金正恩委員長は核兵器を放棄する意志はある。しかし、自分たちが核兵器を放棄した場合には、アメリカが敵対関係を終えて北朝鮮の体制を保障することを確実に信頼できるかを心配しているという。
韓国の文在寅大統領は5月27日、第2次南北首脳会談の結果を伝える記者会見の質疑応答で、このような発言をした。北朝鮮が要求してきた体制保障案は、北朝鮮とアメリカの間に起こっている非核化交渉の核心的な争点の1つだ。これに対する双方の信頼が、まだ形成されていなかったというのが文大統領の判断だ。
アメリカはアメリカで、完全な非核化に対する北朝鮮の意志を、全く信頼していない。果たして、北朝鮮がいわゆるCVIDと呼ばれる「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」に乗り出すのか、ということだ。
北朝鮮が恐れる「リビアの二の舞」
一方、文大統領によると、北朝鮮の金正恩国務委員長の非核化の意志は確固だ。ただ、非核化を履行した時、アメリカが体制の安全を確実に保障するのかについて、依然として確信していない。簡単に言えば「行くのがあれば、来るのがなければならない」という話だ。
ここ数週間で起きたことを整理してみよう。北朝鮮は最近、アメリカの方で取り上げられた「リビアモデル」を一種の脅威と受け止めた。ホワイトハウスのジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官がインタビューで言及した「リビアモデル」は事実上、一方的な核放棄の方式だ。北朝鮮が強く反発した理由だ。
さらに、リビアの独裁者カダフィ大佐は、核放棄後に悲惨な最期を迎えた。彼は2003年と2004年にわたって、自発的に核を放棄した。アメリカは2006年に、リビアをテロ支援国リストから除外して外交関係を正常化した。しかし、カダフィはリビア内戦当時の2011年、NATOの軍事介入の末、反乱軍の手によって射殺された。
ホワイトハウスは「リビアモデルではなくトランプモデル」として収拾に乗り出した。しかし、トランプ大統領が「リビアモデル」を正確に理解していないまま口にしたと見られる発言も、北朝鮮を混乱させた可能性がある。
こうした中で、ポンペオ国務長官が24日、上院外交委員会に出席した際の発言に注目が集まっている。完全な非核化に相当する具体的な北朝鮮体制保障案を、初めて明らかにしたものだ。いわゆるCVIG、つまり「完全かつ検証可能で不可逆的な保障」だ。
CVIDとCVIGの交換
ポンペオ長官の発言は、「リビアモデル」に対する議員の質疑に答える過程で登場した。エド・マーキー上院議員(民主党、マサチューセッツ)は「リビアモデルを言及したことが、北朝鮮を刺激したのではないか」と追及した。対話をすると言いながら、相手が脅威と受け取り得る発言をしたことが不適切だということだ。彼の質問要旨は、次の通りだ。
エド・マーキー上院議員:金正恩が理解する「リビアモデル」は、一国家の指導者が核兵器を放棄したら転覆されて射殺されたモデルだ。ジョン・ボルトンがテレビに出てずっとこのことを話しているのに、金正恩が違って(脅威として)受け入れるだろうと、どうして考えられないのか?副大統領も、カダフィ大佐のモデルを話しているのではないか。非核化が終わった後、殺されたカダフィ大佐の末路でなく、(北朝鮮が)これをどうやって違って受け止めるのだろうか?(...)これが果して、非核化の交渉相手と対話する良い方法なのか?
ポンペオ長官は「リビアモデルと関連して誤解がある」「ボルトンが言ったのは、それではない」と釈明に乗り出した。 ボルトン補佐官が言及したのは、カダフィ大佐が追放された事件とは別の事件である非核化の過程に対する内容だけだということ。ポンペオはカダフィ大佐が「(核を放棄した)2004年以降も、長い間権力を維持した」という点を強調した。
そうしながら、ポンペオ長官は「金正恩委員長が(議員の指摘とは)違うように理解したという理由をさらに挙げたい」と口を開いた。
ポンペオ長官:彼(金正恩)と私は、このことについて会話を交わした。彼と私は、我々が彼にどのような体制保障を提供すべきなのかについて言葉を交わした。これは、我々が(北朝鮮に)要求している永久的で不可逆的かつ検証可能な非核化と同じ方式の保障にならなければならない。我々の方でも同様に、交渉が終わった後も続くような体制保障を提供しなければならない。したがって、私たちは(金正恩と)正確にこの問題に対する協議を行った。合意後もそれ(体制保障)が続くだろうとの約束を、私たちがしなければならない問題だ。
「覆せないように」
それならば、カギは北朝鮮が安心できる"永久的"体制保障を、アメリカがどうやってしてあげられるかという問題に移る。ポンペオ長官にはアイデアがある。
彼は、北朝鮮と交渉が妥結されれば、これを条約の形にして議会の同意を受けるという意志を明かした。政権が変わっても勝手に覆さないようにするという話だ。これはトランプ大統領が脱退を宣言したイラン核合意とは違う。
ベン・カルダン上院議員(民主党、メリーランド)は「(オバマ政権時代)イラン核合意に向けた議論をした当時、共和党所属の同僚議員らは、これが上院議員の3分の2以上の同意が必要な条約の形にならなければならないと考えた」と当時の状況を振り返った。
オバマ政府の時に妥結されたイラン核合意は、行政府レベルの協定だった。外交的国際合意ではあるが、アメリカ政府が後に立場を変えて破棄しても、これを制御できる法律的な装置がなかった。
イラン核合意を議論した当時、上院での多数派だった共和党内では、合意そのものに反対する議員が多かった。このため、当時のオバマ政権は議会批准を推進しなかった。オバマ前大統領の気候変化政策の大半が、いつでも覆すことができる脆弱な行政命令に頼ったこととも似たような理由だ。
したがって、ポンペオ長官が北朝鮮との非核化合意結果を、条約の形で完成するという目標を明らかにしたのは、かなり意味あることだ。合意の履行の持続可能性を担保するというアメリカの約束であるわけだからだ。
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ポンペオ長官:上院に提示できる合意を果たすというのが、私たちの目標だ。それが私たちの目標だ。我々の目標は、イラン核合意に起こったこととも関連がある。アメリカ議会が、憲法による承認の任務を遂行できるようにするということだ。
ベン・カルダン上院議員:では今おっしゃったことは、これを条約の形で上院に提出するという意味か?
ポンペオ長官:そうだ。
聯合ニュースは「これまで、米朝間の主要な核合意である1994年の米朝枠組み合意と2005年の9.19共同声明は、すべてアメリカ議会の同意を得ない行政府レベルの合意だった」という点を想起させた。ポンペオ長官の構想どおりになったとしたら、今度は次元が違う合意がなされるという話だ。
チョン・セヒョン元統一部長官は29日、韓国tbsラジオ「キム・オジュンのニュース工場」に出演し、ポンペオ長官が言及した条約に「不可侵」内容が盛り込まれ得ると展望した。そうなると、北朝鮮にも「非核化、確実にしてくれと出ることができる」ということ。
チョン・セヒョン:「(...)なぜなら、承認を受けた形での手続きを経れば、今後政権が変わっても議会で承認までしたのだから、アメリカは少なくともそれを覆さないでしょう。私たちは国会で今、板門店宣言に同意すること、大統領が批准することに同意することも上手くしないつもりですが、アメリカではそれをしようとしているのではないですか。ポンペオがその想定をするということで...」
キム・オジュン:ところが想定の内容が、不可侵条約...。
チョン・セヒョン:内容に不可侵が盛り込まれる可能性はあるでしょう。だから、不可侵の内容が盛り込まれ、それが明示されてアメリカ議会で承認までされて、大統領が批准して発表して、そしてそれをさらに確実に保障するための平和協定を締結する、こんな風になるなら、北朝鮮が非核化、確実にしてくれと出ることができます。(韓国tbsラジオ「キム・オジュンのニュース工場」5月29日)
ハフポスト韓国版から翻訳・編集しました。