夫婦別姓を望み、事実婚を選んだカップルたちが、夫婦同姓を定めた民法の規定は「法の下の平等」を保障した憲法に違反しているとして、国や自治体を訴えた裁判が7月18日、東京地裁で始まった。
この裁判は、夫婦を別姓とする婚姻届けの受理を拒まれた人々が、東京や広島など各地の裁判所に対して起こしているもの。現在までに6組10人が原告となっている。
「どんなに遅くとも21世紀前には法律が変わるだろう」
東京地裁ではこの日、世田谷区在住、ともに大学教員の夫婦が原告となった裁判が開かれ、「夫婦別姓を希望した者は、法律婚ができず差別的な扱いを受けている」と訴えた。
2人は、事実婚歴がすでに約30年になる。
「結婚」前からすでに研究論文を発表していた2人。姓が変われば、論文発表で積み重ねてきた実績が同一人物のものとみなされない恐れがある。それを回避するため、2人とも姓を変えることは選ばなかった。
「どんなに遅くとも21世紀前には法律が変わるだろう」。2人は、そう考えて、法改正があったら婚姻届けを提出しようと考えていた。しかし、現在に至るまで改正は実現していない。2人は、進まない改革に、変わらない日本の姿を見る。
「日本人の意識も若い世代を中心に大幅に変化してきているのに、政府は相変わらず積極的に動こうとしていません。進展しない改革は日本の『失われた30年』そのもの。私たちは、これ以上待てないので、裁判に訴えることを決意しました」
「ペーパー離婚」を経験
8月には東京地裁立川支部での裁判も始まる。
原告の1組、八王子市在住のカップルもすでに事実婚歴は10年になる。相続などで不利にならないよう、また、父親の姓を名乗れるようにと、長女が誕生する直前にだけ「法律上の結婚」をし、3カ月後に「ペーパー離婚」をした。
2人は「別姓であることが対等な夫婦関係を体現していると考えている」という。しかし、扶養控除の対象外となり税金を余分に徴収されることになったり、子供の代理で行う行政手続きで余計な手間を強いられたり、と多くの不利益を感じている。
2人目の妊娠を望んだが叶わず、特別養子縁組で長女にきょうだいを迎えることも考えたが、事実婚は対象外と知らされた。今回の裁判を通じて、「家族の多様なあり方が認められる社会にしていきたい」と話す。
あれから3年。弁護団は「2度目の挑戦」
原告側の弁護団長を務める榊原富士子弁護士らは、過去にも夫婦別姓の訴訟を手がけてきた。
最高裁は2015年、夫婦同姓を定めた民法の規定は合憲と判断。その理由として「夫婦同姓は社会に定着した制度で、家族の姓を一つに定めることには合理性がある」としている。
しかし、最高裁大法廷では、裁判官15人中5人が憲法違反だという意見を述べた。寺田逸郎裁判長は合憲としたものの、補足意見の中で「むしろ国民的議論、民主主義的なプロセスで幅広く検討していくことが、ふさわしい解決だと思える」とし、社会での議論を促した。
あれから、3年。
日本は変わったのか。それとも変わっていないのか。
内閣府が2018年2月に発表した世論調査で、選択的夫婦別姓制度を「導入してもよい」と答えた人の割合は42.5%。これは過去最高となっている。「姓が違っても家族の一体感には影響がないと思う」と答えた人が64.3%いた。
2018年秋の自民党総裁選に立候補を表明した野田聖子総務大臣は、選択的夫婦別姓の導入を訴える考えを示しており、争点の一つに浮上している。
また、仕事などでの連続性を保つため、旧姓を使用することも一般的になりつつある。2018年に最高裁判所の裁判官となった宮崎裕子氏は、旧姓を使用。総務省によると、マイナンバーカードにも旧姓が併記できるように、2019年11月を目指して制度改正に取り組んでいる。
榊原弁護士は「夫婦別姓の制度導入の要請は、より一層強くなっている。速やかな法改正が望まれていることは疑いようがない」としている。
夫婦別姓裁判はほかにも。
夫婦別姓を求める動きとしては、2018年1月、サイボウズの青野慶久社長らが国を相手に東京地裁に訴えた裁判も進行中。
また、アメリカ・ニューヨーク州で約20年前に結婚し、夫婦別姓で暮らしている映画作家、想田和弘さんと妻の柏木規与子さんも、別姓のままで婚姻関係にあることを確認するように求めて、東京地裁に提訴している。