東京医科大が入試で女子受験生に対して一律に減点していたことを読売新聞などが報じた。
入試での点数操作は女性の入学人数を3割程度に抑えるためで、2010年前後に始まっていたとされる。女子学生の減点のほか、一部の男子受験生に加点することもあったという。同大によると、2018年度は、医学部医学科入学者120人のうち、女性は23人。 受験したのは男子1596人、女子1018人で、筆記がある1次試験の合格率は男子が18.9%、女子が14.5%となった。面接などの2次試験を経て最終的に合格したのは男子が8.8%、女子が2.9%だった。
東京医科大広報部はハフポスト日本版の取材に対し「現在内部調査中。不正入試事件についての捜査にも関わるので、コメントは差し控えたい」と答えた。また、8月上旬をめどに内部調査がまとめられ、公表を予定している。「結果が分かり次第、対応を検討します」と話した。
「噂はあった」
入試段階での「男女差別」が明らかになり、SNSなどでは衝撃が走っている。だが、医師らからは、女子学生の入学を抑制しようとする大学の存在は知られていた、という証言もある。
40代の勤務医で国立大医学部を卒業した男性は、私立ではなく国公立大であっても「私たちが受験生だった頃も、男子有利の大学があるという噂はありました」という。男女別だけではなく「浪人生や再受験生に対し不利な大学というのを、予備校の先生たちから説明された記憶はあります。どこまで根拠のある話かはわかりませんが、模試の偏差値と入試合否の関係から推察していたのかもしれません」と語る。
一方、「健診の現場などで女性医師のニーズは高いと感じる」と話す。その理由には、「病気でもないのに異性に見られたくない、という女性受診者が多いのでは」という。「診断能力には男女差がないと理解されているんだと思う。男性医師の診断能力が高いのだとしたら、男性医師希望という声が聞こえてきそうなものですから」
そのうえで「東京医大のいう『女性は男性の1/3』などというのは我々の実感とはかけ離れている。育児や家事で病院から離れるというのは、女性に育児や家事を押し付けているからにほかならない。女性医師に出勤してもらいたいなら、その配偶者に頑張ってもらえばいい。そのあたりは医師だけが特別ではないと思う」という。
Twitterでは、こんな指摘も。
妊娠中、教授は「この子はもう一流の循環器内科医としては望めない」
東京医科大が女子学生の合格を抑えていたとすれば、その理由は何か。報道によると、東京医科大は大学系列の病院で女性医師が結婚や出産で離職すると、医師不足につながるなどの理由を挙げているという。
だが、受験生に説明もなく、性別で差別していたことに、取材に応じた女性医師たちからは「憤りを感じる」「浅はかでその場しのぎの考えが情けない」との声が上がった。
大学病院の循環器内科に入局した女性医師は結婚して出産を控えていた時期、自分のことを「この子はもう一流の循環器内科医としては望めないね」と、教授からほかの医師に言われていたことがあるという。この背景に「医療現場に差別思想が蔓延している」現状を指摘する。
別の大学病院に勤めている育児休業中の20代の女性医師は「妊娠出産した女性医師は、医局の出世コースから遠のくというイメージが出来上がっている」という。「男性医師のほとんどは、妻が専業主婦。女性医師の妊娠出産について理解度が低すぎる。そんな医局に育休明けで戻るのはホラー」と話す。
「いくら医療先進国でも、男尊女卑の思想が染み付く日本は先進国とは言い難い。医師不足や女性医師の仕事復帰などの根本的な問題に目を背け、女子減点という浅はかでその場しのぎの考えが情けない」
「日本に帰りたくなくなった」
アメリカでがん専門医として働いている30代女性は、こう語る。
「男7割女3割の入学比率は、割とスタンダードだった。二次試験の面接で加点や減点があると聞いていた。実力があれば女子も加点があるかもと信じて多くの受験生は頑張る。でもマークシートで機械的にふるい落とされるとしたら、切なすぎる」
ただ、女性医師になってからも、ハードルは様々なところにある。
「ハラスメントは学生時代も医師になってからも続く。留学したいとか言うと『先生は女の子だから無理だよ』と言われる意味不明な世界だった」
「私は卒後4年目に渡米してアメリカでがん専門医として働いていますが、職場で性別を理由として差別を受けたことはない。いつか日本の医療に貢献したいとは思いますが、こんな現状ではますます日本に帰りたくなくなりました」
多浪受験生の間でも「男女差別」?
多浪で医学部を受験している娘をもつ母親は「多浪の女子学生も差別されていると感じる」と話す。
「聖マリアンナ医大は、昨年度から女子学生は現役と一浪だけになりました。比較的多浪に寛容といわれ、実際男子は2浪以上の入学者も多数いるにもかかわらず、です」
同大のホームページに掲載されている入試データをみると、2016年度入学まで多浪(2浪以上)の女子合格者を受け入れていたが、2017年度からは2年連続でゼロ。代わりに現役、1浪の女子学生が増えている。多浪は男子学生ばかりになった=下写真
入試の面接で「結婚、出産」を聞かれる異常さ
この女性の娘は、2017年度に受けた、別の私立医大の入試面接で、次のようなやりとりが2度繰り返されたという。
面接官:「女性だと、結婚とか出産とか大変だと思うけど、大丈夫?」
娘:「はい」
面接官:「大丈夫?」
娘:「はい」
面接官:「本当に大丈夫?」
娘:「あ...はい」
入試面接で、女子受験生だけに結婚や出産について聞かれることは珍しくない。
2007年度に地方の国立大医学部の入学試験を受けた経験のある女性の場合は、こうだった。
女性:「頑張ります」
面接官:「具体的には?」
女性:「結婚は考えていません。実家は病院ではないので戻って就職することも考えていません。医師になったら、そこの環境で判断します」
面接官:「でも結婚したくなるかもよ」
女性:「結婚や出産より大事な役割があると思っています」
女性は振り返る。
「国立大の医学部では、特に『その大学のある地方にとどまること』を気にして、結婚・出産を聞いていた感じでした。『覚悟を見せた!』と意気揚々と面接室を出たのを覚えています」
「滑り止めに受けた私立医大では、ダイレクトに『女の人は妊娠や出産、結婚でやめる人が多い。仕事の大切さについてどう考えているか』と問われた記憶があります」
予備校でも、こうした面接に備えた想定問答を作っていたという。
「予備校の医学部受験コースは、入試面接の『模範解答集』を受験生に配布していて、『結婚出産について聞かれたら』という項目もありました。『体力があり、長く働き続ける』ことをPRしなさいと助言していた記憶があります」
「国立大学の医学部に合格したのですが、入学後の講義で、男性の教授が公然と『結婚して関東に戻って医局を離れる"食い逃げ"が多い』とまで言ってましたから。地方国立大学の"食い逃げ"が多いのは、男性も同じ。医局に残りたくなくて男性も逃げていきますよ。女性だけじゃない」
医学部の受験情報サイト「医学部受験マニュアル」によると、東京女子医大を除く医大・医学部で、女子比率が高いのは、富山大学で、女子学生の比率は54%と男子より多い。次の埼玉医科大は47%。次いで、愛知医大、東京医科歯科大学と続く。女子比率が4割以上の共学の大学は、判明している51校のうち、11校だった。51校で一番低いのは東京大で比率は16%。次いで東北医科薬科大の19%だった。
このサイトでは、「30年前の医学部における女子学生の割合が10%程度であったことを考えると、間違いなく女子医学生の割合は上がっている」としながらも現状を次のように指摘、入試対策をしっかり準備するよう呼びかけている。
「公然と女子の合格者を下げることはしなくても、女子が苦手にしがちな数学の難易度を上げたり、女子が比較的多く選択する生物の難易度を上げる、面接の配点を下げるなどにより間接的に女子の合格率を下げている大学もあるようです」