スマホでオーダーすれば、自分にぴったりのスーツが2万円台で届く。
そんな幻想を100%信じていたわけではないし、心の中では"やっぱりなぁ"という、どこかクラウドファンディングで失敗しそうな時(6つぐらい投資しましたが、届いたのは1個で、それも1ヶ月で故障して修理不能に)の予感はしていましたが、やはりまだ理想は遠いのでしょうか?
スタートトゥデイがZOZOTOWNで販売している「2Bスーツ」(with ドレススシャツ)が、予定よりも1ヶ月以上遅れ、9月8日から第一陣の顧客向けに出荷されており、我が家にも届きました。しかし、あまりに盛大なサイズミス、おかしな造形部分が多く途方に暮れています。
このスーツは自動的に身体を採寸してくれるZOZOSUITを用いてオーダーしたスーツですから、本来は僕の体型にぴったりと合っているはずです。このスーツ(草間彌生風ではなく、ビジネススーツの方)の発表会には出席していましたが、シルエットの美しさはともかくとして、ZOZOSUITを使って仕立てられたとされるスーツは、どれも体型に合っていました。
心の中では「いつかモノにして欲しい」と親心にも似た気持ちで応援しているのですが、現時点での筆者の結論としては"まだ理想は遠い"というところでしょうか。理想を手にして欲しいからこそ、ここでは心を鬼にして率直な意見を述べていきましょう。
もっとも、"ここまでひどい"と、リーズナブルな価格設定にして大量に販売した分、補正しきれずに作り直しとなり、出荷した大量の2Bスーツのジャケットが廃棄処分になるのではないか? という心配や、何度補正しても結果が得られないのでは? という不安も抱えています。
"フルオーダーのスーツが2万円台で届く"といううたい文句(そもそも"フルオーダー"ならば仮縫い含めて体型に合わせる必要があるので、このうたい文句にも問題はあるのですが)を信じていたわけではありませんが、さすがにこのレベルでの市販決断は甘いと言わざるを得ません。
背中がシワだらけになるスーツ。なぜこうなったの?
早速、ZOZOプライベートブランドの2Bスーツを着たワタクシめをご覧ください。御年51歳のオッサンは見苦しいでしょうが、ここはレビューと思って我慢くだされ。
さて、スーツはひとまず置いておいて、まずはドレスシャツから。約2センチ(ないし2.5センチ)ネックが小さく、第一ボタンは止まりません。さらに袖丈も悲惨です。目視で2センチは短い。
ZOZOのドレスシャツはカタマイズができるため、仕上がり寸法をみて確実にサイズが異なると思われる胸囲−3センチ、肩幅−1センチとしました。これは正解で、いずれも僕にはピッタリだったはずです。
そうした補正の結果、袖が短くなった可能性もありますが、肩幅を詰めれば袖を長くせねばならないのは"常識"でしょう。肩幅と連動して袖の長さを変えないのだとしたら、そこには大きな疑問があります。それに袖が短いのは補正をしたシャツだけではないのです。
肝心のスーツですが、こちらもジャケット、パンツとも残念なことに悲惨な結果で届きました。なぜ悲惨かというと、紳士服チェーンで既製服を補正する方が、はるかに良い結果が得られる(と思われるような)ほどの、盛大な仕上がり寸法のおかしさがあるからです。
ジャケットサイズの基準ともなる胸囲のサイズは程よいのですがアームホールの位置が前すぎて胸を開くと"張る"感じです。一方で背中は緩く、アームホールの後ろに大きな縦ジワが入っているのがわかります。
実は同じ傾向がドレスシャツにもあります。
つまり、前見頃が小さく、後身頃が大きい。なので自然な姿勢で立つと胸側が張ってしまい、背中の布が余ってシワになるわけです。洋服に合わせて姿勢を取ると、肩を前に出して猫背ぎみにならなければなりません。
そして袖丈はシャツと同じく2〜2.5センチは短い。短いだけでなく、アームホールの大きさは適正で、袖口も程よいのですが、肘の周辺はぶかぶか。腕のラインがもっさりしてしまいます。
さらに写真ではウエストが小さく見え、横ジワが大量に入り、さらには丈も明らかに短いことがわかるでしょう。着丈は(短め着丈ジャケットが流行の昨今を勘案しても)4センチは短い。実はウエストと胴回りを1センチマイナス指定でオーダーしているのですが、理由はそこではありません。ウエストのサイズはちょうどいいんです。
なんとウエストラインが2.5〜3センチも高い位置にあるため、肋骨が一番高くなっている部分が絞り込まれているのです。よって、絞り込まれた部分が肋骨に引っかかって横に張り、実際のウエスト位置は広がっているので大量の横ジワができる。オッサンのお尻が丸見えなのは、4センチも短いからです。
続いてスラックス。
ウエストはサイドのストラップで留めるデザインを選択。ピッタリの大きさでナイスなフィット感ですが、それ以外には疑問が山積みです。なお、オーダー時の数値があまりに大きかったため、裾口は−0.5センチでオーダーしました。
一見してわかるとおり、鼠径部がゆったりとし、直立しているだけで布が余っているように見えますが、実は一番余ってるのはお尻の下。腿の裏側です。そこから膝にかけてはユルユルのまま落ちていき、膝の部分はユルユル。ヒラメ筋のある脛はキツく裾口は適度(補正したため)。鼠径部から太ももまでが緩いので、サルエルかモンペのようなシルエットに。サイズ感より何より、シルエットとしてこれをデザイナーが意図しているのかが不明です。
股下も、あと1センチぐらいは短い方が良さそうです。鼠径部は緩く、お尻側は比較的ピッタリという流れは、袖太さが肘で絞り込まれず全体に土管的なのはジャケットとも酷似していますから、なんとなく、体型データからスーツのシルエットを作るプログラムに問題が隠れていそうですね。
もしAI的な処理をやっているなら、より良い教師データをパタンナーAIに大量にぶち込む必要がありそうですが、その教師データを素人であるユーザーが作っていても、よりよいAIに成長してくれるのでしょうか??
補正は無料ながら、補正値はユーザーが"自分の感覚"で入力
さて、このように期待とは異なるスーツが届いたわけですが、補正は無料です。繰り返し補正データが集まることで、きっとZOZOのAIに教師データが送り込まれ......っとちと待て、その補正値は誰がどのように?
実は補正を依頼する場合、ZOZOのウェブページ、あるいはアプリを通じて細かく補正し、欲しい部分の寸法を±で記入していく必要があります。果たしてどの程度詰めれば、あるいは緩めればいいのか......。何のノウハウもない素人が入力せねばなりません。
我が家には"嫁"という計測装置が都合良く鎮座して協力してくれていますが、一人暮らしだとなかなかうまく計測できないという方もいるでしょう。
それでも補正値をコンプリートし、思い通りのサイズに直していかねばなりませんが、自分の感覚だけで入力した結果、立体的な縫製がなされているスーツの形状が"変な形"になる可能性もあるでしょう。
それに、ZOZOの2Bスーツは、"お直し"の範囲に一定の制約があります。
たとえばシャツの首回りは0.5センチ単位で最大±1センチしか補正できませんが、僕の場合は2センチぐらいはプラスにする必要があります。
ジャケットの着丈は最低4センチぐらい短く、最近の流行に合わせてやや短めにしたとしても、やはり2.5〜3センチぐらいは長くあってほしいのですが、最大で2センチしか出せません。
スラックスでは"わたり(太ももの根元部分)"の指定ができますが、膝や脛のサイズが補正指定できません。腿の太さを最適化すれば、まだ良いシルエットになるかもしれませんが、もともと腿の前側はぴったりで、後ろ側が緩いので"わたり"を小さくしても、良いフィット感になるかという点に疑問が残ります。
そもそも、こうして"疑問です"といっている私は、洋服の採寸を仕事としてしたことなどないですし、勉強したこともないのです。それに前述したアームホールにまつわる指定は、数値として存在しませんから、正しく補正をしてもらうことができるはずもないでしょう。
......と、あれこれ決めつけるのは良くないと思い、サポートに電話をしてみました。 問い合わせてから6時間後、到着した答えは......
「サイズの変更についてでございますが、
変更希望箇所で調節範囲の指定が出来ない場合は
備考欄に調整希望箇所と修正希望のサイズを入力お願いいたします。」
とのこと。
すなわち、着丈が4センチ短いならば、備考欄に4センチ短いと書いてください、ということなのですが、果たしてそういう伝え方だけで、なんとかなるものなのでしょうか? それほど生地が余っているとは思えませんから、おそらくは"仕立て直し"になるでしょう。その際、作られたスーツが廃棄されるとしたら、大量の廃棄スーツが出る可能性がありそうです。
それに着丈を長くするよう指定したところで、単に裾を直すだけではウエストラインは高いままですから、ボタン位置もウエストの絞り込みも高さは変わらず、シルエットは補正できません。
屍の向こうにしか進化がないのであるなら
延々とこの話を続けるつもりはないのですが、予感は最初に頼んだTシャツとテーパードシルエットのデニムパンツが届いたとき(すでにスーツは注文済み)からありました。Tシャツは緩く、肝心の背中のシルエットが"うーん"という感じで、デニムパンツに至っては、まるで"もんぺ"のように、脛だけぴったりで、他は緩く、緩く、ひたすら緩かったのです。
写真の画質が低く申し訳ないのですが、とりわけ斜め後ろからのシルエットを見ると、2Bスーツに負けず劣らず悲惨です。普段、僕がはいているデニム(草間彌生的シャツは単なるシャレです)と比べて、どちらをはきたいかは言わずもがな......ですよね。
などと文句を言ってもしかたがありません。賽は投げられました。
すでに多くのZOZOSUITが配られ、お得感満載の「フルオーダー」をうたう2Bスーツはたくさんのオーダーが入り、ユーザーに配送されはじめています。その中には、もちろん満足できるフィット感を得られている方もいるでしょう。
しかし、そうではない人も一定数いるはずです。テクノロジは繰り返しの開発、調整を行うことで進歩するものですから、これから進歩してくれればいい。しかし、その"教師データ"が素人のサジェスチョンでは成長速度も限られてきます。
あるいは、僕の体型が特殊なのかもしれません(実際には多くの吊るしなスーツが合います)が、そうした場合も含めて"スーツ"というのは、洋服の中でももっとも立体的な縫製が重要な服です。
ここはひとつ、全国チェーンの紳士服屋さんとでも提携した上で、補正を彼らに依頼してみるというのはどうでしょう。ZOZOSUITの計測データと比較しながら、最適な型紙を作るアルゴリズムへと収斂させるには、やはり"本物のプロ"が補正したデータを教師にするほかないように思います。
是非、ご一考を。
(2018年9月11日 Engadget日本版「ZOZOSUITの計測データでZOZOの2Bスーツをオーダーしたらとんでもないものが届いた件(本田雅一)」より転載)
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