渋谷駅「埼京線ホーム」が遠く離れているワケ

2020年にはついに山手線と並ぶ位置に

渋谷駅の埼京線・湘南新宿ラインホーム(右)に発着する湘南新宿ラインの電車と、その目の前を通りすぎる山手線の電車(左)。両線のホームは遠く離れている(編集部撮影)

渋谷駅の中央改札から埼京線に乗ろうとすると、駅の案内には「埼京線ホームはこの先約270mです」と書かれている。

本記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

270mといえば、湘南新宿ライン15両分よりは短いものの、山手線11両分より長い。一つの列車の端から端まで歩かなければならない距離である。しかも、たどりつくのはホームの端っこだ。乗車する車両のところまで行くには、さらに歩かなければならない。湘南新宿ラインのグリーン車や、成田エクスプレスの指定された座席の車両など、「まだ歩くの?」と感じてもおかしくはない。以前は通路に「動く歩道」があったが、駅改良工事のため使用を中止した。

2020年にはホームが並ぶ

渋谷駅埼京線ホームへ向かう通路には、「2020並ぶぜ!!ホーム」というポスターが貼ってあり、2020年に埼京線ホームが現在の位置から350m北側に移動することが記されている。将来は、現在の山手線ホームの横に埼京線ホームが移設される。

そのプロセスの中で、5月26日・27日と6月2日・3日には、埼京線と湘南新宿ラインを運休させて「渋谷駅線路切換工事」が行われた。

しかし、「並ぶぜ!!」という前に、そもそも埼京線ホームはなぜこんなに他の路線から離れた位置につくられたのだろうか。

渋谷駅新南口はかつての貨物駅跡地につくられた(筆者撮影)

現在、埼京線や湘南新宿ラインが走っている線路は、本来は「山手貨物線」だ。かつて渋谷駅埼京線ホームのあたりには貨物線の渋谷駅があった。簡単に言えば、その跡地を利用したというのが、埼京線ホームが現在地につくられた理由である。

渋谷駅が1885年に開業した当初、駅はこの貨物駅の場所にあった。1920年には輸送量の増加で複々線化され、もともとの線路が貨物線、新しくつくられた線路が山手線の電車が走る旅客用の線路となった。この際に旅客駅は現在の山手線の位置に移動したが、貨物駅はそのままの位置に残った。

貨物線を利用した埼京線

貨物線はその後も首都圏の物流を支えてきたが、1980年10月1日に山手貨物線の渋谷駅は廃止され、それ以降は単に通過するだけの場所となっていた。また、1973年に首都圏の外周を走る武蔵野線が一部開業すると、貨物列車の大半が武蔵野線経由に移行し、山手貨物線をどうするかが議論になっていた。

1973年1月5日の『朝日新聞』朝刊では、山手貨物線を今後どうするかについての記事が掲載されており、新幹線に使用する、山手線快速列車を走らせる、高崎線を乗り入れさせる......など、さまざまな方法で旅客利用の案が練られていたことが報じられている。1983年には、東京都が山手貨物線の池袋以南を旅客化し、当時建設が進んでいた通勤別線(埼京線)を大崎方面に延伸することを要望している。

東北新幹線に並行する形で整備された大宮―赤羽間の新線と、赤羽―池袋間の赤羽線を結んで「埼京線」が開業したのは1985年9月30日。当初は大宮―池袋間の運転だったが、翌1986年3月には山手貨物線に乗り入れて新宿への乗り入れを果たした。そして1996年には新宿から恵比寿まで運転区間が延長され、この際に現在地にホームができたのだ。

その後、山手貨物線渋谷駅跡地には事務所ビルやJR東日本系列の「ホテルメッツ」などが建てられた。

地上時代の東横線渋谷駅(写真:digi009 / PIXTA)

貨物駅があった場所に埼京線ホームが設けられたことはわかった。だが、跡地を利用したというだけでなく、埼京線が渋谷に乗り入れた当時は山手線ホームと並ぶ位置にホームをつくれない理由があった。東急東横線渋谷駅の存在だ。

かつて山手線ホームの東側には、高架の東横線渋谷駅があった。同線の渋谷駅は2013年3月16日に地下化されたが、それ以前は山手線渋谷駅と東横線渋谷駅が山手貨物線をはさむ形となっており、山手線と並ぶ位置にホームを設置する余裕はなかったのだ。

埼京線のホームを山手線ホームと並ぶ位置に移設することが可能になったのは、東横線の駅が地下化され、ホームをつくる場所が空けられたためだ。

やっと解決する「遠いホーム」

ホームの移設計画は、東横線渋谷駅跡地を含む渋谷駅周辺の大規模な再開発と連動している。2003年に渋谷区がまとめた「渋谷駅周辺整備ガイドプラン21」は、埼京線の駅について「南側に偏心しており、乗換えやまちへのアクセスが不便」と指摘し、東横線跡地を活用した埼京線ホームの北側(山手線ホーム寄り)への延伸が「計画案」として記載されている。

そして、2008年の「渋谷駅街区基盤整備方針」では、駅施設の「鉄道路線間の乗り換え利便性の向上」「わかりやすく快適な駅空間の形成」などを目的とした整備内容として、山手線ホームの1面2線化や東京メトロ銀座線ホームの移動と島式化などとともに、「埼京線ホームを山手線ホームと並列化」することが盛り込まれた。

渋谷駅とその周辺では大規模な再開発工事が進んでおり、全体の工事終了は2027年を予定している。現在は工事のため渋谷駅周辺はわかりにくくなっているが、工事が終われば動線のスッキリとした駅となるだろう。

埼京線ホームの移設もその流れの中で進み、2020年には山手線と並ぶ。そして「渋谷駅の埼京線ホームが遠い」という問題が、開業から約25年を経て解決されるのである。

小林 拓矢 : フリーライター

関連記事

注目記事