「臨時国会、開かないのは違憲」沖縄の国会議員が国を訴え どんな裁判なのか?

「しなければならない」は義務ではないのか
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「内閣が臨時国会を召集しなかったのは憲法違反だ」として5月28日、沖縄選出の国会議員5人が国を訴えた。

どんな裁判なのか。原告代理人の小口幸人弁護士に寄稿してもらった。

昨年(2017年)6月22日、衆参両院の4分の1以上の国会議員が、安倍内閣に対し、臨時国会の召集を求めました。森友学園・加計学園問題の追及のためです。憲法53条が召集しなければならないと定めているのに、安倍内閣はこれを無視し続けました。

9月28日になって、ようやく臨時国会は召集されましたが、所信表明演説すらされずに衆議院は解散され、参議院も閉会となりました。

本日(2018年5月28日)、5人の国会議員は、内閣には臨時国会は20日以内に召集しなければならない法律上の義務の確認と、一人あたり1万円の損害賠償を求め、那覇地方裁判所に国を提訴しました。

原告らの代理人で弁護団の事務局長である私から、この裁判の概要を報告させていただきます。

1 右や左ではなく、国会と内閣

憲法53条は、4分の1以上の国会議員が臨時国会の召集を求めた場合、内閣は臨時国会を召集しなければならないと定めています。国会の多数派ではなくても、4分の1以上が求めるなら国会は開かれ審議されることを憲法は求めています。

今の与党は俗に言う右派の自民党と公明党で、俗に言う野党が左派という形になっていますが、4分の1以上の召集要求権という権利は、右左にかかわらず、国会に認められています。左だからどう、右だからどう、という問題ではありません。

今回の裁判は、国会からの要求を無視した内閣を許すか許さないかという裁判です。国会が国民の代表者で構成されている以上、この裁判で国会側(原告)が勝つことは、全ての国民にとって有益であると考えています。

2 憲法秩序を取り戻す裁判

昨年(2017年)の通常国会では、共謀罪の審議と、森友学園・加計学園問題の追及が注目されていました。当初は通常国会の会期が延長される気配もありましたが、延ばせば延ばすほど追及される要素が増える状況にあったことから、延長なしで通常国会は閉じられました。当然、野党は反対しました。

野党はすぐさま臨時国会の召集を求めましたが、安倍内閣と、その母体である与党はこれを無視し続けました。

仮に、憲法が「20日以内に召集しなければならない」と明確に書いていたらどうでしょうか。その場合、召集されたら開くしかなくなるので、臨時国会より前の場面、つまり、通常国会の会期を延長するかしないかの場面で変わったはずです。安倍内閣と与党は「会期を延長せずに強引に閉じても、すぐに臨時国会の召集を要求され、20日以内に召集しなければならなくなってしまう。仕方がないので、野党がある程度納得するまで会期を延長しよう」と考えたはずです。

このように、臨時国会の召集要求すら無視できる状況というのは、時間さえ稼げば野党を無視して審議を打ち切れることを意味します。憲法が、4分の1以上の国会議員に召集要求権を認めた趣旨と真逆のことが現実化しています。

この裁判では、憲法に明記はされていないけれど、臨時国会の召集要求がされたら、20日以内に召集しなければならない義務が内閣にあることの確認を求めています。裁判所にそう判決してもらうことで、憲法が予定していた姿に戻す、すなわち憲法秩序を回復したいという考えです。

なお、こういった請求を公法上の確認訴訟というのですが、確認の利益の有無という難しい論点をはらんでいるので、念のため国家賠償訴訟を合わせて提起しています。しかし、原告ら国会議員はお金で償ってほしいわけではありませんので、請求額は一人あたり1万円にしています。

3 20日以内に召集しなければならなかった

憲法53条は、「何日以内に」という期限を明示していません。内閣法制局も「合理的期間」内に召集する義務があるとしか言っていません。しかし、原告らは20日以内に召集しなければならないと主張しています。その理由は、主に3点です。

ア 期限が明記されていない他の規定

憲法には、期限が明記されていない規定がいくつかあります。訴状で指摘したのは、以下の4つです。どれも日数は書いていませんが、速やかに実施されることが予定されていることは明らかです。合理的な期間を超えて放置されることは予定されていません。

a 憲法改正の国民投票が終わった後、承認された改憲案を天皇が公布するまでの期間

b 新しく内閣総理大臣が選任する結果がでた後、天皇が内閣総理大臣に任命するまでの期間

c 逮捕されたときに逮捕理由を告知するまでの期間 & 勾留後、勾留理由の開示を求められたときに開示するまでの期間

d 裁判官に、報酬(給料)を支払うまでの期間

憲法53条も同じで、期間が書いていないから、いつやってもいい、放置してもいいなどという解釈は成り立ちません。上記のとおり、速やかにされるべきだし、合理的期間を超えて放置されることは予定されていません。

イ 総選挙の後でさえ30日

自由に放置できるわけないなら何日間なのか?それへの答えが20日です。その理由は、憲法の次の定めにあります。

憲法54条は、衆議院の総選挙が行われたときは、選挙の日から30日以内に国会を召集しなければならないと定めています。選挙により、新しく国家議員になる人がいるのですから、多少の事務作業が発生します。その場合でも、憲法は30日以内と定めています。一方、臨時国会の召集の場合は、新しい国会議員はおらず、従前の国会議員を集めるだけですから、総選挙のときより事務作業が楽です。そうすると、30日を超える理由は全くありません。30日より短い期間、20日と解するべきでしょう。

ウ 自民党改憲草案

自由民主党は2012年に憲法改正草案を発表し、その中で、臨時国会の召集が要求されたら20日以内に召集しなければならない、という改憲案を示しています。

ご存じのとおり、自由民主党は、戦後我が国の政権の多くを担ってきた大政党です。その大政党が、長年の実務経験に基づいて、20日以内なら守れる、実施できると公式に表明しているわけです。そうである以上、20日以内だと解したとしても、何ら酷ということはありませんし、実務上も問題が生じないことは明らかです。

4 今の政治への影響

現在(2018年)国会では、2017年と全く同じ状況が起きています。

森友学園・加計学園問題の追及がされているのも同じなら、会期末(6月20日)が近づくほどに追及のネタが増えています。与党は会期を延長せずに閉じるためにスケジュール立てをしていると報じられています。野党は反対するでしょう。仮に会期を延長せずに強引に閉会するなら、野党はすぐに臨時国会の召集を要求するでしょう。

このように、昨年と全く同じ状況が、今国会で起きています。臨時国会の召集要求がされたときに、安倍内閣が、再び憲法を無視するのか、それとも裁判の提起等を踏まえ、踏みとどまるのかという場面が来月やってきそうです。

なお、今回の裁判に近い裁判が2月26日、岡山地方裁判所に提起されています。裁判提起から3ヶ月も経つのに、いまだに、国からまともな反論は一つもだされていません。反論をだすのは7月末まで待ってほしい、というのが、国の代理人が裁判所で言ったことです。

昨年の行為を正当化する理由すら示せないのに、再び憲法を無視することは絶対に許されない、私はそう思います。

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