話した。
"教育"ではなく"一緒に考える"
イベントに来た人たち、そしてこの記事を読む人たちで、自分はきちんとした性教育を受けてきた、正しい性の知識を持っていると、胸を張って言える人は何割いるだろうか。
日本で使える避妊具の種類は?どうやって手に入れればいいのか?正しい使い方は?
性感染症とは何か。匿名でも受けられる検査って、どこに行けばいいのか。
同じような疑問を聞けずに抱えている人は、意外と周りにいるものだ。
ただ、語る場がないだけだったのかもしれない。
今回のイベントでは、知識のある大人が教えていく「教育」ではなく、自分たちの経験を話しながら、同じ立場で一緒に考えていった。
参加者からも、イベントの合間や終わり際、スマートフォンをいじりながら「ミレーナってこれか」「ピルってどうやって飲むか知ってる?」「どうやって相手とこういう話しよう」と話し声がいろんな場所から上がっていた。
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