育児は「お母さん」だけの責任?⇒署名受け、アカチャンホンポがパッケージ変更

いろんな家族のかたちがあるから。

1人の女性の疑問から始まった署名運動が、わずか1カ月で企業を動かすことになった。

「全国のお母さんを応援します」。

現在、ゼロ歳の長女を育てている大阪市の早川菜津美さんは、ベビー用品などを扱う専門店「アカチャンホンポ」のオリジナル商品「水99%Super」シリーズのおしりふきを愛用している。累計で3億パック近く(2018年1月時点)を売り上げた、人気商品だ。

側面には、「全国のお母さんを応援します」というメッセージが書かれている。

オムツ替えのたび、一日何度も手にする商品。そのたびに、早川さんの中で違和感が少しずつ膨らんできた。

「赤ちゃんの世話をするのは、お母さんだけなの?」

HuffPost Japan/Yuriko Izutani

早川さんが気になっていたのは、この商品だけではなかった。

書店で手にした育児本、タイトルには「ママのための◯◯」などと書かれている。自治体の育児学級では「お母さんがしっかり気をつけてください」と説明されたこともあった。

「私は自分の子を育てている。でも、社会から『子育ては母親の、女性の役割』と押し付けられるようで、ストレスを感じます。「応援」は、決して悪いことではない。でも、『子育ては母親だけがするもの』という固定観念を刷り込んでしまう危険性があると思いました」

「自分の存在が認められていない、脇役のようでつらい」

また、早川さんの周囲で、疑問を持っていたのは女性だけではなかった。

友人の夫は、育児グッズで「『お母さんを応援』と言われると、自分の存在が認められていない、脇役とみなされているようでつらい」と話していた。

「育児を『お母さん』の責任にするようなメッセージばかりが世の中に溢れていては、男性の育児参加も増えず、参加しようとする人の意欲も逆に削がれてしまうのではないでしょうか」。

日本の男性の家事・育児関連時間は1日当たり44分、女性は3時間28分(2016年社会生活基本調査)。5年前の調査と比べて、男性の時間は2分増えたが、依然として差は大きく、先進国の中で最低となっている。

6歳未満の子を持つ夫婦の1日あたりの家事・育児関連時間では、夫が1時間23分(うち育児が49分)、妻は7時間34分(育児は3時間45分)。こちらは、5年前に比べて夫の家事・育児時間は16分増、妻は7分の減少となっている。

Jaunty Junto

わずか1カ月後、赤ちゃん本舗はパッケージ変更

そこで、5月17日、早川さんは、男性や独身者も含む友人らと署名サイトchange.orgで運動を開始した。内容は、運営会社「赤ちゃん本舗」に対し、パッケージのメッセージを変更してほしいと要望するもの。この呼びかけに対し、5000筆を超える共感の声が集まった。

署名とともに寄せられたコメントには、「母親だけを、子育ての当事者にしない社会にしたい」「まだまだ父親の育児が広がっていない。その社会の改善のためにも、パッケージ変更を」などの声があった。

また、叔母の立場で育児をしているという当事者からのコメントや、子育てをしている同性カップルについて言及する人もいた。

署名を提出してわずか1カ月後の6月末、同社はパッケージ変更を決めた。同社によると、現在の商品在庫がなくなり次第、順次、新しいパッケージに切り替えていくという。

同社CSR推進・広報部の担当者はハフポスト日本版の取材に対して、「時代の流れを加味し、ご意見を真摯に受け止めて見直しの決断に至りました。当社は元々「スマイルな育児を」というコーポレートメッセージを掲げ、子育てをする皆を応援したいと思っています」と話した。

署名の成功を受けて、早川さんは「同性カップルなども想定していましたが、署名を始めてから、さらに色々な形態の家族があると知りました。今回の投げかけが、多様性を認める社会の役に立てばうれしいです」と話している。

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「保護者」「子供の養育者」のかわいい言葉ってないの?

取材の中で、早川さんはこうも話していた。

「育児商品を作る企業に、ジェンダーバイアス(性別による役割についての固定的な観念)はあっても、悪気があるわけではないと思うんです。キャッチコピーとして『ママ』『お母さん』という表現がかわいいから、つい便利に使ってしまう気持ちもわかる気がする。だから、『保護者』に変わる新しい言葉を探したい」。

早川さんらは署名運動を機に、グループbaby stepを結成して、今後も活動を続ける予定。「新しい言葉」のアイデアも募集したいと話している。

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