フィンランド外務省の主催で、世界16カ国の若手ジャーナリストがこの国をあらゆる視点から学ぶプログラムに参加している。
14,15日はロシアの国境近くの、ラッペーンランタという町に来た。フィンランド最大の湖、サイマー湖があり、夏にはカヌーやカヤックに乗ったり、冬には寒中水泳やスケートをしたりして楽しむ人が多い。
同じフィンランドのヘルシンキより、隣国ロシアのサンクトペテルブルクに近いので、ロシアからの観光客がよく訪れるという。
2日目、この町の有名なカフェ「LEHMUS ROASTERY(レフムス・ロースタリー)」を訪れた。2018年に行われたヘルシンキコーヒーフェスティバルで、フィンランドで「一番美味しいコーヒーを出すお店」に選ばれている。
フィンランド人は、国民1人当たりの年間のコーヒー消費量が、世界でもトップクラスといわれている。1日に4~5杯飲む人が多い、とフィンランド外務省のプログラム担当者はいう。
若手ジャーナリストのプログラムにも最低でも1日3回、午前、午後、夕方に5-15分の「コーヒーブレイク(コーヒー休憩)」が組み込まれている。
隙間の時間ができたら、近くのカフェに行きましょう!とプログラムの担当者に誘われたこともある。コーヒーを飲むことが、彼らの習慣なのは間違いなさそうだ。
でも、なぜフィンランド人はこんなにコーヒー好きなのか? 仕事でも家庭でも「コーヒーブレイク」を欠かさないのか?彼らがこの飲み物の魅力にはまる理由を知りたくなった。
そこで、レフムス・ロースタリーの創業者の一人で、焙煎師のビサ・トゥオビネンさんに聞いてみることにした。
フィンランド人は、なぜこんなにコーヒーを飲むんですか?
すると彼は、少し笑いながら「2つ理由があると思っている」と答えた。
「1つは仕事をサボる、いい言い訳になること。トイレに行くよりも長く時間がかけられるからね」
「もう1つは、僕たちの国民性にあると思う。あまり社交的ではないフィンランド人にとって、コーヒーを飲む時間は人と話せるいい機会なんだ。そのためのきっかけにコーヒーはなっている」
フィンランド人が、「社交的じゃない」というのは、プログラムを通してたくさんのフィンランド人から聞いた。
言われてみれば、そうかもしれない。ちょうど、世界16カ国から集まった若いジャーナリストたちと一緒にいることもあり、違いがよく見えるように思う。
誰かが冗談を言ったとき、爆笑するジャーナリストたち。その隣で静かにほほえむのはフィンランド人ーーといった具合に。
高校生のときにフィンランドに住んだ経験のある日本人から聞いた話がある。
彼女が高校に転校したとき、校内で珍しいアジア系の生徒だったのにも関わらず、周りのフィンランド人の生徒から、話しかけてもらえなかったという。
自分から積極的に関わろうとしないと、向こうから声をかけてきてくれることはないのかもしれない。
おとなしいイメージのあるフィンランド人ではあるが、「コーヒーブレイク」のときの様子は、ちょっと違う。
ぞろぞろとコーヒーメーカーの前に集まり、カップを片手におしゃべりを始める。その様子は、立食パーティーのようにも見える。コーヒーをみんなで一緒に飲むことで会話が生まれ、交流が増えているようだ。
フィンランドのコーヒーブレイクの風景は、日本のオフィスではあまり見かけないかもしれない。
なぜなら、日本では勤務時間中に飲み物をとってきたり、買ってきたりはしても、みんなで1カ所に集まって一緒に飲むことはあまりないからだ。デスクで1人、楽しむ人が多いと思う。
日本人にとっての、「コーヒーブレイク」は、おそらく、夜の「飲み会」だろう。お酒が入れば、会社の人でも距離が近くなり、普段言えないこともいいやすくなる。
だが、フィンランド人は「飲み会」文化がないので、残業せずにそのまま帰宅する。だから同僚との「交流」も、仕事の時間の中で完結しようとする。
会社の人と過度に接したくない人にとっては実に効率的なやり方だ。
フィンランド人はきっと、コーヒーそのものが好きだからという理由だけでなく、人と交われる「コーヒーブレイク」の時間も大切にするから、消費量が世界一なのではないかと考えた。
などと分析をする私だが、実はコーヒーが飲めない。
無理に飲もうとするとすぐにお腹が痛くなってしまう。フィンランドに来る前に、「フィンランド人はたくさんコーヒー飲むよ!」と言われた時、どうしよう、毎回断らないといけないのかな、と少し心配していた。
しかし、実際は「コーヒーブレイク」で用意されるのはコーヒーだけではなく、必ず紅茶も用意される。フィンランドで一番美味しいコーヒーを作るカフェでも、きちんと紅茶が用意されていた。
「コーヒーブレイク」の飲み物は、本当はコーヒーでなくてもよかったのだ。紅茶でもいい。そこに、会話が生まれるなら、片手に何を持っていてもいいのだ。
世界でもトップクラスのコーヒー消費量は、シャイなフィンランド人でも「人と関わりたい」という気持ちを、コーヒーが媒介している結果なのかもしれない、と思った。