日本大アメリカンフットボール部の選手が危険な反則タックルで関西学院大の選手にけがを負わせた問題で、5月29日にあった記者会見で関東学生アメリカンフットボール連盟の幹部らは、日大の内田正人・前監督がチーム内で「絶対権力者」のように振舞っていた状況を再現してみせた。
「内田氏に対してはコーチでさえも恐れ、自分の信念を曲げて盲従していた」。この日あった記者会見で、問題を調査した連盟の森本啓司・専務理事はそう述べた。森本氏は、内田氏と井上奨・前コーチを「除名」処分にする方針も明らかにした。
連盟は日大の反則をした選手や内田氏、井上奨・前コーチら約20人から聞き取りするなどして、実態解明を進めてきた。それによると、内田氏の言うことは絶対であり、それに逆らえばコーチも選手も突然やめさせられる状態だったという。
理不尽な状況に耐えかね、2017年には一度に20人の部員が退部。そんな中、反則タックルをした選手は「肉体的、精神的に追い込まれていった」(森本氏)。センスはあったものの、闘志を前面に出すタイプではなかったことが、内田氏の「好むところではなかった」と、森本氏は説明した。
森本氏の説明によると、井上氏も選手にどんどん厳しく接するようになった。井上氏は選手が高校時代には監督だった。当時は、「厳しさの中にも楽しさがあり、尊敬されていた」指導者だったが、内田氏が監督に就任して以降は、まるで人が変わったかのように厳しくなっていた。
内田氏はしばしば、選手のレベルを上げるためと称して、理不尽とも言える対応で精神的に追い込んだという。チーム内では「はまる」と言われ、2018年春、まさにそのターゲットとされたのが問題を起こした選手だった。
内田氏はレギュラーを外すことをちらつかせて選手に圧力をかけたほか、全員の前で激しく叱責した。だが、井上氏は選手を守ろうとせず、それに輪をかけて厳しく指導した。
関学大との試合が近づくと、選手への理不尽な対応はさらに加速した。試合の3日前だった5月3日には、内田氏は「やる気が感じられない。試合に出さない」と試合形式の練習から外された。
さらにその翌日、内田氏は選手に対し、すでに決まっていた日本代表を「辞退しろ」と要求した。
試合前日の5月5日、井上氏も選手に「髪型を丸刈りにしなければ試合に出さない」と言明。選手は言われるまま髪を切ったが、さらなる理不尽な要求が選手に突きつけられた。「どこでもいいから1プレー目から相手クォーターバック(QB)に突っ込め」。選手は先輩づてに聞いた井上氏の指示に悩み、苦しんだ。
選手は日本代表になれないことや、試合に出られないことを恐れ、指示に従うことにする。試合当日、スタメンに自らの名前がなく、井上氏からは「QBつぶすと監督に言え」と言われ、その通りにした。
「やらなきゃ意味ないよ」。内田氏からそう言われた選手は井上氏に「リードしないで突っ込みますけど、いいですね」と危険なプレーについて確認を求めた。「それでいい。思い切り行ってこい」と井上氏も了承した。
さらに井上氏は試合開始直前、「できませんでしたじゃすまされないぞ」と念押しまでした。
試合開始後、選手が最初に反則した際、審判は明らかな反則行為に「お前はいったい何をしてるんだ」と怒鳴った。
選手は「はい、すいません」と言ったので、審判は少し迷ったが15ヤードの反則にとどめた。
だが、選手が再び反則をすると、審判は「あの91番、ちょっとひどい。なんとかしてくれ」と日大側にアピール。井上氏は「わかりました」という仕草を取ったが、交代させなかった。
3度目の反則では、小突き合いになった関学大の選手に対し、ヘルメットを殴って暴力行為を認定された。だが、選手はこの時、それほど「エキサイトしていなかった」(森本氏)という。
それでも攻撃的な姿勢をみせたのは、受け身になることで、内田、井上両氏から闘争心ないと叱責されるのを恐れたからだった。
選手は「実名、顔出し」で記者会見し、「つぶせ」は内田氏の指示で、相手選手にけがをさせるという意味だったと主張した。これに対し、内田氏は否定、井上氏も「『つぶせ』は『思い切りプレーしろ』の意味だった」と説明してきた。
こうした両氏の主張を、連盟はことごとく退けた。「つぶせ」について、森本氏は「井上氏は『思い切りプレーしろ』の意味だったと言うが、実力のある選手にわざわざそういう趣旨で言うのは不自然」と指摘。その上で、井上氏が選手に「相手のQBとは友達か」と確認したことを重視し、「友達にはとてもできないことをしてこい、つまりけがをさせてしまえということであり、日大側が言う『認識の乖離』はなかった」と述べた。
また、「つぶせ」が内田氏の指示だったかについても、指示を否定した井上氏の発言は、「内田氏をかばおうとして事実をねじ曲げ、信頼性に乏しい」とし、試合前に選手から指示の確認を求められたことを否定した内田氏については、「急に試合に出られることになったのに、『何も会話をしていなかった』とする内田氏の言い分は不自然」と森本氏は述べた。
一方、選手の主張については、内田氏との会話が極めて詳細で合理的であり、「どちらを信じるかは火を見るより明らか」とした。
このほか、1プレー目からQBを「つぶす」ことが、選手が試合に出場する条件だったことや、内田氏が「やらなきゃ意味がない」とけがをさせることを容認したことについても、いずれも選手の言い分を認めた。