是枝監督「左右両派!のバトルは終わりにして」 「万引き家族」で巻き起こる議論に提言

映画は6月8日から公開
第71回カンヌ国際映画祭/最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」の是枝裕和監督
第71回カンヌ国際映画祭/最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」の是枝裕和監督
AFP=時事

フランスのカンヌ国際映画祭で5月、最高賞のパルムドールを受賞した「万引き家族」の是枝裕和監督。

この受賞への祝賀をめぐって、国内外で議論が巻き起こり、是枝監督が自身のホームページで「『祝意』に関して」というメッセージを出した。

首相の対応、海外で批判

きっかけは、パルムドールを受賞したことに対する、安倍晋三首相の対応についてだった。

映画などの情報を扱うアメリカの週刊誌「ハリウッド・リポーター」では5月31日に、「日本の首相が、パルムドール受賞監督をシカトしている」という記事を出した。

記事では、2017年10月に、日本生まれだがイギリスで育った日系イギリス人のカズオ・イシグロさんがノーベル賞を受賞した際には公式の祝辞を出したのに、「是枝監督がパルムドールを受賞しても、おめでとうの電話もメッセージも無かった」と言及。この原因が「万引き家族」のテーマが、収入格差が広がり社会的に排除された人たちであったことで、保守的なリーダーである安倍首相を怒らせたからではないかと憶測を呼んでいる、などと批判した。

また、この記事以前には、フランスのフィガロ紙でも、安倍首相の祝福がなかったことを疑問視する記事が出ていた。

国会に飛び火

この問題を受けて、 参院の文教科学委員会で、立憲民主党の神本美恵子議員が「フランスの新聞社は、安倍総理大臣が是枝監督に祝意を示していないと指摘している。政府は是枝監督を祝福しないのか」などと質問した

回答した林芳正文部科学大臣は「『万引き家族』がパルムドールを受賞したことは誠に喜ばしく、世界的にも高い評価を受けたことは誇らしい」と述べた。

そのうえで「来てもらえるかわからないが、是枝監督への呼びかけを私からしたい」と、是枝監督を文科省に招いて祝福したいという意向を示した。

ネット上でも議論

これらの報道をめぐり、国内のネット上でも議論が巻き起こった。

Twitter上では、安倍首相の対応を「恥ずかしい」と批判するものや、反対に「憶測だけで騒いでいる」「沈黙するのが国家の品格」などという意見が出た。

カンヌ映画祭「万引き家族」でパルムドールを受賞した是枝裕和監督に対し、安倍首相は祝福の言葉ひとつ発しない。是枝さんが安倍政治を強く批判していることが原因らしい。一方でスケートの羽生選手には国民栄誉賞。とにかく好き嫌いでしか物事の判断ができない安倍らしい。

— 鈴木 耕 (@kou_1970) 2018年6月2日

是枝監督を祝福しない安倍首相を、仏紙「フィガロ」が痛烈に批判https://t.co/a3IKXVJVXQ

安倍首相は、海外での日本人の受賞に絶え間ない賛辞を送ってきたが、今回は沈黙を保ったままだ。それは是枝監督が、安倍政権の新自由主義的改革や日本の右傾化に危惧を表しているからだと冷静に分析している。

— 盛田隆二『焼け跡のハイヒール』祥伝社 (@product1954) 2018年5月31日

是枝監督「(顕彰は)全てお断りさせて頂いている」

国内外で起こった「祝意」に関する騒動について、是枝監督は6月7日、自身のホームページでブログを更新。

受賞直後からいくつかの団体や自治体から今回の受賞を顕彰したい、という問い合わせがあったという。だが、いままで「全てお断りさせて頂いております」と述べた。

波風を立てないように「断った」ということを発表していなかったが、このような騒動になり、公表することを決めたという。

また、林文科相が文科省に招いて祝福したいと述べたり、野党が問題として取りあげたことなどをについても「このような私事で限られた審議や新聞の紙面やテレビのニュースの時間を割いて頂くのも心苦しく」と表現した。

そのうえで次のように考えを示した。

しかし、映画がかつて、「国益」や「国策」と一体化し、大きな不幸を招いた過去の反省に立つならば、大げさなようですがこのような「平時」においても公権力(それが保守でもリベラルでも)とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないかと考えています。

また、現在の状況についても触れ「このことを巡る左右両派!のバトルは終わりにして頂きたい。映画そのものについての賛否は是非継続して下さい」と述べていた。

6月5日のブログでは、ネット上で巻き起こった議論についても触れ、次のように書いていた。

正直な話、ネットで『万引き家族』に関して作品を巡ってではなく飛び交っている言葉の多くは本質からはかなり遠いと思いながら、やはりこの作品と監督である僕を現政権(とそれを支持している人々)の提示している価値観との距離で否定しようとしたり、逆に擁護しようとしたりする状況というのは、映画だけでなく、この国を覆っている「何か」を可視化するのには多少なりとも役立ったのではないかと皮肉ではなく思っている。

映画は、6月8日から公開されている。

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