働き方改革に地方再生の活路を見い出す。高知県須崎市が目指す「田舎が勝つ方法」とは

「働き方が多様になっている今が、地方にとってチャンス」

高知県須崎市。高知市から西におよそ30キロ、県のほぼ中央に位置し、日本で最後にニホンカワウソの生息が確認された新荘川が流れ、甲子園常連校である明徳義塾の本校キャンパスがある町として知られる。

土佐湾や太平洋を一望できる市内の海岸線では風光明媚な眺望が楽しめ、カツオや伊勢エビといった魚介類や、鍋焼きラーメンというユニークなB級グルメも人気だ。

須崎市の安和海岸
須崎市の安和海岸
須崎市役所

そんな須崎市が、取り組んでいるのは「働き方改革」。大きな都市から離れたところに住んでいても、パソコンやネットを使って仕事ができる「テレワーク」をしやすい環境をつくったり、市役所の職員自身がITによる仕事の効率化に取り組んだりしている。4月には、アメリカのIT大手「デル」と「インテル」の各日本法人と連携協定を結んだ。

全国の地方都市が人口減少などに悩む中、無理のない「小さな改革」を積み重ねる姿に共感する自治体も多い。須崎市を訪ねてみた。

(写真左より)須崎市元気創造課の有澤聡明さん、インテル マーケティング本部 ビジネス・クライアントマーケティングディレクターの飯田真吾さん、楠瀬耕作市長、デル常務執行役員クライアント・ソリューションズ統括本部長の山田千代子さん。(4月26日の記者会見より)
(写真左より)須崎市元気創造課の有澤聡明さん、インテル マーケティング本部 ビジネス・クライアントマーケティングディレクターの飯田真吾さん、楠瀬耕作市長、デル常務執行役員クライアント・ソリューションズ統括本部長の山田千代子さん。(4月26日の記者会見より)

■「IT活用で職員間の風通しをよくする」楠瀬耕作市長

須崎市役所で4月26日、楠瀬耕作市長とデル日本法人の山田千代子常務執行役員が会見を開いた。画面を外してタブレットとして使えるノートパソコンなどを、デルが市役所や地元のNPO法人に5台提供したという。デルと地方自治体の連携は全国で2例目だ。

楠瀬市長は、パソコンを使って「働き方改革」を進めるという。

「市役所内はまだ紙だらけ。決裁の電子化など、時間がかかっている業務をもっと短時間にできるようにしたいですね。そして、縦割り行政で情報共有がうまくいかない現状を変えるべく、職員間の風通しをよくするためにITを活用していきたいです。そうすると職員の中で働き方の意識が変わっていくと思います」

多くの地方都市にとって、市役所や町役場は、地域の「代表的な職場」だ。市役所の職員自らが変わることで、先例をつくり、ほかの企業にも働き方の変化を促す狙いだ。

須崎市は、ゆるキャラグランプリで優勝の経験がある「しんじょう君」が有名だ。ニホンカワウソが国内で最後に目撃された新荘川にちなんだ名前で、誕生日には全国からプレゼントが届く。

ご当地キャラクター「しんじょう君」も会見に登場
ご当地キャラクター「しんじょう君」も会見に登場

■「"田舎"ならではのIT活用方法がある」須崎市市役所・元気創造課の有澤聡明さん

「しんじょう君」を使った情報発信を担う須崎市役所元気創造課の有澤聡明さんは、こんな風に話す。

「都会と比べると圧倒的な情報格差がありますが、田舎ならではのITの活用方法を駆使して、『地方も楽しそうだな』と思ってもらえるようにしたいです。時代のベクトルも、都会での暮らしが一番の理想形だ、というところから『地方もいいところがある』という多様性が認められてきているように思います」

有澤さんが敢えて使った「田舎」という言葉。どこかマイナスのイメージもあるが、地方で暮らしている有澤さんにとっては、ゆったりとした時間が流れるところが魅力という。

「インターネットを通じて須崎市を好きな人だけにピンポイントで情報を発信できるようになりました。働き方も多様になっている今が、地方にとってチャンスになっている。その波にいち早く乗っかっていくつもりです」

実際に、今回の発表を受けて他の自治体から問い合わせがいくつか入り、「視察したい」という要望も来たという。

市役所内でもITを使った業務効率化が進んでいる。
市役所内でもITを使った業務効率化が進んでいる。

■「インフラ整備と新しいワークスタイルの導入を同時に」デルの山田千代子さん

デルは2016年、福井県鯖江市と提携し、市の事業に合った会議システム、モニター、タブレット、デスクトップパソコンなどを提供した。デルにとっては、地域貢献をアピールしつつ、商品のPRにもつながるからだ。

企業と自治体が協業した成功例をもとに、次の提携先となる自治体を探していたが、「働き方改革の推進」「ICT教育への注力」「ITで町おこし」といった柱を立て、元気創造課が若い発想を取り入れて ITの推進を実現している須崎市に強く惹かれ、提携を決めたと、デルの山田千代子さんは語る。

「須崎市のプロジェクトは、KPIがしっかりと設定されていて、ITの活用や働き方改革について、いつまでに何をやるかという取り組みが具体的に数値化されています。その点が、今回提携させていただきたいと考えた大きな理由です。ですから、目標だけ掲げて終わってしまうことにはならないでしょう。

須崎市では、Wi-Fiなどのインフラ整備と、テレワークや時短といったワークスタイルの導入を同時に進めていくことになると思います。インフラが整わないとリモートワークができる環境になりませんし、逆にインフラだけが整っても、ルールに縛られて、新しい働き方を取り入れようという機運が生まれにくくなり、結果として宝の持ち腐れになる可能性があります。

地方都市には、チャンスが生まれています。どこででも働けるのなら、わざわざ都会に住む必要がないですから。ITを使って地方からでも会議に出たり業務報告をしたりできるのであれば、自由な働き方が選択できる人がかなり多くなります。働き方改革は、残業を減らしたり、リモートワークを導入したりするといった企業内の取り組みだけでなく、都会で働くもよし、地方で働くもよしという暮らしの多様性を実現できるチャンスとも言えますから、須崎市の取り組みがその好例になるよう、お手伝いをしていきます」

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