「ママ友から『共働きの夫にもっと家庭にコミットしてもらうためには、どうしたらいい?』って相談されて。そのまま一時間半くらい立ち話になりました(笑)」
そう、「共働き・共育て」をうまくやる秘訣を簡単に伝授できるのなら苦労はしない。
イラストレーター、漫画家の水谷さるころさんの30代は"怒涛"の一語に尽きる。
30歳で初婚。33歳で離婚。36歳でバツイチ同士の事実婚のち、不妊治療を経て高齢出産。そして熾烈な保活競争......。
そんな数々の荒波に揉まれた末に見つけた、パートナーとの「家事や育児をシェアできる対等な関係」の築き方とは? 水谷さんに話を聞いた。
幸せな結婚は、生々しいやり取りなしには成り立たない
――新刊のタイトルは『目指せ! 夫婦ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』。子育てをテーマにしたコミックエッセイは数多くありますが、本書の内容は「夫婦のフェアな関係性をどう築いていくか」に重点が置かれていますね。
育児コミックエッセイなのに、赤ちゃんがほとんど出てきませんよね(笑)。
ブログのほうでは3歳の息子を描いたほのぼの4コマを毎日更新しているんですが、それはもう本当に"上澄み"なんです。あれはお金にしようとかは全然考えていなくて、老後に自分が楽しく読み返すためだけに描いている場所。
でも、そういったほのぼのした日常を支える土台には、夫婦双方の努力が欠かせないと思っていて。幸せな結婚生活って、夫婦間のリアルで生々しいやり取りやコミュニケーションなしには絶対に構築できない。それは、私も彼も離婚経験があるので身に染みています。
――「家事や育児をフェアに分担したい」「夫やパートナーにもっとコミットしてほしい」と悩む女性は多いです。どのようなところから始めるといいでしょうか。
さっきのママ友の悩みにどう答えたか、という話に重なるのですが、一番強調したのは「自分が(家事を)頑張るのをやめる」ということ。
「夫はやってくれない。じゃあ私がやらなきゃ」「妻/母親なんだから私がやらなきゃ」という思考で、なんでもかんでもやってしまうのをやめましょう、ということです。
夫を「困らせない努力」を今すぐやめる
――性役割が内面化されている部分が大きいかもしれません。
そうだと思います。子どもや夫が困る状況をいかに避けるかを考えて、先回りして行動しちゃう。でも、人間って困らない限りは当事者意識も芽生えないんです。
困らない限りは自分の問題だと思わないから。
だから、まずは「やめちゃう」ところから始めるのがいいと思う。夫がするべきことは「自分でやって」と宣言する。日常のタスクはいっぱいあるんですから「これは自分がやらなくてよくないか?」と立ち止まって、振り返ることが大事。
――相手にやらせようとする前に、まずは自分が「やめる」を選ぶ。
そうすると当然、今まで「やってもらっていた」側の夫は困りますよね。さあ、困った。じゃあどうしよう。そこでやっと相手に問題が可視化されるわけです。そこが夫婦の話し合いのタイミングです。
真面目な人ほど自分で頑張ってしまう
――新著でも、最初の結婚生活を振り返って、元夫に「もっと家事をしてもらえると私が助かるけどどうでしょうか」と伝える提案はできた。でも「ちゃんとお願いして要求する」ことができなかった、と書かれていますね。
そうなんです。「結婚したら家の中を快適に保つのは女の仕事」と社会に刷り込まれていたから、「提案」はできたけど、なかなか「要求」はできなかった。
自分より家事ができない伴侶をサポートすることで「万能感」を得ていたところもありました。でも結局、そういう無理は続かなかった。3年半で私が音を上げて離婚しました。
――真面目な努力家ほど、その罠に陥ってしまう気がします。
仕事も頑張って、ちゃんと実績を積んで、結婚もして、ときちんと努力を積み重ねている人って、そのままどんどん努力しちゃうんです。そして「私の努力になぜ夫はついてこないの」となってしまう。一方で、男性側には「家の中のことは女性に任せてもいい」という考え方がまだまだ残っている。
夫婦で「一緒に困る」と、解決策が見えてくる
――夫婦が「一緒に困る」ことが大事、とも書かれています。そのためのコミュニケーションが重要。
「一緒に困る」ことは、私たち夫婦にとってとても大事なことでした。
里帰り出産をしなかったのも、一番大変な新生児期を夫婦ふたりで一緒に乗り切りたかったから。最初のスタート地点から、父親にも子育ての当事者になってもらいたかったんですね。
だから、家事や育児を頑張りすぎている女性は、自分ひとりの問題として抱え込むのをやめて、夫にいったん預けてみてはどうでしょうか。
「この問題の解決を、あなたのタスクとして預けますよ」って。そうすると当事者意識も生まれるし、そこから一緒に解決していこう、という姿勢が生まれてくるはずです。
水木しげる先生のようなママを目指す?
――夫婦それぞれの総労働時間(仕事・通勤・家事・育児すべてを足した時間)を調査したデータによると、共働き妻の自由時間が最も短い、という結果も出ています。
日本のお母さんは働きすぎですよね。毎日100%どころか、120%がんばっているスーパーお母さんがたくさんいますけど、目指してるとこが高すぎる。
私も普段は夜9時には子どもと一緒に寝るんですけど、午前2時に起きて5時くらいまで仕事をして、もう一回寝るっていうのがサイクルなんですね。でも疲れた日は当然そんなことできなくて、朝まで寝てたりする。
そんな風に「たくさん寝ちゃったな」という日は、水木しげる先生のことを考えるんです。「たくさん寝て、好きな仕事する人生のほうがいいよね」、みたいな。
日本人て世界でもかなり寝てないらしいんですけど「睡眠時間削ればもっとやれる」みたいなのって、もう思考の癖っていうか。寝てないほうが頑張ってるみたいなの、やめたいので「水木しげる先生は、たくさん寝た方が良いって言ってた」って思い出すようにしてます。
仕事の成果が出てないなと思ったときは、「やなせたかし」と3回唱えます(笑)。やなせ先生ってキャリアは長いのに作家としてのブレイクが遅くて、「アンパンマン」がブームになったのは50代になってからなんですよ。
だからキャリアについて悩んでいる日は、やなせ先生のことを思い出して「いや、これからだ!」と思うことにしています。
――日によってうまく使い分けるんですね。
そうでもしないと、「ちゃんとできない自分」をすぐ責めちゃうんですよ。でも「頑張らないと価値がない」という思い込みって、呪いですよね。私たちはすごく呪われている。だから子育てのハードルはどんどん下げる。ちょっと怠惰なくらいでちょうどいい、と思うようにしています。
(続編は近日公開予定です)
水谷さるころ(みずたに・さるころ)
1976年、千葉県生まれ。イラストレーター、マンガ家、グラフィックデザイナー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ! 30日間世界一周』に出演。のちにその道中の顛末が『30日間世界一周!!』(全3巻・イーストプレス)としてマンガ化。16年に自身の結婚、離婚、事実婚で再婚したアラサーの10年間を描いた『結婚さえできればいいと思っていたけど』(幻冬舎)を出版。趣味は空手。
新著『目指せ! ツーオペ育児 ふたりで親になるわけで』は新潮社から発売中。
(取材・文:阿部花恵 編集:笹川かおり)